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第113ターン目 竜の 衝動

 ダンジョンで突然火花が散った。

 階段を天井付近を滑空しながら探していたフラミーは、突然のことに驚く。

 明らかに人為的な花火、彼女はそれが何らかの合図だと気付くと、直ぐに火元に向かって飛んだ。

 やがて岩山の上にマール達の姿を目撃するが、様子がおかしい。

 アチチモンキーの群れに囲まれていたのだ。

 これはいけない、フラミーは翼を広げて急行する。

 だが、アチチモンキーの群れはクロの咆哮(ハウリング)で逃げ出していた。


 「流石クロ様であります、直ぐにマール様と合流しませんと」


 赤竜の翼を広げ、急加速するフラミーは直ぐにマールの声が聞こえる距離まで近づいた。

 だがフラミーが聞いたのは。


 「か、返して下さーい!」

 「ご無事でありますかマール様!」

 「ふ、フラミーさん……ぼ、ボクの錫杖が……!」


 よく見るとマールが大切にしていた錫杖が見当たらない。

 フラミーはアチチモンキーに盗まれたのだと解釈すると、憤慨した。


 「人の大切な物を盗むなんて絶対に許せないであります! 小官が必ずや取り返すでありますよ!」


 フラミーは胸を叩くと、直様アチチモンキーの逃走先へと急行した。

 後ろから魔女の「一人では危険よ」という声は届かなかった。

 それに大丈夫、このエリアに彼女に敵う魔物はいない。

 極楽鳥や火精、アチチモンキー、ヘルフレイムドッグ――いずれも敵ではなかった。

 軽く蹴散らしてマール様に褒めてもらうであります!


 「マール様の錫杖を返すであります!」


 先ず逃げ遅れている一匹のアチチモンキーを踏みつける。

 そのまま跳躍して、錫杖を持ったアチチモンキーを捜索した。


 「錫杖は、あったであります!」


 前方、錫杖を掲げながら逃げるアチチモンキーを発見。

 早速、取り戻そうと飛ぶ……が。


 「ウッキー!」

 「モゲゲー!」

 「ウキャーキャッキャキャ!」


 一斉にアチチモンキーの群れがフラミーに飛び掛かる。

 アチチモンキー達は口から火を吹き、フラミーを焼き焦がそうとするが、その程度では赤竜たるフラミーを焼く事など出来ない。


 「お返しであります! 《赤竜波(ドラゴニックバースト)》!」


 フラミーの全身から放たれる熱波。

 レッドドラゴンの《体内放射》に酷似(こくじ)した技は、取り囲み球状になるアチチモンキーを一斉に吹き飛ばした。

 こんな十把一絡げに足止めされる訳にはいかない。

 直ぐに翼を広げて、錫杖を持つ個体に飛び掛かる。


 「返してもらうであります!」

 「ウキャ!」


 錫杖を奪う……刹那、アチチモンキーは錫杖を別の個体に投げつけた。


 「ああっ! おのれであります! けれど次こそはー!」

 「ウキャ!」


 再び飛び掛かる。

 だがそれも一瞬速く別の個体に投げ渡された。

 むぐぐ、段々フラミーの頬は赤く膨らんでいく。

 アチチモンキーは煽るようにキャッキャと笑い、数の連携でパス回ししていく。

 おちょくられていると理解したフラミーは、もう容赦しないと、竜の気を全身に帯びた。


 「先史文明調査隊(アーネンエルベ)所属フラミー中尉、対象を殲滅するでありますっ!」


 彼女は手近にいたアチチモンキーの顔面を掴むと、そのまま地面に押し(つぶ)す。

 一匹始末すると、次の獲物を探し、緋色の瞳が軌跡を描いた。

 圧倒的暴威に呆然(ぼうぜん)としていたアチチモンキー達。

 しかし魔物の本能だろうか、彼らは一斉に牙を剝くと、フラミーに襲いかかる。

 だが竜の猛威の前にあっては、アチチモンキーになにが出来ようか。

 爪に切り裂かれ、尻尾に打たれ、翼に肉を裂かれるだけだ。


 「なんだ全滅させるだけでいい、これは簡単な任務であります」


 竜の衝動、フラミーは気づいていなかった。

 アチチモンキーは次第にフラミーに腹を見せ、降伏する者も出始めたが、それをフラミーは面白いように、グチャグチャに踏み潰した。


 「降伏なんて許さないであります、元より魔物に降伏に関する条約など無いでありますから」

 「ウキャキャ!?」

 「アハハハッ! 背中を見せる軟弱者は処刑であります! 逃げない賢い者も処刑であります!」


 嗤う、愉しい、愉快だ。

 アチチモンキーを存分に痛めつけ、快楽を得る。

 (ドラゴン)である自分に酔っている。

 竜が破壊を好むなら、フラミーが破壊や蹂躪(じゅうりん)を望むのは当然の摂理だった。


 「アッハハハ! もう抵抗しないでありますか? それじゃつまらないであります!」

 「ウッキー」


 錫杖を持ったアチチモンキーがそれを、フラミーに差し出す。

 フラミーは口角を持ち上げた、今更それがなんだと言うのか。


 「今更物で許しを請うつもりでありますか、そんな軟弱者……は?」


 しゃん、清らかな音が錫杖から響くと、マールの顔が脳裏を()ぎった。

 マールがいけないと首を横に振ると、一斉にフラミーから竜の気配が失せていった。


 「あ、あ? しょ、小官なにを楽しんで? 虐殺を愉快そうに……?」


 正気に戻ると、フラミーは膝から崩れ落ちた。

 涙をポロポロ落とすと、顔面を手で覆う。

 ほんの僅かな間だが、自分じゃなかった。

 今になってフラミーは自分が赤竜でもあるのだと、ようやく自覚したのだ。

 竜の破壊衝動、それが今になって恐ろしい、と。


 「錫杖……、そうであります、取り返してマール様にいっぱい褒めてもらうであります……」


 彼女はふるふると、差し出された錫杖に手を伸ばした。

 その直後、フラミーの頭上に影が差す。


 ズガァァァアン!!


 「がはぁっ!?」


 強烈な衝撃、あのグラデスから貰った強烈な一撃にも匹敵するダメージが彼女を襲った。

 後ろに吹き飛ぶと、見えたのは砕け散った大岩だった。

 フラミーは大岩をぶつけられたのだ。

 アチチモンキーに?

 いや、アチチモンキー達の後方に特徴的な顔の巨大なヒヒがいた。


 「ぼ、ボス猿? で、あります、か……?」


 ダメージが大きい、フラミーはなんとか意識を保っていた。

 アチチモンキー達は大狂乱、ドシンドシンと、八メドル(約八メートル位)の巨体を揺らしてボス猿【ヴォルカニックヒヒ】が歩く。


 「ウッキャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 ヴォルカニックヒヒは大絶叫。

 我こそこのエリアの王であるというように――。

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