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第128ターン目 オリハルガンの 進撃

 突如ダンジョン内に発生した大きな震動、ボクたちは原因を突き止めるため洞窟の奥へと進む。

 一体なにが原因なのか、魔女さんは人工的なものだと主張してますが。


 「こんなところにアーマルガンなんて出てくるのでしょうか?」


 ボクはうーんと頭を悩ませながら呟く。

 先頭を歩く勇者さんは。


 「昔ねー、見たんだよねー、穴を掘って地中に潜るアーマルガンをさー」

 「んーでもさ、あんな馬鹿でかい魔物が穴なんて掘ったらあっという間に下の階層に落ちない?」

 「カムアジーフ殿の言うとおりであるな、ともかく用心いたしましょう」


 ハンペイさんは、腕を組みながら頷く。

 ボクも錫杖をギュッと握って、なにがあってもいいように備える。

 洞窟の中はシュミッドさんが開拓したのか、そこそこ大きな坑道のようだ。

 天井に薄っすら光る魔石灯が設置されており、なんだか不思議な気分である。


 「魔物はやっぱり出現するんですよね」

 「そりゃダンジョンだものにゃ、にゃにか気になるの主人?」

 「不思議だなーってね、この洞窟もシュミッドさんが開拓したんでしょう?」

 「ドワーフ族ったって、一人でこれだけ設備を整えるなら、そりゃ気の遠くなる時間が必要でしょうね」


 ドワーフ族の(おおよ)その寿命は約一五〇年と言われている。

 人間種の中ではエルフに次ぐ長寿種族だ。

 長い時間を掛けて一つの物を完成させる、それを【ドワーフの習わし】なんて格言がある。

 シュミッドさんは、どうして一人でこんなに頑張ったんだろうか。


 「うー」

 「カスミさん? もしかして魔物?」


 突然カスミさんが唸りだす。

 ボク達は直ぐに身構えた。

 直後震動、まるで地震のような縦揺れが起きた。


 「わわっ、これ大きい……!」

 「マル君身構えて! なにか来る!」


 その直後、ズガァァンと大きな音を立てて洞窟の側面から大きなモグラのような魔物がボク達の前に現れた。

 ボクはその魔物を見て驚く。


 「め、メタルイーター!?」

 「モルッ!? モルモルー!」

 「大きいにゃ! こいつって!?」


 まるでドラゴン匹敵する巨体は坑道内ギリギリであった。

 立ち上がることは出来ないが、同時に道を塞がれた。

 メタルイーターは爪を前に出して、激しく威嚇(いかく)する。


 「間違いない、ボクが戦った個体だ!」


 メタルイーターの右手には、負傷の痕がある。

 大分治癒はしているが、灰色の毛には血が付着したままだった。


 「気をつけて、かなり硬いよー」

 「ええそれはもう、それに防御が無意味なくらい攻撃力も高くて」

 「だとしてもタダのデカイモグラでしょう、とりあえず食らっとけ、《風の刃(ウインドカッター)》!」


 魔女さんの先制攻撃、風の刃はメタルイーターの皮膚をズタズタに切り裂いた。

 メタルイーターは悶絶、痛覚が剥き出しになったような痛みに狂乱する。

 ちょっと可哀想(かわいそう)ですが、ここで仕留めないとシュミッドさんを危険に晒す。


 「防御力が高いってことは、魔法防御は甘いってのが定石にゃあ、《にゃおおおおん》!」


 続いてクロの咆哮(ハウリング)がメタルイーターを襲う。

 メタルイーターはじたばたと藻掻いた。


 「逃げるつもりかも知れません!」

 「なら(とど)めを……」

 「うー!」


 ゴゴゴゴゴ、小さな震動は続いていた。

 地震が鳴り止まない、カスミさんは大きく唸りだす。

 どういう意味? カスミさんが警戒しているのはメタルイーターじゃない?

 ボクは冷静に事態を把握しようと、思考を巡らせた。

 メタルイーターは爪を真下に向けて、逃げようとしている。

 予想外の魔法攻撃に恐れをなしたのか?

 ……違う、あのメタルイーターはボクを小さき者として、見ようともしなかった。

 メタルイーターは脅威に敏感だ、だから逃げようとしている……なにに?


 「メタルイーターは一体何から逃げて……っ」


 直後大振動、立っていられない程の縦揺れの中、メタルイーターの周囲がビシビシとヒビ割れ、やがて崩落した。

 メタルイーターは手足をじたばたして落ちながら藻掻いた。

 だが直後、ありえない程巨大な何かがメタルイーターに食らいついた。


 「モ、モルーッ!?」


 「な、なにが起きているのよ……?」

 「まさか……どうしてこんなところに?」


 地震の中、唯一立っていた勇者さんは、目の前に出来た巨大な空洞を覗いていた。

 崩落によって出来た地下空洞は、真下が何も見えないほどの深さがある。

 そしてそんな大空洞にアーマルガンはいた。

 メタルイーターを強靭な顎で噛み砕き、咀嚼し、飲み込む。

 やがて、地鳴りが止むと、ボクはゆっくり立ち上がり目の前の異様に慄いた。


 「あれ、アーマルガン、ですよね?」


 アーマルガンとボクは目が合った気がした。

 ボクはゾクリと背筋を震わせる。

 アーマルガンの山のような背中にはキラキラとした光沢がある。


 「違う……こいつは【オリハルガン】だ!」

 「ギャオオオオオオン!!」


 全身をオリハルコンの鱗で覆われたアーマルガンの究極の姿。

 オリハルガンは一度()えると、ダンジョン自体が揺れた気がした。

 少なくともボクはこれだけは確信する。

 地震の正体はこの魔物だと。


 「オリハルガン……まじでオレイカルコスで覆われてんの?」

 「酷く興奮しているようですね……」

 「うー、うー!」


 カスミさんはボクの手を握った。

 ボクはカスミさんを見る、カスミさんの表情は相変わらずネクロな無表情だ。

 だがその中に危急を迫る物を感じた。


 「皆さん、撤退を! 早く!」


 ボクは迷わず後退する。

 直後、坑道が崩れだした、落ちたらオリハルガンの餌食だ。

 あのオリハルガン、どうしてかボクは憎悪を感じた。

 人間を憎んでいる?

 アーマルガンは人間など歯牙にもかけなかったのに?


 「はぁ、はぁ、ここまで後退すれば」

 「おい鎧の悪魔、アンタアイツに気づいていたでしょ?」


 安全圏まで逃げ切ると、魔女さんは早速勇者さんに食いかかる。

 そう言えば勇者さん、アーマルガンだと直ぐに当りをつけていたけれど。


 「オリハルガンだとは思わなかったー、まさかダンジョンに出てくるなんてー」

 「あんな大きな魔物もいるんですね」


 通常のアーマルガンが大体百メドル(百メートル位)、子供でも三十メドルはある。

 ところがオリハルガン、見立てでは三百メドルはないだろうか?

 あんな大きな魔物が地下で暴れれば、地震だってそりゃ起きるよ。


 「とりあえずシュミッドさんに報告しましょう」


 オリハルガンに感じた違和感、ボクはまだその答えに辿り着かない。

 でもどこかで、記憶にある……あの眼差し。

 いよいよ第五層ももう終わり間近だというに、ボク達は最大の難関とぶつかったのかも知れない。

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