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第136ターン目 デモンズウォールの 奇襲だ

 「壁? 壁です! なんですかこれ!」

 「【ストーンウォール】、じゃない……【デモンズウォール】かも!」

 「ぬぅぅ! 今度は【ぬりかべ】か!」


 真っ白い壁には凶悪な顔面が浮かび上がる。

 それぞれ三体のデモンズウォールは、ゆっくりと迫ってきた。


 「ど、どうするんです! 壁が迫って来ますよ!」

 「痛たた、なるほど、こいつにカーバンクルはやられたのね」

 「キュイィィ!」


 カーバンクルは魔女さんの胸の中で、気丈に唸る。

 デモンズウォールはボクらに《石の雨(ストーンシャワー)》を浴びせてきた。


 「くっ、《聖なる壁(ホーリーウォール)》!」


 ボクは咄嗟に頭上の聖なる壁を展開し、石の雨からパーティを守る。

 勇者さんは素早く剣でデモンズウォールに斬りかかる……が。


 「くっ、切り裂けない!」

 「うー!」


 一撃で駄目なら二撃、カスミさんは激しい拳打を浴びせる。

 デモンズウォールにヒビが入った、だが反撃の《闇の波動(ダークウェイブ)》がカスミさんを吹き飛ばす。


 「くっ、後もうちょっとなのに!」

 「任せて! おりゃー!」


 ヒビの入ったデモンズウォールに勇者さんは剣を突き刺した。

 デモンズウォールはその一撃で、ガラララと崩れる。


 「退路確保ー!」

 「皆さんこっちです!」


 ボク達は退路を確保すると、その場から逃げ出した。

 デモンズウォール達はボク達が退避すると、再び床に同化していく。

 本当に心臓に悪い魔物だった。

 油断大敵、だね。


 「早いところここも脱出して、階段を目指すべきですね」

 「そうしたいのは山々だけど、降りれる場所を目指さないとね」


 真剣な顔で魔女さんが言うと、ボクも頷く。

 どこかに降りられる場所はある筈だ、こんな所でくたばる訳にはいかない。


 「ねぇーカム君、それでそのカーバンクルどうするのー?」

 「あっ、そうでした、もう離してあげませんか?」

 「そーにゃそーにゃ! そんな生意気な生き物、勝手に野垂れ死ねばいいにゃあ!」

 「キュウイー!」


 カーバンクルは言葉が分かるのか、クロに凄く敵対心を持っていた。

 クロも負けじと罵詈雑言で応酬する、本当にクロってばどうしたのか。


 「クロ、普段の冷静さはどこにいったの? 魔法使いは冷静(クレバー)に、でしょう?」

 「にゃあああ、その通りにゃけど、カーバンクルを見ていると、なんかムカツクにゃあ」


 一体なにが気に入らないのか。

 まるで犬猿の仲だな、小動物に噛み付いても仕方ないのに。


 「うーん、仕方ないわね、旅には連れていけないし」


 魔女さんはカーバンクルの処遇を真剣に考え、その末にカーバンクルを優しく降ろした。

 カーバンクルは魔女さんを見上げると、魔女さんは優しく微笑んだ。


 「ほら、安全な場所まで行きなさい」

 「カム君、可愛い動物が好きなんだねー」

 「いや、絶対あの魔女は宝石目当てにゃあ! そうに決まっているにゃあ!」


 カーバンクルの額の赤い宝石は、単純な価値はもとより、最高クラスの魔石として知られている。

 世界にはカーバンクルハンターがいて、カーバンクルの宝石を手に入れれば億万長者になれるという。

 正にトレジャーハンターの幻の一品、ボクだって興味はあるけれど。


 「流石に生きたカーバンクルから宝石は獲れないよね」


 それはボクの良心が許さない。

 カーバンクルを殺して宝石を奪うなんて、きっと豊穣神様が見たら烈火の如く怒るでしょう。

 いくら狩猟神の親友と伝えられる豊穣神様でも、そんな欲に塗れた狩りは許さない。

 治癒術士としては、自然を大切にするもの、これも大事な活動だ。


 「カーバンクル、どうかお元気で」

 「キュイ?」


 カーバンクルは今度はボクに振り返る。

 そのつぶらな瞳を見ると、ボクも思わず涙で目が潤んじゃう。

 そんな顔で見ないでと、ボクは顔を逸すと。


 「キュイ」


 カーバンクルはボクの足にしがみつく。

 ボクは驚くと、そのままカーバンクルはボクの肩まで登ってきた。


 「わわっ、カーバンクル?」

 「ふんにゃあ! そこはアタシの特等席にゃあ!」

 「キュイィ」


 カーバンクルは「ざまぁみろ」という悪どい顔でクロを見下す。

 クロはそれは看過出来ないと、カーバンクルに飛びかかった。

 カーバンクルは咄嗟にボクの頭に登る、クロはボクの肩に着地すると、そのまま更にカーバンクルを追って跳躍した。


 「あれま、踏んづけられちゃったわね」

 「ぼ、ボクの上で大運動会は止めてくださーい!」

 「うーん、マル君は本当に愛されているねー、豊穣神の加護かなー?」

 「加護のお陰なら、アンタはなんなのよ、豊穣神の加護持ちでしょう?」


 勇者さんは「そっかー」と納得する。

 呪いが強過ぎて、魔物にさえ恐れられるくらいだから、多分呪いのせいじゃないかな。


 「確かに治癒術士殿はなんとも心安らぐ気を持つゆえ、動物に懐かれやすいのであろう」


 一般的に動物に懐かれやすいのは獣人で、その次はエルフといわれる。

 人族はドワーフと並んで懐かれにくいとされるけれど。

 獣人は近い動物となら会話出来るし、エルフも幻獣と共に生きるなんて謂われるもんな。


 「ハンペイさんはどうなんです? 動物は」

 「それが(それがし)、あまり好かれん、逆にカスミはやたらと好かれたものよ」

 「うー……」


 ハンペイさんはとっても哀しそうに俯向いた。

 そんな哀れな兄にカスミさんは、肩に手を乗せる。

 そうか、エルフといえど個人差はあるんだな。


 「ニンジャっていえば、ハンペイは動物を使役しないねー」

 「なに? ニンジャってそういう技もあるの?」


 勇者さんの何気ない一言に、魔女さんは興味深そうにハンペイさんを見た。


 「ハッ、代表的なのは犬、鷹、それとガマでしょう」

 「ガマ?」

 「カエルでござる、高名なニンジャマスターにジライヤなるニンジャがいるが、ジライヤこそガマ忍法の開祖」


 ふーんと、感心する。

 世の中にはカエルを使役するニンジャがいるのか。

 なんだか想像出来ないなー。


 「それとカスミだが、こいつは白蛇を使役するぞ」

 「ぎにゃあ!? へ、ヘビ!?」


 ヘビと聞いてクロは過剰反応で怯えた。

 その隙にカーバンクルはクロの頭を踏んづけ、勝ち誇る。

 ボクの側を離れて、二匹の喧嘩はカーバンクルの勝利で終わった。


 「うーん、カーバンクルついてくるの?」

 「キュイ!」


 カーバンクルは肯定するように鳴く。


 「カーバンクルの知能はかなり高いのかも知れないわね」


 魔女さんは胸を持ち上げると、カーバンクルの性格を分析した。

 動物の知能は侮れない、犬は主人の命令を守れるし、猫だって主人を理解できるのだ。

 人間だけが高尚なんじゃない、言葉は操れなくても、豊かな喜怒哀楽を持つ動物はいるのだ。

 狩猟神様の相棒で知られる白狼なんかは、特に有名だ。


 「それじゃあ、なにがあるか分かりませんし、早くここを離れましょう」

 「そだねー、見たこともない魔物も一杯いそうだしー」


 ボク達は広いフロアを歩き出す。

 目指すは階段だ。

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