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第141ターン目 マッドハウスが 襲いかかってきた

 ピンク色の洋館、一階の大広間に一旦集まるとボクらはまずこれからを議論する。


 「さっさと地上に降りるべきよ」

 「一理あるでござるが、それぞれの疲労も馬鹿には出来ませんぞ」


 シュミッドさんの工房を出発して、もう少ない戦闘と探索を繰り返してきた。

 魔女さんは強行軍してでもこの天井都市エリアの突破を進言。

 しかしハンペイさんは、休息を提案する。


 「うーん、マル君はどうー?」


 勇者さんはボクの意見を(たず)ねた。

 うーん、ボクは顎に手を当てると今の状態から吟味する。


 「精神力(マインド)が少々心許ないですね」

 「であるならば休息を――」

 「でも行けるなら、ボクは進むべきかと」


 正直、休むにしても安全を確保したい。

 地上と天井、そのどちらにも危険はあるけれど、天井都市の危険度は未知過ぎる。


 「決まりにゃ、正直この内装も目が痛いしにゃー」


 クロは内装(すべ)てがピンク色で染め上げられたこの空間に辟易していた。

 かくいうボクもちょっとキツいかなー。

 女の子のオモチャみたいで、可愛らしいかも知れないけれど、過ぎれば毒というか。


 「おしっ、ハンペイも文句無いわね?」

 「……治癒術士殿が仰るならば従いましょう」

 「すいません、無理を言って」


 ボクは彼に頭を下げると、彼は手を振る。

 ニンジャとして、命令に忠実に従うことこそ、ニンジャマスターたるハンペイさんの意思だ。

 やっぱり凄いなと思う、パーティで意見が割れる時が一番面倒くさいもん。

 ボクは頭首(リーダー)としてはまだまだ半人前、間違った選択もあるかも知れない。

 それでも悔いのないように最善を尽くさないと。


 「けれど問題はだにゃ、入口以外に出口はあったかにゃ?」

 「ううん、ボクは見てませんね」

 「私も見ていないわね」

 「俺も俺もー」


 全員見つけてないようだ。

 となると入口だけれど、入口の外には一本道があるだけ。

 ここが終点なんだろうか。


 「おかしいわねぇ、シュミッドは降りたら西って言ってたのに」


 シュミッドさんは天井都市エリアに辿り着いたら、後は西に向えと教えてくれた。

 不安定な逆さ都市を進んでいくと、階段に出ると言う。

 ボク達はその階段を目指している訳だけれど。


 「どこかでルートを間違えたかにゃあ?」

 「可能性はあるわね……」


 あんまり信じたくないというように、魔女さんは首を振る。

 どの道選択肢がないなら、戻るしかない。

 ボクは閉じた入口に手を掛けると。


 「あれ? 開かない? え? ええ!?」


 ガチャガチャとドアノブを押したり引いたりするけれど、大扉はビクともしない。

 入るときは問題なかったのに、まさか鍵が掛けられた!?


 「うー!」

 「キュイー」


 カスミさんが唸りだす。

 カーバンクルは態勢を屈め、毛を逆立てた。

 ボクらは瞬時に警戒する、まだ敵がいるらしい。


 「たく……休む暇もないし!」


 突然天井から、糸で吊るされた人形が降下してきた。

 驚く間もなく人形は襲いかかってくる。


 「これは……さっきの魔物ー?」


 カミソリを握った人形の一撃を勇者さんは盾で弾き、流れるように剣で切り裂く。

 似ている、でもパペットマスターはもう倒したのに?

 いや、なにか違う、ボクは錫杖を両手に持って、襲ってくる人形を弾き飛ばす。


 「なんなんだコレは!? 面妖な!」

 「にゃあ! 数が多いにゃあ!」


 第一陣として降下した十体の武装人形。

 戦っている間にも第二陣、第三陣が降下してくる。

 業を煮やした魔女さんは、杖を掲げ詠唱する。


 「鬱陶しい、魔導神よ、真空なる刃、目の前の(すべ)てを断て! 《風刃の嵐(テンペスト)》!」


 魔女さんの杖から無数の真空の刃が荒れ狂う。

 人形をバラバラに切り裂き、糸をズタズタにし、壁に無数の切り傷が刻まれた。


 『グオオオオオオ! 冒険者ヨ、逃ガサンゾ!』


 「な、なになに!? この声って!?」


 それは突然家全体からくぐもるような声だった。

 声と同時、家の内装に変化が起きる。

 ボクは戸惑う、何が起きているのか検討もつかないのだ。


 「あー分かったー! コイツ【マッドハウス】だ!」

 「なによそのマッドハウスって!?」

 「家に擬態する魔物だよ! 俺達知らずに魔物の口の中に入っていたんだ!」

 『気付イタノガ遅カッタナ! サァ死ヌガヨイ!』


 足元から突然回転ノコギリが現れた。

 回転ノコギリは波打つ床を正確に張って迫ってくる。

 天井からは(なた)が降ってくる。

 ボクは咄嗟に聖なる壁の魔法を放つ。


 「ど、どうしますか!? このままでは全滅ですよ!」

 「相手の正体が分かったなら、簡単でしょう! ぶっ飛ばす!」


 魔女さんは杖を振り回すと、さらなる魔法の詠唱に入った。


 「魔導神よ、時の魔女たるカムアジーフが命じる、我らに仇なす者を灰燼と化せ! 《浄滅の炎(インドラの矢)》!」


 魔女さん必滅の魔法は、変化し続けるマッドハウスの内部に強烈な雷を振り下ろす。

 大振動、マッドハウスの中が炎上する……が。


 『グオオオオオオ!? マダダ! 貴様達ダケハ!』


 反撃というように細い糸が魔女さんを締め上げる。

 四肢(しし)を拘束された魔女さんは藻掻く、しかし藻掻けば藻掻くほど細い糸が食い込んだ。


 「くううう! このぉ!」

 「魔女殿、今助けに」

 『邪魔ヲスルナァ!』


 飛びナイフがハンペイさんを襲う。

 ハンペイさんは小太刀を構える。

 だがカスミさんが割り込み、飛びナイフを全て手刀で打ち落とす。


 「うー!」

 「かたじけない!」


 背中は守るから行け、とカスミさんは言外に語る。

 ハンペイさんは魔女さんを拘束する糸を一瞬で切り裂いた。


 「あでっ!? た、助かったわハンペイ」

 「なんの、魔女殿を守るのも某の務めなれば」

 『グヌヌヌ、オノレカクナルハ』

 「やいやいやい! マッドハウスだかマッドマックスだか知らないけれど、アンタ私が怖いんでしょう!」


 魔女さんは天井を見上げると、マッドハウスに言った。

 マッドハウスは動揺したのか、一瞬動きが止まる。

 しかし直ぐに逆上したように攻撃を激化させた。


 「にゃにゃあ! 煽ってどうするにゃあ!」

 「マール、皆を守りなさい!」

 「それはいいですが魔女さんは!?」

 「教えてやるわ、格の違いって奴をね!」


 魔女さんはその場から浮かび上がると、身体から七色の魔力が立ち昇った。

 彼女は詠う、魔法の祝詞(のりと)を。


 「荒ぶる暴風よ、天地を焦がす炎雷よ、天地鳴動ここに招来する! 《炎魔降臨(シャイターン)》!」


 炎と風の悪魔シャイターンは、魔女さんの七色の魔力を触媒に顕現する。

 その姿は光り輝く炎、形を不定形に揺らす。

 魔女さんはシャイターンに指令を与える。


 「焼き尽くせ! 《プロミネンスフレア》!」


 ボクは聖なる壁を構えた。

 シャイターンは形を風のように変えて、マッドハウスの内部を飛び回る。

 さながら生きた炎だ、マッドハウスは絶叫を震わせた。


 『グワアアアアア!? コンナコトガ!?』

 「終わりよ、シャイターン、やれ!」

 「―――――!」


 シャイターンは拳を振り上げる。

 それだけで雷が逆さに落ちた。

 シャイターンの強烈な炎雷が、マッドハウスの天井を屋根ごと吹き飛ばす。

 そのままシャイターンの炎はマッドハウスを侵食するように燃やし尽くした。


 「すごいにゃあ、こんな魔法もあるにゃんて」


 クロは同じ黒魔法使いとして、魔女さんの隔絶した力に息を呑む。

 シャイターンは役割を終えると、霧散して消えた。

 使役を終えた魔女さんは汗をどっぷりと流し、膝から崩れ落ちた。


 「魔女さん! 大丈夫ですか?」


 ボクは直ぐに駆け寄る。

 肩で息を吐き、とても辛そうだ。


 「えぇ、ちょっと精神力(マインド)を消費し過ぎたわ」

 「けど、凄かったです、あんな魔法もあるんですね」

 「炎魔降臨は私のオリジナルなのよ、けど燃費が思ったより悪くてねぇ?」


 空想上の怪物シャイターンを抽象化させた魔法は、極めて強力に思えたけれど、本人は割に合わないとのこと。

 ともあれマッドハウスは倒した。

 もはや視界にピンク色はない。

 どうやらマッドハウスは、真っ白い大フロアで擬態していたようだ。


 「お疲れカム君、これで先に進めるねー」

 「感謝しなさいよ、私が天才で!」

 「すーぐ調子に乗って、だから足元掬われるにゃあ」

 「あんだってー! だったらクロちゃんも、もっと強力な魔法を習得しなさい!」


 あはは、ボクは苦笑する。

 魔女さんはボクの差し出した手を掴むと「よっこらせ」と立ち上がる。


 「キューイ!」


 カーバンクルがフロアの奥で鳴いた。

 ボク達はカーバンクルを追いかけると、遂に……。


 「階段だぁ……!」

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