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第181ターン目 キラーマシーン アタック

 「なーにこれー?」


 カーバンクルを追った先で、バッツは呆然(ぼうぜん)と辺りを見渡した。

 リッチキングの間へとたどり着いた彼らは、その複雑怪奇な空間に驚嘆する。


 「面妖な……空中回廊か?」

 「ここだわ……やっぱり」


 一方まるで合点がいったという顔をしたのは魔女カムアジーフである。

 彼女は豊満な胸を腕で持ち上げると、ある確信を得た。


 「私が迷い込んだ第八層はここだわ」

 「カムアジーフ殿、ここを知っているので?」

 「詳しくはないけど、まぁ油断せずに行きましょう」


 そう言って魔女は拳を握り込んだ。

 バッツはやや不安げに魔女を見つめる。

 その視線に不機嫌さを現にすると、直ぐに顔を背けて。


 「なによバッツ、なんかあんの?」

 「うーんー、別にー」

 「ふん! 警戒を怠るんじゃないわよ!」

 「小官飛んで確認してみるであります」


 フラミーは翼を広げると浮上する、しかし直ぐに彼女はある異変を肌身に感じた。


 「な、なんであります……身体が浮いて……わわ!?」


 それは浮遊感、フラミーは無重力を感じると、一瞬で重力反転する。

 彼女は真上に仲間を見上げ、啞然(あぜん)と口を開いた。


 「これは、なんなんでありますかー」

 「ちょっとー軍人、大丈夫かにゃー?」

 「あっ、小官は平気でありますよクロ様!」


 重力が滅茶苦茶。

 だけに留まらずここは空間も、下手をすれば時間も無茶苦茶だ。


 「空間が安定していない、時間に悪影響が出ていないでしょうね?」

 「それってどういうことー?」


 バッツの質問に魔女は淡々と答える。

 杖をまるで空間に突き刺すようにして。


 「この空間は複雑な折り紙ってこと、光が真っ直ぐ進まないほどにね、空間は時間と影響しあうの、だから時の流れがおかしくなるかもね」

 「うにゃー、時空理論だったかにゃ? さっぱりわからんにゃあ」

 「そのうちじっくりレッスンしてあげるわ、さて、見つけたわよ」

 「見つけたとは……?」


 ハンペイは頭にクエスチョンマークを浮かべると同時、魔女は杖を空間にねじり込むと、そのまま手を差し込み、押し広げる。

 ギョッと目を見開くも、彼女は空間に出来た歪みに入ると、平然と手で招いた。


 「こっちよこっちー」

 「か、カムアジーフ殿、入っても大丈夫なのか?」

 「相手のルールに従ってやる理由はないわ、ショートカットするわよ」


 魔女が完全に消えると、続いてバッツとカーバンクルが歪みに入っていく。

 ハンペイは非現実的な光景に頭を抱えた。

 後ろからカスミが肩を叩くと、諦めろと言うように首を横に振る。


 「ままならんか、フラミー殿、こっちだー!」


 彼はフラミーに叫ぶと、歪へ入る。

 目の前には極彩色の空間、思わず吐きそうな気持ち悪さがある。

 だがそれも一瞬、一行は丸い円形の舞台の上にいた。


 「ここは……」

 「上からくるぞ、気を付けろー!」


 魔女が周囲を見渡している時、バッツが叫んだ。

 舞台の中央に突然ズシィィンと金属ボディのなにかが落ちてきた。


 「にゃにゃ!? カラクリロボかにゃ!」


 重たい身体で着地したロボットはゆっくり上体を持ち上げると、赤い三点ターレットカメラが不気味に焦点を絞り、一行を覗き込んだ。

 青い金属のボディ、右腕部に奇妙な杭を装備し、大木のように太い脚部にはローラーがある。


 「なによこいつ……?」

 「【キラーマシーン】だ! 気を付けろー!」


 バッツが叫ぶと同時、キラーマシーンと呼ばれるロボットはキュイイイと音を立てて猛スピードで突進してくる。

 一行は素早く散開、キラーマシーンはターレットカメラを動かしながら標的を探す。

 標的に選ばれたのは魔女であった。


 「ちぃ! やろうっての、上等じゃない!」

 「いかんカムアジーフ殿!」


 キラーマシーンは猛スピードで魔女に向かうと、大きな腕を振りおろした。

 間一髪、ハンペイは魔女を抱きかかえて、難を逃れる。

 キラーマシーンが叩いた地面は大振動を起こした。


 「ありがとハンペイ! 反撃よ、こういう手合いの弱点はこれかしら! 《炎の嵐(ファイアストーム)》!」


 金属の装甲で覆われたボディには炎が有効と判断した魔女は、炎の嵐でキラーマシーンを包み込む。

 だがキラーマシーンは周囲をローラーで回転しながら、左腕部に装備されたバルカン砲を乱れ撃った。

 魔女は慌てて屈み込む、頭上を殺人的な速度で鉛玉が過ぎ去った。


 「きゃあ! 無茶苦茶しやがってー!」

 「カッカしては相手の思うツボでござろう」

 「……そうね、その通りだわ」


 炎が鎮火されると、キラーマシーンも動きを止める。

 一時的なオーバーヒートか、ともかくその隙にバッツは豊穣の剣で斬りかかった。


 「とりゃあ!」


 キラーマシーンはすかさず標的をバッツに変更、斬撃は肩装甲の破壊に留まった。


 「当たりが浅いわ!」

 「にゃあ、なら何度でもにゃあ、《捕縛の糸(バインドウェブ)》!」


 キラーマシーンの周囲に浮かぶ魔法陣から、アリアドネのより糸が飛び出す。

 キラーマシーンは両手両足を拘束され、暴れるがそう簡単には解けそうにはない。


 「よし、これなら!」


 再びバッツは剣を構える。

 だが飛び出した刹那、キラーマシーンは腰に内臓するヒートブレードを射出し、その熱でアリアドネのより糸を焼き溶かす。

 キラーマシーンはヒートブレードを手に素早い二連撃をバッツには放った。


 「なんでもありな訳ー!?」


 キラーマシーンの素早い二連撃をなんとか剣で防ぐバッツ、しかしその性で踏み込めない。

 キラーマシーンは更に追撃、ヒートブレード一刀両断!

 バッツは盾を構える、と同時に手放す。

 盾が一瞬で断ち切られた。


 「まずいであります! 《赤竜の爆炎(ドラゴンブラスト)》!」


 右手から放たれる強烈な爆炎が、キラーマシーンの背中を吹き付ける。

 キラーマシーンはローラーダッシュでその場を離れ、フラミーを捉えた。

 フラミーは真・ドラグスレイブを両手で構える。


 「かかってくるであります!」


 キラーマシーンは突貫、しかし竜の威はその程度は怯みはしない。

 彼女はまるで大剣を扱うかのように、ドラグスレイブを振りかぶると、乾坤一擲(けんこんいってき)振り下ろす。

 キラーマシーンもまたヒートブレードを振るった。

 剣はキラーマシーンの方が速い、ヒートブレードがフラミーの胴を捉えると、そのまま溶断……しない!


 「ドラゴンの熱耐性を甘くみるなでありますー!」


 彼女はお構いなしにドラグスレイブを頭頂部から叩きつける。

 赤いカメラレンズが破砕すると、キラーマシーンは混乱したように回転しだす。

 一方、フラミーは膝から崩れ落ちると、ニヤリと笑った。


 「はぁ、はぁ、ざまぁみろであります!」

 「フラミー無茶しちゃだめよ!」


 魔女は直ぐにフラミーに駆け寄った。

 炎ダメージが無効でも、衝撃は無効じゃないのだ。

 フラミーは(アバラ)を数本折っており、口から熱い血を吐く。

 彼女は残りの仕事を魔女にバトンタッチした。


 「魔女殿、どんなカラクリも内部構造は脆いものであります!」

 「ッ、魔導神よ、万雷の槌、大地さえ切り裂け《雷霆の怒り(トールハンマー)》!」


 青白いスパークが巨大な(つち)となり、キラーマシーンの頭上に浮かぶ。

 彼女は杖を振り下ろす、トールハンマーはキラーマシーンをぶっ叩いた。


 バチバチバチィ!

 キラーマシーンは凄まじい電撃に晒されると、魔女に右腕を向ける。

 不気味な(パイル)は魔女に向かって音速で射出される。

 このままでは相打ち、魔女は心臓に金属の杭を突き刺し絶命するだろう――だが。


 ズガァァン。

 右腕が大爆発、杭が魔女を串刺しにする一瞬前に真横に吹き飛んだ。

 キラーマシーンは脚から崩れ、機能停止。

 黒煙を放ち、スクラップになった瞬間だった。


 「……たく、なんだったのこの化け物?」


 魔女は無残に落ちた杭を見て、溜息(ためいき)()いた。

 ちょっとでも判断が遅かったら死んでいたのは魔女だったろう。

 これほどの難敵、バッツは魔女に駆け寄りながら答える。


 「対勇者用に開発された人型決戦兵器だったと思うー、昔一度戦って、パーティが半壊したよ」

 「だからアンタがあんなに声を荒げたのか」


 ――気を付けろー!

 あんなにバッツが慌てたのは珍しく痛快でもあった。

 魔女は満面の笑みを浮かべると、フラミーに肩を貸して立ち上がる。


 「竜人の身体に感謝ね、普通丸焼きか一刀両断よ?」

 「えへへ、多分いけると思ったであります……痛たたた」

 「しばらくフラミーは戦闘不能ね、厄介だわ」


 敵の姿は今はない。

 カスミも無言であり、一旦態勢を整える必要があるようだ。

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