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第115ターン目 一行は 作戦会議を 開いた

 「ほら軍人さん、これでも飲んで落ち着きなさいな」


 ヴォルカニックヒヒの前から撤退すると、決して遠くないところでボク達はキャンプしていた。

 魔女さんは特製の苦いココアを差し出すと、彼女は疲れた顔で受け取る。


 「もらうであります」

 「それにしても、軍人さん、苦戦したみたいね」

 「ちょっと油断したら、良いの貰っちゃったでありますよ……本当に何をやっているでありますか小官は」


 本当に気が参っているのだろう。

 彼女は首を横に振ると、苦いココアに口を付ける。

 ボクはそれを少し離れた場所でじっと見つめていた。


 「にゃあ、声を掛けないのかにゃあ?」

 「うん……なんでかさ、避けられている気がするんだよねー」

 「避けられている? まさかにゃあ、尻尾を振って褒めて褒めてって犬みたいな奴にゃあよ」

 「フラミーさんのこと、そんな風に思っていたんだね」


 でもボクもしっくり来てクスっと笑ってしまう。

 確かにフラミーさんって、犬っぽいところあるよね。


 「フラミーさん、やっぱり悔やんでいるのかな?」

 「たかが錫杖にゃあ、また新調すれば済む話にゃあ」

 「そう、だけど……そうじゃないのかも」

 「にゃあ? どういう意味にゃあ?」

 「彼女、家宝の剣を失った時、わんわん泣いていたでしょう?」

 「そりゃもうみっともなくにゃあ」


 多分フラミーさんは宝物に対する想いが人一倍強いんだと思う。

 ボクの持ち物が盗まれたからあんなに怒って、失敗したらあんなに落ち込んで。


 「結局犬にゃあ、喜怒哀楽の激しい犬っころにゃあ」

 「本人が聞いたら怒るよ?」


 ケタケタ、クロは本当に意地悪く笑う。

 でもクロくらいの気構えなら、フラミーさんも楽だろうになぁ。


 「ねぇボクは何をしてあげるべきかな?」

 「なーにもしないでいいにゃあ」

 「フラミーさんに嫌がらせは駄目だよ?」

 「だーかーらーにゃあ、フラミーだって一人前の元軍人にゃあ! だったら自分の落とし前くらい自分でつけるにゃあ!」


 クロの言うところは、自立させろということか。

 突き放すのも時には大事かも知れない。

 大人だもんね……彼女も。


 「勇者さん、アチチモンキーの方はどうです?」


 ボクは今もアチチモンキーを見張る勇者さんに声を掛けた。


 「特に動きはないねー」

 「ヴォルカニックヒヒは出てきません?」

 「出てこないー」


 恐らくだけど、ヴォルカニックヒヒとアチチモンキーの群れの巣が奥にある。

 一体巣には何匹のアチチモンキーがいるのやら。

 偵察が必要か、検討する必要がある。


 「あのヴォルカニックヒヒの強さって」

 「グラデスに比べたら全然弱いよー」


 魔王グラデス、第四層の階層支配者(エリアボス)だった魔人。

 本当に強くて何度も死んだと思えるほどだった。

 あそこまで強くはない、ならば勇者さんなら勝てるのか。


 「勇者さんなら勝てます?」

 「楽勝ラクショー」

 「つっても、アチチモンキーの妨害が無けりゃ、でしょうが」


 ゴン、とホットココアの入ったカップで勇者さんの頭が打たれる。

 勇者さんはビックリして後ろを振り返った。


 「なにするんだよーカム君」

 「雑魚は私がやる、アンタはボス担当よ」


 苦いホットココアを飲みながら、魔女さんは目を細める。

 勝てる勝てないなら、絶対の自信だろう。


 「……想定外で返り討ちって、ならないといいけどねー」

 「うぐ、想定外は仕方ないでしょう、私の責任じゃないし」

 「その場合は作戦を承認するボクの責任でしょうね」


 ボクは想像して苦笑いする。

 なるべくそうならないように慎重に策定しているんだけど、どうしたって裏目は出るから。


 「勇者さんが考える裏目はなんでしょうか?」

 「うーん、ヴォルカニックヒヒが一匹じゃないパターンとか?」

 「はぁ? あんな馬鹿でかいサルが(ほか)にいるって言うの?」

 「大きいだけならアーマルガンの方がずっと大きいですね」


 ボクはそう指摘すると魔女さんは面倒そうに頭を掻いた。

 地の頭は凄く良いから、色々シュミレートしているんだろう。


 「やっぱりハンペイに偵察に行ってもらうべきよ、戦力は知らないとさ?」

 「そうだねー、賛成ー」

 「ではそろそろ作戦会議をしましょうか」


 ボクは皆に集合するよう合図すると、火元の前に集合した。


 「まず敵の数を知りたいわ、ハンペイ頼める?」

 「ハッ、必ずやその主命果たしてみせよう!」


 偵察の任務はニンジャであるハンペイさんが最適だ。

 後は錫杖をどうやって取り戻すかだけれど。


 「その任務、小官にどうか!」

 「軍人さん、本当にやれんの?」

 「やれる、いや絶対にやってみせるであります!」


 フラミーさんは随分と意気込んでいるように思える。

 実力に過不足あるとは思わないけれど、なんだか不安だな。


 「ボスは勇者さん、雑魚はクロと魔女さんで蹴散らす、でいいんですよね?」

 「アタシに異存はないにゃあ」

 「まぁ大群の相手の方が気楽だしね」


 広域を殲滅するなら魔女さんの得意どころだ。

 まして相手はアチチモンキー、数は多くても問題は無いだろう。

 だとすると、後はボクとカスミさんか。


 「あの、ボクはフラミーさんの支援に回ってもいいでしょうか?」

 「えっ!? 小官が裏切らないように前線の監視でありますか!?」

 「なんでよ! マール、想像を絶する苦労よ? 本当にやるの?」

 「はいっ! ボクの錫杖は、ボクが取り返します!」


 ボクは小さくガッツポーズを両手でする。

 フラミーさんにばかり負担は掛けられないもんね。


 「となるとカスミは某と共に遊撃だな」

 「うー」


 エルフ兄弟は機動力が抜群に高い、遊撃なら最適だろう。

 よし、後は決行を待つだけ。

 必ず錫杖は取り戻すぞ!

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