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第111ターン目 モンスター達の 襲撃

 「うーん……」


 火山帯の麓付近を徘徊しながら階段を探すボク達。

 だけど流石にそう簡単には見つからないな。

 時折魔物に襲われることもあるし、やっぱり一筋縄にはいかない。

 特にこのエリアは、常に燃え盛る火の熱と、悪臭が悩みだ。

 熱の方はともかく、硫黄臭だけはなんとかしたいなぁ。


 「ふぅ、やっぱり山を登って探すべきですかね?」

 「危険と言えば危険よ、溶岩流には気をつけないといけないし」

 「魔物もいるからねー」


 ボクはこのままではいたずらに体力を消耗することに危惧した。

 ならば早急に階段を見つける為、高い場所から探すべきと考える。

 とはいえ、魔女さんは反対気味、勇者さんもか。

 難しいところだな。

 時間を掛けて地道に探すか、危険でも一気に進むか。


 「あのっ! 提案があるであります!」

 「フラミーさん? どうしましたか?」

 「自分に空中偵察の任務をお与え下さいませであります!」


 彼女は軍隊式にビシッと敬礼すると、空中偵察の許可を求めた。

 ボクは顎に手を当て、吟味する。

 だが直ぐに魔女さんがそれに良しを付ける。


 「いいんじゃない、適任だわ」

 「魔女さん?」

 「だって熱耐性も完璧(パーペキ)の軍人さんよ、並大抵のモンスターなんて相手にもならない」

 「確かにそうですが」

 「……お願いするであります! マール様の為に働く所存であります!」

 「この熱意、行かせた方が暑苦しくないにゃあ」

 「クロまで……もう」


 なんだかボクだけが渋っているみたい。

 ボクは皆の安全を真剣に考えているだけなのに、どうして皆はそう簡単に決められるのか。


 「はぁ、分かりました。フラミーさんお願いします」

 「ハッ! 必ずや任務遂行するであります!」


 フラミーさんは翼を広げると、一気に飛び上がった。

 ボクはそんな後ろ姿をじっと眺める。


 「そんなに仲間が信じられない?」


 横から魔女さんがそう指摘してくる。

 ボクはしょんぼり(うつむ)いた。


 「信じてます、けれど万が一も同様に」

 「それでいいわ、マールのお陰で私達ギリギリなんとかなっているでしょう?」

 「ふえ? ボクのおかげ?」

 「そうにゃ、マールがいなかったら統制もまるで利かないにゃあ」

 「あぁ思い出すわね、パーティを分断された時」

 「一体女子達に何があったんだろうー?」


 第四層で男性と女性でパーティが分割された時、ボク達はボク達で大変だった。

 もうボクは皆を失いパニックになって、勇者さんとハンペイさんに迷惑を掛けまくったし。


 「じゃあ、ボクは今のままでいいんでしょうか?」

 「いいんだよー! マル君はマル君のままでさー」

 「うむり、治癒術士殿は良くやっておる」

 「まっ、ちょっとヘタレで情けないところもあるけどにゃあ」


 皆今のボクで良いと思っているのか。

 意外だった、だけど少しだけ自信が持てる。

 まぁどうせ直ぐにダンジョンに裏切られるんでしょうけれど。


 「うー!」

 「……と、カスミさんが敵意を察知、警戒を!」


 ボクはカスミさんの様子を見逃さず、彼女が敵意に気づくと、周囲を警戒する。

 ボクと魔女さんを中心に、正面は勇者さん、後方はカスミさん、左右をハンペイさんとクロが警戒する。

 この円陣なら早々危険などない筈だ。

 どこからくる、見逃すな……なんて思っていると、突然地面が揺れだした。


 「わ、わわっ!?」

 「ぬぅ、抜かった! まさかこれは!」


 突然地面が競り上がる……いや!


 「ガオオオオオオ!」


 咆哮する大地、ボク達が立っていたのは巨大な岩石竜アーマルガンの背中だった。

 アーマルガンは起き上がると、ドシン、ドシンとゆっくり歩き出す。

 背中に乗ったボク達もお構い無しに。


 「え? ええっ? もしかしてカスミさんが察知したのはこっち!?」

 「いや、そうでもないようですぞ!」

 「クケケー!」


 突如空から飛来する全身を燃やした鳥、極楽鳥が襲いくる。

 全身の炎も厄介だけど、この種の危険さは確か。


 「キキキキキ!」


 極楽鳥の《催眠波》、広範囲を眠り状態にする危険なスキルだ。

 ボクはなんとか耐えの凌ぐが、クロが眠ってしまった。

 豊穣神様の加護のお陰で、少しだけ状態異常に強いのが幸いしたようだ。

 無論デバフ全般が効かない勇者さんは、一気に距離を詰めると、極楽鳥を一刀両断した。


 「まず一つ! 次は!」

 「アーマルガンの背中をなにか登って来てますよ!」

 「気を付けよ、【ヘルフレイムドッグ】だ!」


 真っ黒な体毛の大型犬は真っ赤な瞳を滾らせながら、数匹背中を登ってきた。

 ボクは思わず錫杖を握りしめた、一匹でも厄介だったヘルフレイムドッグが三匹も。

 更に間が悪い、後方――つまりカスミさんの方からゆらりゆらりと揺蕩う火の玉が近づいてくる。


 「なにあれ、魔法?」

 「【火精】だ、気をつけてー!」


 勇者さんが、気をつけてという相手?

 カスミさんは迷わず、火精に飛び掛かる。

 鋭い拳、しかし!

 突然火精は閃光を放って、カスミさんを吹き飛ばす。


 「うー!」

 「カスミさん、火傷している!?」


 今のは魔法か? 火精は今もゆらゆら揺れて近づいてくる。

 接近戦は不利か、なら魔女さんに。


 「魔女さん、火精の方をお願い……?」

 「ぐー、ぐー」


 えええええええっ!? ボクは更に慌てふためいた。

 まさかクロだけじゃない、魔女さんまで眠っていた。

 魔女さん催眠耐性無かったのか!?


 「でぃ、ディスペル……! 態勢を建て直さないと!」


 状況はやや不利、正面から三匹のヘルフレイムドッグは勇者さんが相手している。

 空から次々とくる極楽鳥はハンペイさんに任せっきり。

 そして後方の火精は、未だ得体が知れない。


 「魔女さん、直ぐに治療しますから《解呪(ディスペル)》!」

 「う……く?」


 先ずは魔女さんが目を覚ます。

 ボクは直ぐに状況を説明した。


 「魔女さん、火精をお願いします!」

 「火精? あの火の玉……?」

 「得体の知れない魔法を使ってきて、少し厄介そうなんです」

 「【ザ・サン】と似た雰囲気、精霊系ってところか」


 魔女さんは深紅(ルベライト)の瞳を細めると、火精を吟味する。

 そして彼女が言ったのは。


 「キョンシーに任せなさい、私は憎き極楽鳥から始末する!」

 「ええっ? いいんですかー!」

 「マールもカスミを信用なさい、あの子はイノシシじゃないんだから!」


 そう言うと魔女さんは魔法を唱える。

 大氷雪の嵐(ダイアモンドダスト)が極楽鳥を纏めて襲う。

 ボクはカスミさんを見た。

 カスミさんは無言で立ち上がる。


 「カスミさん、支援必要でしょうか?」

 「うー」


 彼女は、必要ないと首を横に振る。

 ただ彼女はもう一度馬鹿正直に正面から突っ込む。

 同じように拳を突き刺し――。

 その瞬間、再び閃光。

 間違いない、アレは物理攻撃に反応する防御魔法だ。

 カスミさんでは相性が悪い、なのになんで魔女さんはカスミさんにやらせるんだ!?


 「カスミさん、ここばボクが!」

 「うー!」


 カスミさん叫ぶ、持ち場を離れてはならない、と。

 彼女はなんと、燃え盛る火精に拳を打ち込んでいた。

 そんなことをすれば、腕が焼き爛れるぞ……だが。


 「うー!」


 差し込んだ腕を振り上げる、その手には短剣が握られていた。

 火精は身体を真っ二つにすると、そのまま消滅する。


 「なるほど対反応爆発(アンチフレア)か、分かってしまえば対処方はあるわよね」

 「魔女さん、結果が分かっていたんですか?」

 「精霊系は魔法防御力が高過ぎて、ロクに活躍出来ないんだもの、なら仮にもキョンシーはここより下の第六層到達者でしょう? 任せるべき先輩じゃない」


 あっ、言われてみれば。

 カスミさんが発見されたのは第六層だ。

 ならカスミさんは中堅上位の実力を持っていることになる。

 第七層到達者はほんの(わず)か、故に第七層到達時点で実力は上級として【金勲】が冒険者ギルドから与えられる。

 カスミさんは金勲に極めて近いところまで行っていたのか。


 「先輩冒険者の経験値を信用してあげなさい」

 「はい、そうです、ね」


 カスミさんは短剣を振り払うと、ホルスターに収めた。

 右手は焼けてる、無傷ではない。

 ボクは勇者さんに振り返る、この戦況まだ油断は出来ない。


 「バフォオオオ!」

 「アオーン!」


 ヘルフレイムドッグの火炎ブレスが勇者さんを襲う。

 しかし盾でそれを防ぎながら、迫りくるもう一匹を、冷静に切り裂いた。

 すごい、三対一なのに、普通に勝っている。

 勇者さんは、驕ることもなく、そのままヘルフレイムドッグを圧倒。

 全く危なげもなく、三匹のヘルフレイムドッグはアーマルガンの背中から脱落していった。


 「ゲーッ!」


 墜落する最後の極楽鳥、ぼちゃんと溶岩の川に落ちると、そのまま沈んでいく。

 正直哀れ……とは思えないな。


 「ど、どうしましょう……これでは、降りれません」


 戦っている間にも、アーマルガンは一切(いっさい)関与せず、ただ悠然と歩くだけ。

 今やアーマルガンの周囲は溶岩流だ。

 降りるに降りられない、ボクは途方にくれた。

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