表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/217

第106ターン目 力を合わせろ

 頭上を陣取る魔人グラデス、その右手には今や髑髏の杖が握られていた。

 彼は笑うように高々と魔法を詠唱する。


 「逃げ惑え虫ケラども! 《闇の弾丸(ダークブリット)》!」


 杖から放たれる闇の魔法は、雨あられのようにフィールドに降り注ぐ。

 ボクは身を守るのに精一杯で、手が出せない。

 そんな中果敢に飛翔する赤き竜女の姿があった。


 「フラミー突貫するでありますー!」

 「ぬ? 竜人(ドラゴンニュート)か?」


 フラミーさんは拳を握るとグラデスに殴りかかった。

 グラデスは髑髏の杖で応戦、空中で両者は激突する。


 「やぁーっ!」

 「ククク、とお!」


 フラミーさんの拳は届かない。

 突き出された髑髏の杖が先にフラミーさんの胸部に突き刺さる。

 フラミーさんは「かはっ!」と息を吐いた、しかし竜の瞳は益々強く燃え盛る。


 「うぅぅぅらぁぁぁあああああっ!!」

 「なに……ぐぅ!?」


 フラミーさんは髑髏の杖を握ると、そのまま握り潰す。

 恐るべき竜の膂力(りょりょく)(おのの)いたのはグラデスの方だ。

 フラミーさんの右手には炎が宿っている、彼女直様右手をグラデスに向けると、咆哮(さけ)んだ!


 「《赤竜の爆炎(ドラゴンブラスト)》!」


 ズガァァァン!!


 緋色の大爆発がグラデスを襲う。

 フラミーさんの右手から、まさか《竜の息吹(ドラゴンブレス)》のような爆炎が放たれるなんて。

 ともかくあの至近距離で直撃だ、流石にあの魔人といえどこれでは――。


 「クックック……やるではないか」


 白い煙の中にグラデスの姿があった。

 グラデスは多少ダメージを負ってはいたが、その顔は笑顔を絶やしてはいない。

 むしろこれからだという余裕さえあった。


 「(うそ)、でしょう……あの一撃を受けて……」

 「チッ、面倒ね……これだから階層主(ボス)って奴は」


 ボクが愕然と顔を青くする隣で、魔女さんは舌打ちしながら杖を構える。

 魔女さん、まだ全然戦意が落ちていない。

 凄いな……ボクとは心構えから違うのか。


 「魔女さん、あの魔人に勝つ手はあるんでしょうか?」

 「勿論あるわよ」


 彼女は断言する。

 ボクは救いを求めるように、その方法を(たず)ねた。


 「その方法はどんな?」

 「最大火力を死ぬまで浴びせ続ければいいのよ、シンプルでしょう?」


 ボクは思わずズッ転けそうになるが、錫杖を支えに(こら)えた。

 魔女さんは偉そうに鼻を鳴らしますが、ようするに脳筋戦法ですか。

 思えばこの人、器用な魔法の使い手なのに、倒し方は大火力で派手にどーんとやるのが好みだった。

 そりゃいつかはグラデスの生命力も削れるでしょうけれど……。


 「それは、最終手段としましょう」

 「血が流れる化け物は殺せるって格言があるでしょう、そういうことよ」

 「その理論だと、ゴーストやスケルトンは殺せないということでは!?」

 「そりゃ【既に死んでいる(アンデット)】だもの」


 当然、という風に言い返された。

 むうぅ、やっぱり魔女さんは油断ならない。

 ともかくグラデスといえど不死ではない、これは確かだろう。

 問題はあの異常なタフネスだ。

 フラミーさんの《赤竜の爆炎(ドラゴンブラスト)》の直撃を受けて、大したダメージを受けていない。


 「まさか【自動再生】スキル……?」

 「無いとは言い切れないわね、ともかくクロちゃん、援護頼めるかしら!」

 「やるしかないでしょうにゃあ!」


 ボクの(そば)を離れないクロは、グラデスを威嚇(いかく)しながら頷く。

 グラデスは強い、もしかすればレッドドラゴンよりも上の可能性さえある。

 こんな相手に個々にやっても勝ち目なんてある筈もない。


 「クロ、一先ずグラデスを地上に引きずり降ろそう!」

 「主人も覚悟が決まったかにゃあ? 引き受けるにゃ!」


 覚悟、なんて初めから決まっている。

 重要なのは踏み出す勇気だ。

 ボクの冒険者としての資質はきっと低い。

 それでも負けられない理由はある。

 だからボクは立ち向かえるんだ。


 「天照神よ、ちょっぴり輝き、刃を落とすにゃ! 《光短剣の雷雨(シャイニングスコール)》!」

 「むっ!? これは!」


 グラデスが頭上を見上げる。

 ダンジョンの天井に描かれたクロの魔法陣、そこから雨あられのように光の短剣が降り注ぐ。

 さながら雷雨だ、無数の小さな雷がグラデスに襲いかかる。


 「この姿だとこれが限界にゃあ……」

 「充分よ、クロちゃん。後は必ず当てるだけ……!」


 さしものグラデスも躱しきれない程の量には圧倒され、魔法の盾を頭上の展開する。

 それを待っていましたと、魔女さんは魔法を詠唱する。


 

 「魔導神よ、時の大魔女カムアジーフが命じる、我らに仇なす者を灰燼と化せ! 《浄滅の炎(インドラの矢)》!」


 魔女さんの七色に輝く魔法陣がクロの魔法陣と重なる。

 幾重にも複雑に重なった魔法陣は美しくさえある、だがその雷鳴は決して優しくない。

 ズガァァァン!

 《浄滅の炎(インドラの矢)》はグラデスを飲み込む。

 白色の炎の中に包まれたグラデスは地上へと落下を余儀なくされた。


 「ぐわー!?」

 「今よ鎧の悪魔!」

 「応ともさー!」


 下で待ち構えていた勇者さんは剣を構える。

 墜落するグラデスに一気に決める為、彼は飛び込む。


 「必殺、十文字斬り!」


 十文字(クロス)する勇者さんの剣技が、グラデスに炸裂する。

 グラデスは悲鳴をあげながら、大きく吹き飛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ