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第17ターン目 ここで 休息を とろう

 「そろそろ休憩が必要じゃないかなー?」


 エルフ族の女性のキョンシーさんを仲間に加えてから、体感時間で三時間は経過していた。

 如何(いかん)せん初めての突入エリアで、地図作成(マッピング)もまともに済んでいない有様では、上り階段を見つけるのも一筋縄ではいかない。

 結局は勇者さんの言うとおり、この第六層でボク達は休息を取ることを余儀なくされるのだった。


 「薪とか、持てる分は持ってきていますけれど」


 ボクは背中に(ひも)で結んで、背負っていた薪材を見る。

 あまり前には出ないから、ボクは今の所荷物持ちだ。

 あんまり力がないから、多くは運べないのが欠点だけど。


 「食事の方もどうにかしないといけないわねー」

 「あ、あはは……また魔物飯ですか」


 魔物飯と聞くと、元々青い顔を更に青ざめさせて魔女さんはガタガタ震えた。


 「ううう、私はなんてものを……死にたい!」

 「気持ちは痛いほど理解(わか)ります……ですが背に腹は代えられないかと」

 「プライドでお腹は膨らまないとも言うわね」

 「二人はいいよなー、俺なんて口が無いから食べる事も出来ないんだぜー?」

 「なんかムカツクこと言われた気がする、杖で殴ってもいい?」

 「()めてください、流石に勇者さんが可哀想です」


 勇者さんは見ての通り動く全身鎧であるリビングアーマーだから、口なんて存在しない。

 そういえば魔物って、食事しない種が多いって聞いたけれど、魔女さんはどうなんだろう?


 「魔女さんはお腹は空きましたか?」

 「それがあんまり、考えてみればこのダンジョンで気がついてから食事したのはあのポイズンフロッグの脚だけだわ」


 あからさまにどんよりした顔で彼女は首を左右に振った。

 逆に必要なさそうなキョンシーさんはどうかな。


 「キョンシーさんはお腹空きます?」

 「うー?」

 「アンデットよ、代謝が止まっている以上空腹とか縁がないんじゃないかしら?」

 「でもゾンビは人を食べますよね?」

 「あれはお腹空いているから食べている訳じゃ……」

 「かゆ、うま?」


 勇者さんの意味不明な言葉、勇者さん自身首を傾げている。


 「ねぇマール、アレってバカにされたのかしら?」

 「いいえ、彼自身も意味がわかっていないみたいです。因みにボクにもわかりません」

 「とりあえず食べられそうな魔物見つけてくるからー」


 勇者さんはそう言うと、その場を離れてしまう。


 「あっ、オークの肉は絶対駄目ですよーっ!」


 勇者さんならオーク肉を平然と差し出して来そうな怖さがあり、ボクは思いっきり叫んだ。

 流石に亜人を食う勇気はない。

 それ以前に魔物ってだけで、相当覚悟がいるのに。


 「それじゃこっちは火の準備でもしましょうか」

 「ですね」


 ボクは薪を燃えやすいように配置し、魔女さんが魔法で着火する。

 ダンジョンの中は寒い訳でもないけれど、やっぱり焚き火の炎って心が落ち着くんだよね。

 揺らめく炎を見ているだけでも、心は落ち着く。

 パチパチって、時々火花が弾ける音も心地良い。


 「にしてもクロってば目覚めないわね、もう丸一日眠っているんじゃ」

 「確かに……」


 今クロはキョンシーさんのふとももの上で眠っている。

 地べたよりは良いだろうという配慮だけど、キョンシーさんの身体もやっぱり冷たいかな?


 「まぁ、一休み出来るなら、お姉さんの魔力を分け与えてみようかしら?」

 「え? 魔力を分け与えるって?」

 「私くらいになれば、そういう魔法も持っているのよ。《魔力譲渡(マレクタ)》」


 初めて見る魔法だ。

 魔女さんの虹色の魔力がクロに分け与えられる。

 クロはピクリと身体を動かす、しかし。


 「不味(まず)いにゃああああ! ぺっぺ! なんて不味い魔力にゃあ!」

 「クロ? おはよう」

 「ふにゃあ? 主人……て、この女(だれ)にゃーっ!?」


 クロが目覚めた。

 そしてクロの当然といえるツッコミ。

 良かった、いつものクロが帰ってきた。

 ボクは一先ず安堵すると、キョンシーさんをクロに説明する。


 「名前が判らないからキョンシーさんって、相変わらず主人のネーミングセンスは最悪にゃあ」

 「うう、(ほか)に良い呼び方が思い浮かばないんだもん」

 「そういえば貴方、私のこと、カムアジーフって言ってくれないわね」

 「名前で呼んだほうがいいですか? ちょっと馴れ馴れしいんじゃ?」

 「まぁどっちもでいいわよ、私は気にしないし」


 魔女さんは呼ばれ方に拘りはないみたい。

 まだ女性を名前で呼ぶのは少し躊躇(ためら)いがあるな。

 ボクって奥手だから、クロはそんなボクを見て辟易(へきえき)していた。


 「(ひと)が眠っている間に、気がつけば大所帯にゃあね……なんの因果か」

 「うー」


 突然キョンシーさんはクロを持ち上げた。

 ビックリしたクロはキョンシーに振り返ると手足をジタバタ振り回す。


 「いきなり持ち上げるとは失礼な奴にゃあ! お前にも躾が必要かにゃあ!? 後輩!」

 「うー」


 後輩扱い、キョンシーさんは使い魔じゃないんだけど。

 それにしても命令もしていないのにどうしてキョンシーさんが動いたんだろう?


 「キョンシーさん、クロを降ろしてあげてくれませんか」

 「うー」


 キョンシーさんは言われるがままクロを降ろす。

 硬い地面に着地したクロは思いっきり背伸びして、身体を(ほぐ)した。


 「うーん! それであの鎧馬鹿は食料を採りに行ったとにゃあ?」

 「うーん、結構時間掛かっているなー」

 「変な物持ってきたら絶対に許さないにゃあ……!」


 ……これはもうポイズンフロッグを食べたことは、隠し通した方が良さそうだ。

 事実を知ったら、きっと烈火のごとく怒るだろう。

 勇者さん、無自覚に人を怒らせるところあるからな……。

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