第174ターン目 猛吹雪が 一行を 苦しめる
ビュオオオオ!
第八層へと向かう階段を降りていくと、凄まじい冷気が閉鎖されている階段内に立ち込め始めた。
猛吹雪の風音まで響き、ボクは息を吐く。
「まるで真冬ですね、吐いた息が白い」
ボクの吐息も凍りつくほど。
思わず手を擦りなんとか暖をとろうとするが。
「うぅ寒い」
「駄目ね、やっぱり鈍感になっているわ」
ボクが寒がっていると、魔女さんは逆に溜息混じりに首を振った。
魔女さんは薄着で青肌がやたらと露出しているが、まったく寒そうにない。
むしろ見ている方が寒いくらいだな。
「にゃあ魔女の身体って暑さにも寒さにも強いんだにゃあ」
「そういうクロちゃんは平気?」
「平気なものかにゃ! 今夏毛にゃあよ、まだ換毛期じゃないにゃあ!」
地上は今夏だから、クロの毛も夏毛。
このまま第八層に入ると凍死しちゃいそうですね。
とはいえ、もっと問題ありそうなのは。
「うううう、寒いでありますー」
「あの、大丈夫ですか?」
全身を擦って寒さに耐えるフラミーさん。
それを心配そうに見つめていたのはリリーさんだ。
そう言えばリリーさんも黒いローブの下は夏物の洋服ですが、寒くないのでしょうか?
「リリーさんは平気なんですか?」
「あっ、えと……さ、寒さには強いんです」
「う、ううう、羨ましいでありますなぁ……さぶぶぶ」
「……早急に対策いるわね、これは」
魔女さんはとんがり帽子を手で押さえると、思案する。
こういう時は魔女さんの知恵か。
「とりあえず皆に間に合わせの魔法を授けるわよ」
そう言うと彼女は魔法を詠唱し、それぞれの頭に杖を載せていく。
【炎の加護】の魔法だ。
「本来は氷とか水の魔法ダメージを減少させる魔法だけど、多少寒さに強くなるでしょう」
「わぁー暖かくなりましたっ」
ボクは寒さが遠のくと、手を叩いて喜ぶ。
フラミーさんも震えを止め、少しだけ表情が綻んだ。
「しかし案の定軍人さん、寒さに弱いかー」
「フラ君レッドドラゴンだもんね」
「何事も用心するしかないでしょう」
「そうですね、あっ、見えてきましたよ」
階段の終わりが見えた。
第八層、人類の最終到達エリア。
そこは一面真っ白な極寒のエリアでした。
さながら大雪原です。
銀世界なんて生温い、まさに猛吹雪。
「皆さん用心して進みましょう!」
ボクたちは勇者さんを先頭に雪原へと足を踏み入れた。
視界は酷く悪い、数メドル先でさえホワイトアウトして何も見えない。
それはすぐ先頭の仲間たちでさえ掻き消えるほどだ。
「これは、ちょっと不味いのでは?」
寒さを物ともしない彷徨う鎧な勇者さんの歩行は速い。
ボクは一度止まるように声をかけるが。
「勇者さん止まってー!」
「え? なに全然聞こえなーい!」
駄目だっ、風の音が煩すぎる。
ここは海エリアとは別の意味で厄介だぞ!
「うー!」
突然後ろからキョンシーのカスミさんがボクの腕を引っ張った。
彼女は唸っている、それってつまり。
「なにか来ます! 皆さん備えてー!」
ボクは背一杯声をあげた。
そうしないと連携が取れない。
一か八か洗浄でここ一帯のブリザードを消すという選択肢もあるけれど、やったら即精神喪失だな。
これは最終手段だ、ともかく今は状況判断だ。
ズシン、ズシン。
正面からなにか重たい物が近寄ってくる。
四角い角張ったシルエット、やってきたのは全身が氷で出来たゴーレムだ。
「【アイスゴーレム】です! 気を付けて」
「気を付けろたって、やらなきゃやられるでしょうが! 《炎破》!」
すぐ近くにいた魔女さんは炎の爆発をアイスゴーレムにみまう。
アイスゴーレムは仰け反る、効果はバツグンだ、だが。
「ゴゴゴッ!」
アイスゴーレムの大爆発!
無数の氷塊が周囲に飛び散る。
この技は……!
「くぅ! 《爆裂破砕弾》か!」
ボクは直撃をなんとか防ぎ、身を守る。
魔女さんは手痛い反撃に片膝をついた。
「魔女さん大丈夫ですか!?」
「やってくれるじゃない……これだから魔物ってやつは嫌いだわ」
爆発したアイスゴーレムは再び元に戻る。
アイスゴーレムもまたコアを破壊しない限り倒すことは出来ない。
「勇者さんお願いします、コアに!」
聞こえているのか聞こえていないのか、勇者さんは既に豊穣の剣を片手にアイスゴーレムを切り裂いた。
本来の力を取り戻した豊穣の剣はすさまじくアイスゴーレムが斜めに切り落とされる。
それは正確にコアさえ切り裂いていた。
「すごい、一撃だ」
「ああいう奴よね、元に戻る時にちゃんとコアも目視で確認していたんでしょ?」
勇者さんの動体視力はずば抜けているからこその芸当か。
ともかく一難は去った……でも。
「どうしましょう、全然周囲の状況がわかりません、命令伝達にも弊害が」
「全員手を繋げー!」
魔女さんが突然叫ぶ。
ボクは言われたとおり魔女さんの手を掴み、反対は勇者さんの手を。
「この状態で進むわよ」
「えー? カム君、これだと速度が落ちるよー?」
「このスカポンタン! アンタに合わせたら皆逸れるでしょうが!」
「確かにこれは難儀であるな」
一番後ろハンペイさんも同意する。
ていうか、ハンペイさんなんかもう姿さえ見えなかったよ。
このエリアやばい、なにか攻略法はないのか。
「キュイ? キューイ!」
突然足元にいたカーバンクルが大きな声で鳴く。
カーバンクルは直ぐに走り出した。
「あっ、カーバンクルどこ行くの!」
慌てて進路変更、カーバンクルの後ろを追いかけると、大きく口を開けたトンネルが見えた。
「……とりあえずあの中に避難ね」
魔女さんの言葉にボクも頷く。
トンネルの中は広い、なんとか吹雪も凌げそうだ。
ボクたちは腰を下ろすと、ここからどうやって攻略するか論議するのだった。




