治癒術士のボクがダンジョンから脱出を目指す、だが仲間がなんかおかしいし、気がつけば世界は救われる？

第七層 魔窟エリア編

156ターン目 トードナイトらの攻撃

　「そう言えば魔法使いちゃん、貴方戦力として勘定できるの？」

　「魔法使いちゃんって、私ですか……えと、力量はあると思いますが」

　冒険を開始して早速、魔女さんはリリーさんに質問する。

　同じ黒魔法系の魔法使い、リリーさんの実力が気になっているのだろう。

　「あんまり無理しちゃ駄目ですよ、足だってまだ完治したわけじゃないんですから」

　「で、でも歩ける程度には回復したので」

　リリーさんはそう言うと、足は大丈夫だとアピールする。

　ボクはお医者さんじゃないから、はっきりしたことは言えないけれど、無理と無茶だけは厳禁だ。

　「ごめんなさいリリーさん、本当は地上まで送り届けたいんですけれど」

　「いいえ、同じ冒険者ですから、同行させてくださいませ」

　「そのままダンジョン制覇まで一緒だったりねー」

　途中で仲間になったのはフラミーさんも同じだけれど、リリーさんは怖くないのかな？

　感性は大分まともというか、常識人な気がする。

　勇者さんとか魔女さんには、最初は思いっきり怯えていたくらいだもん。

　「で、階段は見つかった？」

　「いいや、全然」

　「地道に探すしかあるまい」

　安全地帯を抜けるとまた通路、小部屋と続く。

　魔物の出現は今のところないけれど。

　「奇妙ですね、昨日はわんさか出会った魔物が今日はいません」

　「カスミも反応無しだし、楽でいいにゃあ」

　「とか言っていると、モンスターハウスに会うとかね」

　あはは、ボクは苦笑する。

　モンスターハウスはダンジョンの名物、このパーティも一度リビングアーマーのモンスターハウスに襲われたっけ。

　第七層ともなると、どれだけエグいモンスターハウスになるのか。

　「うーん」

　突然勇者さんが足を止める。

　一体どうしたのか尋ねてみると。

　「足元が水没している」

　「え……げ」

　勇者さんの指摘、魔女さんは露骨に嫌な顔をした。

　「深さは……あまり深くはないようですね」

　水の深さを測る為に杖を突っ込むと、大凡足首より少し上くらいまでだろうか。

　試しに勇者さんが踏み込むが、バシャバシャ音を立てる程度だ。

　ボクは通路の奥を見定める。

　通路先には壁が無く、ただ湿原が広がっていた。

　「これって……第七層にはこんな顔もあったんですね」

　「で、どうするのさ……突っ切るの？」

　魔女さんは目くじらを立てる。

　濡るのは嫌いという顔だ。

　かと言って以前やったように水上歩行の魔法を使うには水深は浅い。

　ここは我慢するしかないだろう。

　「行きましょう、どの道階段がどこにあるかわからないんですし」

　ボクがそう進言すると、皆頷いた。

　念の為ボクはクロを抱きかかえる、クロだと溺れちゃうからね。

　「カーバンクルはお姉さんと一緒にきなさい」

　「キューイ？　キュイ！」

　魔女さんはカーバンクルに手を伸ばす。

　だけどカーバンクルはそれを嫌がり、ボクの背中を登ってきた。

　「あはは、ちょっと大変ですけれど頑張りましょう」

　「はぁ、なんでこんなに嫌われるの私って」

　やっぱり魔物だからかしら、魔女さんは真剣に悩む。

　本来ならエルフの方が好かれやすい筈だけれど、ハンペイさんもカスミさんも見向きもされないね。

　カーバンクルは本能的に魔物を嫌っているのだろうか。

　「慎重に進みましょう」

　「オーキードーキー」

　「周囲の警戒も怠らぬよう」

　ボク達は湿原へと足を踏み込む。

　水面には浮き草や半分水没した樹木が散見される。

　水の流れはない、【海上エリア】と違い、超巨大な水溜りのようだ。

　当然魔物も種類が変わる可能性がある。

　周囲を警戒していると、突然カスミさんが唸りだした。

　「うー！」

　「えっ？　敵ですか……どこに!?」

　湿原は湿度が高いからか視界はあまり広くない。

　だが正面からバシャバシャと音を立ててなにかが迫って来た。

　ようやく姿が分かる距離まで近づくと、二足歩行するカエルだった。

　「【トードナイト】だ！」

　よく見るとカエルは兜に胸当てを装備している。

　手には剣を持ち、丸いバックラーまで装備している。

　「にゃあ、一匹じゃないみたいにゃ」

　クロは周囲に目配せすると、髭(ひげ)を揺らす。

　左右取り囲むように、出現したのは魔法使いの格好をした二足歩行するカエルだ。

　「【トードウィザード】か……それも二匹」

　トードナイト一匹にトードウィザード二匹。

　さながら魔物のご一行(パーティ)だ。

　「ゲコゲコ！」

　真っ先に機先を制したのはトードナイトだ。

　トードナイトは勇者さんに狙いを定める。

　それと同時、距離を取るトードウィザードが鮮やかな連携を見せ、魔法を詠唱した。

　「ゲッゲコー！」

　トードウィザードの手に握られた杖から水鉄砲(ウォーターガン)が襲いかかる。

　ボクは咄嗟に聖なる壁の魔法を詠唱する。

　「豊穣神様、か弱き我らをお守りください《聖なる壁(ホーリーウォール)》！」

　咄嗟にドーム状に展開する聖なる壁は、水鉄砲を弾く。

　だけど、思ったより威力があり、聖なる壁は一撃で決壊した。

　「おし、よくやったマール、後はお姉さんに任せなさい！　《雷の矢(ライトニングアロー)》！」

　魔女さんの杖から放たれる紫電は、矢となりトードウィザードの頭部を貫く。

　そのままトードウィザードは全身を痺れさせ、黒煙を口から放って後ろに倒れた。

　「ゲコゲコ!?」

　もう一匹のトードウィザードは直ぐにもう一度魔法の詠唱に入った。

　だがそれをクロが許すはずもなく。

　「その力、使い魔クロが封じる《精神妨害(マインドブレイク)》にゃ！」

　魔法の集中力を削がれたトードウィザードは魔法の発動に失敗。

　そんな隙見逃すはずも無く、カスミさんが突撃した。

　「うー！」

　カスミさん渾身の蹴り上げが、トードウィザードの顎に叩き込まれる。

　トードウィザードは巨体を浮かび上がらせた、そのまま更にカスミさんは飛び上がり、華麗な蹴り落としがトードウィザードを水面に叩きつける。

　トードウィザードはそのまま動かなくなった。

　「み、皆さんお強いですね」

　戦いをボクの後ろで見守っていたリリーさんは困惑していた。

　ボクはリリーさんを庇いながら周囲を警戒する。

　「ええ、最高の仲間ですよ」

　前方ではトードナイトと勇者さんが切り結んでいた。

　トードナイトも手練なのか、勇者さんの剣をバックラーでいなし、鋭い剣の突きを見舞う。

　だけど勇者さんも並みじゃない、剣を鉄板兼盾で防ぐと、そのままトードナイトの顔面を殴り抜ける。

　たたらを踏んで後退するトードナイト、その一瞬が命取りだった。

　「とったぁ！」

　豊穣の剣が、トードナイトを袈裟懸けで切り裂いた。

　トードナイトは一撃で絶命すると、水面を赤く染めあげる。

　「皆さんお疲れさまです」

　もう敵の姿も見えない。

　ボクは安堵すると、警戒を解く。

　トードナイトにトードウィザード、油断すると手痛いダメージをもらっていたかも知れない。

　やっぱり七層の魔物は油断出来ないな。

　「キュイー」

　「うん、カーバンクルどうしたの？」

　「うー……！」

　カスミさんが小さく唸る。

　そしてカーバンクルの警戒、この二つに符号するのは。

　その時、カスミさんに赤い光点が張り付いているのに、ボクは気がついた。

　なにかやばい、そう思った時、爆発が起きる。

　「うー!?」

　カスミさんが吹き飛ばされた。

　ボク達は瞬時に警戒する。

　予想外、一体どこから魔法が!?