第14ターン目 ストーンゴーレムの こうげき!
「ゴオオオオオオオオオオ!」
ストーンゴーレムは揺らめく青い光を両目に灯し、謎の咆哮を上げる。
体長はボクの優に十倍、これはストーンゴーレムの中では最大級の個体では!?
なんて悠長にしている暇はないっ!
「マール、こいつ爆発する!?」
「そういう技はあるって聞いたことはありますけれど!」
ボクは大慌てで後ろに下がる。
ストーンゴーレムに殴られたら、ボクなんて一溜まりもない。
ストーンゴーレムは肉弾戦が主体で、時々身体をバラバラに弾き飛ばして全方位を攻撃すると聞いた事がある。
《爆裂破砕弾》……だっけ?
とにかく、危険極まりない魔物だ。
「見た目的には炎は効きづらそうね、ならやっぱり水や冷気か。《水流竜巻》!」
魔女さんの強力な黒魔法は、ありえない巨体を誇るストーンゴーレムでさえ水の渦に飲み込んだ。
ストーンゴーレムは身動きが取れず、身体をジリジリ削られる。
そこへ勇者さんは飛び込み、胸部に一閃。
「やった!?」
「ちょっと届かない!」
「鎧の悪魔! それで十分よ!《水鉄砲》!」
言葉は通じないのに、息は合っている。
勇者さんは、ストーンゴーレムの胸部に亀裂を入れ、そこに魔女さんの次なる魔法が放たれる。
超高圧縮された水鉄砲は細い線を描き、亀裂に突き刺さる。
「ゴ、ゴ……」
ズドォォン!
巨体が砂煙を上げて倒れた。
うわ、あっさり倒しちゃったよ、この二人。
やっぱり桁違いに強いんだな。
「ゴーレムってんなら、コアを破壊すれば止まるもの、私の知っているゴーレムと大して違いは無かったわね」
魔女が使役する使い魔にはしばしばゴーレムの名前も聞く。
魔女さんも使い魔とかいたんだろうか。
「魔女さんって、使い魔はゴーレムだったんですか?」
「いいえ、私は使い魔はいないわよ。なんとなく遠慮していたのよね」
「そうなんですか?」
「そうなのよ、それより先に進みましょう」
ボクは頷く。勇者さんにも合図を出して、とにかく次の階段を探した。
「そういえば勇者さん、この階層は詳しいんですか?」
「ううん、全然知らないっ」
まるで遠足を楽しむ子供のように返事するな。
いや実際分からないでもない、ボクだって未知のフィールドには怖さもあるけれど、ワクワクだってするからね。
「とはいえ、あんなのが大量にいるなら、私も精神力管理はしっかりしないと」
「流石にあのサイズの個体はそうそういないと思いますよ?」
魔法は使うだけで精神力を消費してしまう。
無闇に乱発すれば、ボクのようにぶっ倒れる。
魔女さんはボクと違って精神力も規格外の量を持っていそうだけれど、無限じゃないもんな。
「ふんふんふーん」
「……アイツ鼻もないのに、鼻歌歌ってない?」
「歌っていますね」
そういえばリビングアーマーって、どこから音が出ているんだろう?
「リビングアーマーってのは、魂を鎧に定着させて動かすのよね。ダンジョンってのは、こんな高度な魂の移植さえやってのけるのか」
「魂の移植ですか?」
「アイツの身体のどこかに、【血の呪印】があるはずよ。そいつを消せば鎧の悪魔もただの鎧ね」
「な、仲間を裏切るような真似は!」
「万が一よ、知っていると知っていないじゃ、知っている方が良いでしょ?」
やっぱり魔女さんは勇者さんのことをまだ疑っているんだ。
ボクは勇者さんには裏表はないと思うけれど、鎧の悪魔……一体何をしたんだろう。
勇者さんに聞くべきかな?
ううん、辞めておこう。
ボクは勇者さんを信じる、信じてあげたい。
「そういやマールの使い魔も使い魔よね」
「えっ? どういう意味ですか?」
「だから貴方とは魔力の相性があんまり良くないんじゃないかしら?」
使い魔はご主人の魔力を供給されて動く。
高度な知能、魔法の行使、黒猫がこれほどの動きが出来るのは魔力があってこそだ。
でも魔力の相性って一体?
「マールとクロ、魂の相性は良いみたいだけど、肝心の魔力がねー?」
「えと、ボクも使い魔には詳しくないんですけど、魔力の相性って?」
「波動とも言ってね、個人ごとに魔力って色が違うのよ」
魔女さんはそう言うと掌に魔力の渦を産み出す。
その色は七色に輝き、とても美しいものだった。
「貴方の魔力も見てみましょう」
そう言うと、魔女さんはボクの手を掴む。
ボクは少しだけドキッとするが、直ぐにボクの中からなにかが抜け出す感覚があった。
ボクの掌から出たのは白色の渦。
「これがボクの色ですか?」
「流石聖職者、綺麗な白、ううん。乳白色ね。豊穣神と同じ波動持ちだなんて、愛されているわね」
そうなのか。まるで乳牛から絞り出したミルクのような渦は、豊穣神様と同じ。
ボクやっぱり豊穣神の信徒なんだなー。
「とまぁ、こんな風に個人ごと魔力は色が違う訳、で相性っていうのはね?」
魔女さんはボクから手を離すと、まるで教師のように語り始めた。
もしかして魔女さん教えるのが好きなんだろうか。
「主に六色、この中に相性が悪いって言われる色があるの、白なら黒ね」
「クロは黒色の魔力なんでしょうか?」
「今は貴方と同じよ、でも元々の魔力はそうだったのでしょうね」
だとすると、相当クロには無理をさせていたんじゃないか?
そんな風にボクは落ち込んでいると、魔女さんはポンとボクの肩を叩いた。
「まっ、そんなに深刻そうな顔はしなくてもいいでしょう。なんだかんだやっていけてるんだし」
「でもクロは全然目覚めてくれませんし」
「クロ、貴方の下でとても幸せそうだったわよ、使い魔と信頼関係を築くのかは簡単じゃないんだから」
「えっ? それって?」
「使い魔に殺される魔女なんて何人も見てきたわよ、使い魔を道具と勘違いした愚か者の末路ね」
使い魔が主を殺す?
でもそれは使い魔自身の死でもあるのに。
自分が死んでも自由になりたい、使い魔にそれだけの業を背負わせる、そんな悪い魔女がいるのか。
「その点マールは知識も無いのが、功を奏したわね」
「そうなのでしょうか、ボクはずっと家族とは思っていましたけれど」
どちらかというと、お姉ちゃんかな、クロは。
とても世話焼きで、ボクのことには人一倍怒って、ボクがピンチな時はいつだって助けてくれた。
レッドドラゴンに襲われた時だって、勝てる筈もないのにクロは。
ボクは自分が情けない、クロにそこまでしてもらう資格があるのか。
クロの献身がいつか、ボクへの憎悪に変わるんじゃないか。
「おーい! 鎧の、そっちは異常ない!?」
「えっと、勇者さん、異常はありませんかー!」
気がつくと、少し勇者さんが先行していた。
勇者さんは少し先で足を止めている。
なにがあったのか、勇者さんは無言で手で招いていた。




