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第125ターン目 治癒術士は 仲間と 合流する

 「それではシュミッドさん、何から何まで本当にお世話になりました」

 「本当に感謝であります、いつか必ず恩返しするでありますよ!」


 休憩の後、皆と合流する為にシュミッドさんの工房を出るボク達。

 シュミッドさんは入口まで見送りに来てくれた。


 「なぁにこれもドワーフ族の務めよ! マール、それにフラミーよ、そなた等に迷宮神と運命神の良き加護を」

 「ではシュミッド様にも、公正神と鍛治神の加護を、であります」


 ボク達は互い祈り合う。

 久し振りにまともな人と会話した気分だ。

 こういう文明的なやり取りって、ダンジョンではまず不可能だからね。

 シュミッドさんには感謝してもしきれない。

 ボクは念を込めて、深々頭を下げた。

 一期一会に感謝を込めて。


 「あっれー! マールじゃない!」

 「ふえ? あぁ魔女さん!?」


 当然白い煙の奥から見慣れた一団が姿を現した。

 ボクが振り返ると、直ぐにあの小さな影がボクの胸に飛び込んでくる。


 「主人、無事だったにゃあ!」

 「クロも、ごめんねちょっとトラブルがあって」

 「トラブルも冒険では日常茶飯事であるな」


 ハンペイさん、その後ろには勿論カスミさんも居る。

 勇者さんは……元気そうに手を振っていた。


 「あはは、皆さんどうやってここに?」

 「あんまりマール達の帰りが遅いってんで、私達も洞窟に侵入したら、途中で道が崩れててねー」


 魔女さんが説明するに、どうやらメタルイーターと戦ったエリアは進めなかったようだ。

 それで皆はもう一つのルートを使ったみたい。


 「なんじゃなんじゃ、少年の仲間か?」


 シュミッドさんは、突然現れる団体客に目を丸くしていた。

 なにせ半分が人じゃないのも原因だろう。


 「紹介しますね、ボクの大切な仲間達です」

 「豊穣神の子がそう仰るなら、そうなんだろうな……これはまぁようこそお越しなすった」

 「この方はシュミッドさんです。ダンジョンで工房を営んでいるそうです」

 「ふーん、よくもまぁこんな蒸し暑い場所でねー」


 魔女さんは腕を組むと、周囲を見渡す。

 あの青白い肌に汗ばんだ水滴(すいてき)(まと)わり付くと、どこか艶やかで、ボクは目を背ける。

 なんとなく見ちゃいけない気がした。


 「良かったら、工房にお入りなせぇ、せめてものおもてなしさせていただきましょう」

 「いえいえ、そんな悪いですよシュミッドさん」

 「折角だし、招待させてもらいましょうよ、マール」

 「うむり、皆疲れもあろう」


 そうか、ボクと違って皆はボク達を探して、ずっと冒険していたんだ。

 今はボクの方が余裕があるのを失念していた。

 ボクは申し訳ない視線をシュミッドさんに送ると、お爺さんはニコニコ笑っていた。


 「本当に、本当にご迷惑おかけします」

 「なぁに良いんだよ、さぁさぁどうぞどうぞ!」


 結局、今日はこの辺りで一泊だろうか。

 魔女さんや勇者さんはずけずけと遠慮なく工房へ入っていく。

 ハンペイさんは丁寧に頭を下げながら入っていった。

 キョンシーさんはボクの傍を離れようとはしない。

 どうやらボクの動きを待っているようだ。


 「出戻りですね、フラミーさん」

 「この人数だと、流石に多すぎるでありますが」

 「あぁ、申し訳ねぇが椅子も足りねぇ、何人か鉄火場の方になっちまうが」

 「じゃあ俺はそっちで良いよー」

 「小官も熱さには強いでありますから、そっちで構わないでありますよ」

 「それじゃボクも」


 ボク達は再び工房に入る。

 中は案の定人で一杯だ。

 キッチンの方は魔女さんとハンペイさんが椅子に座っている。

 魔女さんは工房に興味津々のようだ。


 「ねぇねぇ、ここでは何を作っているの?」

 「なぁに大したもんじゃねぇ、気ままに包丁や盾、なんでもよ」


 そう言うと彼は、壁に立て掛けてあった作品を指差した。

 掛けてあったのは立派な包丁である。

 魔女さんは「ふーん」と相槌を打つと、しばらく黙す。


 「いやー、それにしてもどうしてこんな場所に住んでいるのー?」

 「ここじゃ珍しい素材が色々手に入るからな」

 「魔石かぁ、色々揃っているねー」

 「勇者さんって、魔石にも詳しいんですか?」

 「勇者……? お前さん勇者って呼ばれとんのか?」


 うん? シュミッドさんは勇者さんに興味を持ったみたい。

 勇者さんは「うん」と頷く。

 普通なら馬鹿にされて終わりですが、シュミッドさんは顎髭を擦ると、勇者さんを吟味した。


 「ふむぅ、お前さんの剣、ちと見せて貰ってもいいか?」

 「いいけど呪われているよー」

 「なぁに構いやしねぇ」


 呪いって触った時点で掛かるんだろうか。

 時々ダンジョンで手に入るアイテムには呪われている物がある。

 呪いも様々で、運が極端に悪くなったり、突然狂戦士になったり、大抵ロクなことはない。

 しかも【鑑定】スキルが無ければ、呪われているかも判明しない。

 呪いのアイテムを(たま)に有効利用する熟練冒険者もいるけれど、普通に推奨出来ないね。


 シュミッドさんは鞘ごと剣を受け取ると、顔に近づけよく観察した。

 やっぱりドワーフらしく、武器に興味があるんだ。

 鉄を扱わせたらドワーフの右に出る者はいない、なんて格言があるけれど、本当に好きなんだなぁ。


 「ふーむ、ところでお前さんの盾変わってんな?」

 「あぁこれ? 拾い物ー。結構便利な鉄板だよ」


 鉄板には取手もあり、盾として扱える。

 一体なんなのかは実際はよく分かっていないんだよね。


 「鉄板か、ドワーフの仕事にしちゃあ雑だな」

 「それカム君が何度も変形させるからじゃー?」

 「うっさい、そんなの適当でいいのよ、適当で!」

 「…たく、物の扱いがなっちゃいねぇな……しかしこの剣……どこかで?」


 シュミッドさんは再び剣に目を向けると、頭を掻いて(うな)る。

 剣に興味はないけれど、なにか銘とかあるのでしょうか?


 「勇者さん、あの剣に名前ってあるんですか?」

 「うん、豊穣の剣だよー」

 「ぶっ!? 豊穣の剣ですってー!?」


 魔女さんが吹き出すと同時に叫んだ。

 あれ、豊穣の剣……聞き間違えかな?


 「あの勇者さん……それって勇者の剣と言われている、あの……?」

 「そだよー、由緒正しいねー」

 「ありえない! 鎧の悪魔がなんで神聖十二聖具を……ッ!」

 「……マジだ、ありえねぇ……こいつは豊穣の剣だ……だが何故こんな禍々しく呪われているんだ!? つーかお前さん、どこでこいつを手に入れた!?」

 「気が付いたら持ってたー」

 「持ってたー、て豊穣神様の神聖な武器を……?」


 ボクはあんまりの事態に放心してしまった。

 あの伝説の勇者の剣をあの魔物(ひと)は、包丁代わりに……?


 「……あれ? そう言えば豊穣の剣って、豊穣神の加護を持つ者以外は持てないんじゃなかったかしら?」

 「青肌のねーちゃんの言うとおり、豊穣の剣ってにゃあ意思があると伝えられている、ちょっとでも悪意を感じると装備者さえ滅ぼすとかな」


 シュミッドさんの話の通りなら、とんでもない剣だな。

 それを苦もなく扱える勇者さんって、やっぱり凄いひと?


 「カム君はやっぱり頭良いねー、ご察しの通り、俺豊穣神の加護持ちだしー」

 「えっ!? 勇者さんボクと同じ!?」

 「悪神の(たぐい)じゃなかったのかにゃー」

 「てっきり戦神かと思っていました」


 まさか勇者さんが、ボクと同じ加護があったなんて。

 そう言えば勇者さん、ボクの魔法に全然驚いてなかったっけ。


 「勇者さん、ボクの魔法驚かなかったのって……?」

 「うん、むしろ懐かしいなーって」


 懐かしい、ですか。

 今の勇者さんは、どす黒く呪われている。

 けれどその奥にとても綺麗なものがある気がした。

 それこそが、勇者さんの真っ直ぐな魂なのかも。


 「ボク、【勇者の剣の物語】が大好きなんです」

 「へぇー、どんなの?」

 「同じ加護を持つ幼馴染の女僧侶と一緒に旅するんです。その旅の中で戦士と魔法使いを仲間にしてやがて、魔王を討って平和を取り戻すんです。最後に勇者は幼馴染の女僧侶と結婚して幸せになって……」

 「……いいね、そうだったら、どんなにいいんだろうー」


 ボクが長く過ごした孤児院には、絵本や小説が一杯あった。

 その中でもボクは冒険活劇が大好きで、その中でも一番好きだったのが、【勇者の剣の物語ヒーローズ・ソード・テール】。

 ボクもまた、勇者に憧れた。

 でもボクは身体も小さくて弱かった。

 その代わり治癒術士としての才能は小さくてもあったみたいで、ボクは物語の女僧侶を目指したんだ。

 いつも健気に勇者を支え、窮地では盾となり、勇者の傷を夜通し治癒する。

 大変だけど、とても美しいと思えた。

 ボクもこうならなければ、ボクの子供心には十分響いたんだ。


 「勇者さん……本物なんですね」

 「どうかな? でも俺は勇者でありたいと思っているよ」

 「ううむ、しかし豊穣の剣をここまで台無しにするなんて、どうやったら出来るんだ?」

 「豊穣の剣って、そんなに凄いんですか?」


 シュミッドさんは、隅々まで豊穣の剣を観察して、呆れ返っていた。

 ボクはそれがどんな意味を持つのか分からない。

 シュミッドさんは、溜息(ためいき)()くと、簡単に説明した。


 「魔物が触れれば一発で昇天、どんな悪意さえも弾くという(いわ)れだ」

 「十二神聖具はどれもそういうヤバい代物よねー」

 「うーん、じゃあどうやったら呪えるんでしょうか?」

 「そもそも呪われているならマール様が解呪すれば、元通りでは?」


 フラミーさんが指摘する。ポンと、ボクは掌を叩いた。

 剣が呪われているなら、解呪すればいい。

 そうすれば本当の勇者の剣の輝きは戻るだろう。


 「シュミッドさん、解呪しても良いでしょうか?」

 「……あぁ、マールならばあるいは?」


 なんだか締まりが悪い様子だけれど、ボクは錫杖を両手に持って、豊穣神に祈りを捧げる。


 「そのもの、呪いに打ち勝つ力をどうかお与えください《解呪(ディスペル)》」


 豊穣神の御手が呪われた剣に触れる。

 呪いは瞬く間に解呪……あれ?


 「打ち消せない……そんな」


 呪いはとても強固で、ボクの力では解呪出来なかった。

 剣は依然として禍々しい気配を放ち、ボクでは太刀打ち出来ない。


 「やはり無理か、豊穣神の加護持ちならあるいはと思ったんだが」

 「まぁそうだよねー、そんな簡単にはいかないよー」


 シュミッドさんは勇者さんに剣を返す。

 勇者さんはそんなに気にしていないみたい。

 ボクはどうしても悶々と唸ってしまう。

 だって、勇者の剣だよ、伝説の剣だよ?

 まだまだ修練が足りないって思い知った。

 けれど剣の呪いを解きたいという欲求はどんどんと高まっていく。

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