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第107ターン目 魔王には 第二形態がある

 「やった……?」


 ボクは確かにこの目で見た。

 会心の一撃だ、あれだけのダメージを喰らえば普通は死ぬ。

 事実グラデスは大の字に後ろから倒れた、これで……勝てたんだよね。

 ボクは喜色を浮かべる、直ぐに勇者さんの下に駆け寄ろうとした……が。


 「まだだマル君!」

 「……え?」

 「クックック……本当に素晴らしい、これほどの強さ、魔界でもそうはいない」


 え……?

 グラデスはゆっくり起き上がると、怪しげに微笑む。

 なんだ……どうしてグラデスから脅威を感じる?

 もう限界、虫の息の筈だ。

 なのにグラデスは余裕があるかの様に立ち上がる。


 「おいそこのリビングアーマー、何故貴様はあのお方に背く?」

 (あのお方……?)

 「君には関係ないと思うよー、俺は勇者だから」

 「……クク、後悔するなよ? これから――本気を出すんだからなぁあああ!」


 瞬間、グラデスの全身が暗紫の光に包まれる。

 周囲を吹き飛ばすような闘気と魔力。

 グラデスの身体が大きくなっていく、まるで成長するように。

 ボクよりも背丈(せたけ)の低かったグラデスは今や、ボクを優に見下ろす程の大巨漢に変貌していた。


 「そんな……今まで遊んでいたの……?」

 「クックック、こうなってはもう加減など出来んぞ? 魔王グラデスと闘えること、光栄に思うがいい!」


 次の瞬間、グラデスは瞬間移動するようにボクの目の前に飛び込んできた。

 ボクは反応が間に合わない、ただ狂気に満ちたグラデスの笑みが映った。


 ズガァァァン!!


 衝撃が全身に走る。

 気がつけばボクは地面に激しく打ち付けられていた。


 「主人この!」

 「ふん、怪しげな使い魔風情が! くらうがいい!」

 「う、うわ……ぁ!?」


 グラデスの魔法が、倒れたボクを包む。

 身動きが出来ない、そのままボクは浮かび上がる。

 グラデスは軽く豪腕を振るうと、ボクの身体は砲弾と化した。


 「うー!」


 咄嗟に飛び込むカスミさん、ボクはカスミさんに抱き止められた。

 強い……まさに圧倒的。

 魔王? まさしく魔王の実力、こんな相手にどうやったら勝てるんだ?


 「ちぃ! このぉ変身するなんて聞いてないわよ!」

 「魔女よ、お前私の部下にならないか、幹部階級で雇ってやるぞ?」

 「だれがっ! この大魔女カムアジーフ様が一番嫌いなのは、私を舐めてる奴よ!」


 魔女さんは魔法を詠唱する。

 それを丸太のように太い腕を組んで、グラデスは待ち構えた。


 「四源の精よ、その理を重ね、目の前の敵を討て《四源乱舞(テトラエレメンタル)》!」


 魔女さんの杖から《火》《水》《土》《風》四つのエネルギー球(エレメンタル)が発生する。

 複数の属性を同時に扱う高度な魔法は、魔女さんの指令と同時にグラデスに襲いかかった。


 「やはりおしい、これだけの逸材魔界にもあまりいないだろうに……だが!」


 不規則に迫りくる四源乱舞(テトラエレメンタル)、グラデスは右手を(かざ)すと暗黒の魔力をエネルギー球にして、同じように()ち放った。

 激突する両者の魔法、顔色は魔女さんの方が悪い。


 「この私と同等の魔力レベルだっての……!?」

 「舐めてもらっては困るなっ! このグラデス様を!」

 「くっ! 人間を舐めるな!」


 背後から迫るハンペイさん、その手には小刀が握られている。

 首筋を狙った一撃、決まったと思った瞬間、グラデスは左手でそれを受け止めた。


 「クックック、おぉ怖い。首は弱点だからなぁ?」

 「……っ!」

 「惜しかったなぁ、とあ!」


 振り向き様に鋭い蹴りがハンペイさんの胴を(とら)えた。

 吹き飛ぶハンペイさん、グラデスはニヤリと笑う。


 「まず一匹、いや二匹かな……ククク」

 「なにをもう既に勝った気でおるか!」

 「なに――がっ!?」


 直後、グラデスの太い首にハンペイさんの蹴りが突き刺さった。


 「馬鹿な、直撃した筈……ハッ!」


 グラデスは初めて表情を歪ませた。

 無敵の魔人を思わせたグラデスも、構造的弱点はある。

 だがどうしてハンペイさんは即座に反撃を入れられたのか?

 その正体は吹き飛んだ《影》にあった。

 忍法、《影分身(シャドーサーパント)》の術だ。

 影分身が先に攻撃を仕掛け、見事グラデスの狙い(ヘイト)を逸らし、本命を入れることに成功した。


 「うー!」

 「今であります!」


 カスミさんは兄と息を合わせるように飛び込む。

 それと同時に頭上からフラミーさんがグラデスに急降下した。


 「アンデットか! 生意気な!」

 「うぅぅぅ……うー!!」


 グラデスの懐に飛び込んだカスミさんは、密着距離でボディブロー。

 だが鉄板のように分厚い筋肉の鎧の前では効果は薄いか。

 しかしカスミさんがただのキョンシーではないとボクは知っている。

 カスミさんは打ち付けた拳を震わせると、闘気を拳に集中させた。

 そのまま……ズドンと、グラデスの身体がくの字に曲がる。

 《発勁(はっけい)》、カスミさんの技の一つが炸裂した。


 「ぐがっ!? 衝撃が貫通しただと……!?」

 「やぁぁぁあ!!」


 更にフラミーさんは急降下キックでグラデスに襲いかかる。

 グラデスは顔を上げると叫んだ。


 「調子に乗るなよクズ共ーっ!!」


 突如全方位に放たれる闇の魔力。

 暴風めいて周囲にいた者達は吹き飛び、フラミーさんも近寄れない。

 グラデスは瞬間移動めいた速度で飛び上がると、フラミーさんを殴りぬいた。


 「目障りだ竜人!」

 「あぐっ!?」


 フラミーさんは回避出来ず天井にぶつかる。

 そのままぐったりしたフラミーさんが落下してくる。


 「い、いけないフラミーさん、が……!」

 「動いちゃ駄目にゃあ! アタシが行くにゃあ!」


 体の悲鳴を無視して、ボクはフラミーさんの救助に向かおうとするが、クロはそれを制止する。

 正直身体は満足に動かせそうにない、それでも誰かを助けられずどうして治癒術士(ヒーラー)を名乗れる?

 ボクは治癒術士だ、無理でも無茶でも、この事実を曲げる気はない。

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