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第109ターン目 深淵へ 進め 冒険者よ

 「う、く……? 勇者、さん?」


 ボクは痛む体を手で押さえながらゆっくり上体を持ち上げる。

 ボクの周りには魔女さんやフラミーさんが泣きそうな顔をしていた。


 「良かった! 目覚めたであります!」

 「主人、本当に無茶するんだからにゃあ」

 「クロ……ごめん。それより状況は?」

 「あれを見て、マール」


 魔女さんが指差す先、そこで魔王グラデスと勇者さんが戦っていた。

 グラデスは必死に拳打を繰り出す、それを盾を用いながら流麗に勇者さんはいなす。

 そして隙を見てグラデスに剣を突き出すのだった。


 「すごい、勇者さんが優勢だ」

 「本当に底知れないわよアイツったら」


 ボクが気絶している間、きっと勇者さんは時間を稼いでくれたんだ。

 ならボクも早く復帰しないと。

 と、立ち上がりたいんだけれど、足に力が入らない。

 ボクが倒れそうになると、カスミさんが受け止めてくれた。


 「うー」

 「あ、ありがとうカスミさん」

 「しょ、小官の治療(ヒール)ではこれが限界であります」

 「充分ですよ、痛い一撃貰ったのもボクの責任ですし」

 「それなら守れなかった私達も同罪でしょう」


 魔女さんの言に僕以外全員が頷く。

 パーティプレイの(きも)は連携にある。

 誰かの欠点をパーティで補うのは当然であるという考え方か。


 「カスミさん、肩を貸してください」

 「うー」


 ボクはカスミさんに補助をしてもらいながら立ち上がる。

 敵は強大だ、それでも勇者さんならきっと勝てる。

 だからボクは。


 「勝てー! 勇者さーん!」

 「マル君!?」


 ボクは精一杯の声で勇者さんに声援を送る。

 勇者さんは振り返ると、ボクを見た。

 ボクの無事な姿、それに安堵すると彼は大きな声で。


 「あぁっ! 勝つ……さぁぁぁああ!?」

 「馬鹿めが! 余所見するとは!」

 「ああもうあの鎧馬鹿、良いの貰っているにゃあぁ!」


 グラデスの前蹴りを貰った勇者さんは全身をバラバラに散乱させてしまう。

 ボク等は一瞬で「えー?」と、気落ちした。

 ここは格好良く勝つところなのに、あの魔物(ひと)は!


 「クハハハ! 私の勝ちだ! そのまま踏み潰してやる!」

 「ちぃ! 鎧の悪魔をやらせるか! 唸れ豪風! 《竜巻嵐(テンペストストーム)》!」


 魔女さんは巨大な風魔法をグラデスに放つ。

 暴風に晒されたグラデスは効果範囲から抜けだすように飛び上がった。

 だがそこにフラミーさんは待ち構えていると。


 「小官はもう二度とあんな無様晒さないであります!」

 「ちぃ!? 竜人が調子に乗るなよ!」


 グラデスは拳を握るとフラミーさんに打ち込む。

 しかしフラミーさんは拳をあえて受け、最大の反撃を行った。


 「《竜の息吹(ドラゴンブレス)》でありますっ!」


 至近距離からのドラゴンブレス、グラデスは燃え盛る粘性の火炎を受けて、墜落した。

 そこにカスミさんとハンペイさんが迫る。


 「今度は逃がさん!」

 「うー!」

 「くそ! しつこい奴らめがっ!」


 ハンペイさんは小太刀を両手に二刀構え、素早い斬撃。

 それをグラデスは片手でいなす。

 だが反対からはカスミが迫る。

 グラデスは舌打ちしながら、この乱戦に応じるしかなかった。


 「認めてやる! お前らが強者であるということ、私の魔人達を倒したんだからな!」

 「奴らを知っているのか?」

 「無論だ、何故なら私こそが師匠(マスター)だからな!」


 カスミさんの素早い蹴りを、グラデスは逞しい胸板で受け止める。

 ニヤリと笑ったグラデスはそのまま片手でカスミさんを掴んでぶっきらぼうにハンペイさんに向けて投げた!


 「うー!?」

 「くうっ! なんて膂力だ!」


 ハンペイさんはカスミさんを受け止めると、二人は後ろに倒れた。

 グラデスはそのままトドメを刺そうと、飛び上がる。

 トドメは踏み潰し(ストンピング)を選んだようだ。

 だが、それは彼等の目の前で制止した。

 アリアドネの紡いだより糸が、グラデスに絡みついていた。


 「なっ!? あの黒猫の仕業か!?」

 「時間は稼いだにゃあ! 主人!」

 「うん!」


 そしてボク。

 ボクは勇者さんのパーツをなんとか集め、勇者さんを組み立てる。

 まともに身動きが取れない勇者さんは暇だからか、「週間毎号届くパーツを組み立て、君だけの勇者を組み立てよう、初回は○○円から!」とか、訳のわからない台詞を吐いていたが。


 「勇者さん、今度こそ頼みますよ?」

 「オーキードーキー」


 組み立て終わった勇者さんは立ち上がると、剣を構える。


 「勇者さん、盾は?」

 「必要ないかな、大体わかったし」

 「大体わかった……?」


 彼は両手で剣を持つと、それを水平に構える。

 彼はなにを見ているのか、ただ彼は一瞬で踏み込むとグラデスに向かった。


 「ちぃ! こんなもの直ぐに焼き払ってくれる!」

 「無理だよ、俺がさせない」


 ただの突き、なんてことない一突き。

 それでも、それはとても美しい技に見えた。

 グラデスは拘束するより糸を燃やす――よりも先に勇者さんの剣がグラデスの心臓を貫いた。


 「……が、馬鹿、な……」


 どさり、グラデスの巨体が後ろに倒れた。

 勇者さんは剣に付着した青い血を払うと、倒れたグラデスの前に向かう。


 「ほら弱い」

 「グハッ! ク、クハハ……お前は、強い……だが、いつまで、そうして……いられる……かな」


 グラデスは動かなくなると、その身体が靄のように暗黒の霧となって霧散する。

 ボク達は勝ったんだ、ボクはヘタリ込むと、安堵の息を零した。


 「やった勝ったでありますー!」

 「とはいえ、紙一重であったな」

 「うー」


 フラミーさんは飛び上がって勝利を喜んだ。

 素直に喜べないのはエルフ兄弟だ、地力では負けていたのだから仕方がない。

 魔女さんはトンガリ帽子を被り直すと、ボクの前まで歩いてくる。

 そして優しく手を差し出した。


 「やったわね、第四層もこれで突破ね、マール?」

 「はい、でも……ここからなんです」


 ボクは魔女さんの手を取ると、なんとか立ち上がる。

 バトルグラウンドの奥には下り階段が見えている。

 階層支配者(エリアボス)は階段前を陣取っていた訳だ。


 「それにしても――」


 あれは本当に魔王だったのだろうか?

 勇者さんの実力は本当に頼りになる。

 でも不安でもあった、もし勇者さんの力がボクらに向けば、それは最悪の結果を招くだろう。

 何故こんな稚気じみたことを思ってしまったのか。

 魔王グラデスを倒して、何故素直に喜べないのか。

 ボクは不安だ、このダンジョンがあまりに底知れなくて怖い。

 それでも進むしかない、大口を開けた【深淵(アビス)】に。

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