表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/217

第118ターン目 決着 フラミーの 鋭い一撃

 「シエアアア!」


 パイロワームが穴から出てくる。

 首筋にはまだフラミーさんに噛みつかれた痕が残っていた。

 ここで顔を出したということは、ケリをつけようということだろう。


 「フラミーさん、来ます!」

 「ぐすっ! 行くであります!」


 フラミーさんはボクから離れると、パイロワームに再び向かい合った。

 パイロワームは唸り声をあげながら、フラミーさんに鎌首を向ける。

 どうくる……このまま押し切れるか?

 だが……突然フラミーさんの足元が盛り上がる。


 「はっ!? 下でありますか!?」


 爆発、フラミーさんは一瞬速く飛び上がる。

 パイロワームの尾が槍のように飛び出していた。


 「シェアアアアア!」


 一方、頭の方は飛び上がったフラミーさんに燃え盛る火炎を放った。

 フラミーさんは避けられず炎の直撃を貰う。

 しかし彼女は、それを物ともしない。


 「無駄であります! 炎など小官には効かないであります!」


 フラミーさんは天井を蹴ると、パイロワームに突撃する。

 一閃、パイロワームの直ぐ側を流星めいて飛び抜けると、フラミーさんは着地した。


 「シェア? シェアアア!」


 パイロワームはフラミーさんに振り返る。

 しかしその瞬間、パイロワームの首がずるりと地に落ちた。

 フラミーさんは無言で立ち上がると、翼に付着した血を振らう。


 「すごい、翼で斬るなんて」


 パイロワームはきっと死んだことにさえ気付かなかっただろう。

 凄い技だ、決してフラミーさんは勇者さんにも劣らない。

 ボクはフラミーさんに駆け寄る。


 「フラミーさん、お見事です!」

 「マール様、ぐすん!」

 「フラミーさん? 泣いているんですか?」

 「うぅぅ、涙脆くて申し訳ないであります……小官は一生をマール様に捧げると誓うであります!」

 「えええっ!? 一生なんてそんな……もっと自分を大切にしてください!」

 「いいえ! やっぱりマール様以外ありえないであります!」


 そう言うと、彼女はボクに抱きつく。

 ボクは慌てて、後ろに倒れる。

 上から覆いかぶさったフラミーさんの目は据わっている。

 あれ……これは大分不味いのでは?


 「お、落ち着いてくださいフラミーさん、その」

 「小官は冷静であります、だから……」


 フラミーさんは頬を赤くした。

 そのまま服に手を掛けて……。


 「駄目ぇぇぇぇぇ!」

 「ッ!?」


 ボクは無理矢理フラミーさんを押し返す。

 だけどボクの両手は彼女の胸を下から突き上げてしまう。

 ボクは顔を真っ赤にして固まる。

 フラミーさんは目を丸くする、が。


 「ふふ、せっかちでありますな、マール様、このまま一つに……」

 「駄目です! それとごめんなさい!」


 ボクは後ろに仰け反ると、素早く土下座した。

 女性の胸を下から掴むなんて……結構大きいんだなぁ。

 じゃなくて! なんという破廉恥なことをしてしまうのか。

 もうどの面下げて、顔を上げられようか。


 「マール様、クスッ。かしこまりました! 小官のご無礼お許しくだいませでありますっ!」


 フラミーさんはビシッと背筋を伸ばすと、元通りになった。

 ボクははぁぁと大きく息を吐くと、立ち上がる。


 「ぼ、ボクはその、フラミーさんのこと、好きですよ? あぁ異性としてではなくて仲間としてなんですが!」


 なにを慌てているのだろう。

 ボクは上手く言葉に出来ずしどろもどろに両手を動かす。

 落ち着いたフラミーさんはゆっくりボクの前へくると、そっとボクの頬に触れた。


 「公正神様、どうか私の願い聞き遂げ給え《治癒(ヒール)》」


 豊穣神とは異なる癒やしの力が、ボクの中を駆け巡る。

 彼女に傷つけられた傷跡は、瞬く間に消え、痛みも無くなった。


 「フラミーさん……?」

 「今は任務に集中するであります」

 「う、うん! そうだね、うん!」


 ボクは顔を真っ赤にすると、何度も頷く。

 今はまるで、ボクの方が欲情しているんじゃないかって、錯覚する程だ。

 いけない、煩悩は消さないと。

 ボクは両頬を手で叩く。


 「おしっ、それで……どっち行こうか?」


 改めて正面には、二つ通路がある。

 ダンジョンには常々別れ道はあるけれど、まさか洞窟内でとはね。


 「どっちが正解でありますかね?」

 「どっちも正解だという可能性もあるけれど」


 悩んでも仕方ないか。

 ボクは左手に見える通路を提案する。


 「あっちから行きましょうか」

 「了解であります、マール様の指示に従うでありますよ」


 完全に勘だがフラミーさんは応じてくれた。

 ボクは意を決すると歩き出す。

 お願い……当たっていて、と。


 「アチチモンキーはいないね」

 「はい、油断は出来ないでありますが」

 「そうだね、パイロワームみたいな魔物もいるだろうし」


 ここはアチチモンキー達の根城だけれど、それ以外の魔物も勿論いるようだ。

 あのパイロワームは野生なのか、アチチモンキーに守衛として使役されていたのか。

 アチチモンキー達の思考力は侮るべきではないのかもしれないね。


 「マール様、あれを……!」


 フラミーさんは足を止めると、小さな声でボクを引き止める。

 薄暗い洞窟の奥、なにか声が聞こえた。


 「ウッキッキッキ!」

 「ウキャーキャキャキャ!」


 よく目を凝らすとアチチモンキーの姿が見えた。

 数は二匹だろうか、外の様子になど気付く様子もないのか呑気に遊んでいるようだ。


 「あれって……?」

 「きっと暇なので遊んでいるのでしょう」


 アチチモンキーの下には、様々な金属類が山のように積まれている。

 中には黄金や銀もあるんじゃないか……文字通り財宝の山だろうか。


 「あのような低俗なサルには物の価値などわからないでありますね、ここは先制攻撃を」

 「き、気をつけて!」

 「ウキャ?」


 文字通り風となったフラミーさんは、アチチモンキーの顔面を掴むと問答無用でもう一匹のアチチモンキーも掴んで、頭蓋(ずがい)をかち合わせる。

 アチチモンキー達は口から血泡を吹いて絶命した。


 「せめて痛みも知らずあの世へお帰りください」


 ボクは両手を合わせて、哀れなアチチモンキーに祈りを捧げた。

 フラミーさんは無造作にアチチモンキーを放り捨てると、目当ての物を探す。


 「あった、あったでありますマール様の錫杖!」


 ボクの錫杖は丁度財宝の山の上に無造作に寝かされていた。

 フラミーさんが持ち上げると、シャンシャンと聖なる音を響かせる。

 ガララ。その拍子か、山の一部が崩れると。

 ボクは崩れた部分に目を向けると、一振りの剣が姿を現した。


 「なっ!? それは我が家の家宝【ドラグスレイブ】ではありませんか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ