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第105ターン目 階層主 登場

 第四層を歩き続け、数時間。

 相変わらず代わり映えのしない風景にうんざりしながら下り階段を探していた。

 無駄に広いダンジョン内は危険も多く、心身の疲労は徐々に蓄積していく。


 「……そろそろ休憩がいりますかね?」


 最初に呟いたのはボクだ。

 無言で歩く勇者さんはボクに振り返ると。


 「もうそんなに疲れちゃった?」

 「あっいえ……まだそれ程は、けれど無茶もし過ぎると」


 パーティで最も体力が無いのは間違いなくボクだ。

 ボクもまだ平気だけど、むしろ心労の方が厳しいかも。


 「マールの言わんとしていることもわかるわ、こうも進んでいる実感がないとね」

 「たしかに第四層は視覚的に疲弊しやすいですな」


 魔女さんとハンペイさんも同意見か。

 二人はボクに比べると平然としているのは流石だな。

 勇者さんは「うーん」と唸る。


 「それじゃちょっと休憩するー?」

 「まっ、急いで遅くなるよりマシよ」

 「ちょっと待つにゃあ……なにか気配があるにゃあ!」

 「うー!」


 クロの言にボクは周囲を警戒した。

 同時にカスミさんが唸りだす。

 間違いない、近くに敵意が潜んでいる。


 「……この感覚、ミノタウロスの時と似ているわね」

 「あぁ、あの時も敵が見えないのに唸っていましたなぁ」

 「そもそも隠れられる場所があんまり無いでしょう、ここは」


 魔女さんの言うとおり第四層は細い通路と玄室の繰り返し。

 時折大部屋や、回廊に出ることもあるが、ああいうのはここでは貴重だ。


 「つまり……進路上に敵がいる?」


 ボクはゴクリと(のど)を鳴らした。

 この感じ、なんだかスネークマンの時とも似ているな。

 だとすると……やっぱり。


 「また四天王ですか?」

 「いや、四天王は全員倒したわ……だから」


 覚悟を決めて歩く先、やがて開けた大部屋が目の前に広がった。

 天井の高さは第四層では最大級、巨人でさえ突っかえることはないだろう。

 そして正面、フラミーさんは叫んだ。


 「あっ、階段でありますよ、階段!」


 なんと、遂に第四層の終着点に辿り着いたのか。

 フラミーさんは勇んで駆け寄る、直後フラミーさんは後ろに吹き飛ばされた。


 「あうっ!?」


 何が起きた?

 闇の波動がフラミーさんを吹き飛ばすと、彼女は尻もちをつく。

 ふっ飛ばしたものの正体、大広間の中心にはボクの半分ほどの背丈(せたけ)の【魔人】が浮かんでいた。


 「クックック、よく来たな冒険者どもよ」

 「こ、子供……?」


 一見すれば、角と翼に尻尾の生えた子供だ。

 しかし立ち昇る瘴気は、これまでとは桁違いに禍々しいものだった。

 ボクは緊張に錫杖を握り込む。

 紛れもなくこの魔人は【階層支配者(エリアボス)】だ。


 「我が名は偉大なる魔人グラデス! 貴様らの好き勝手はここまでだー!」

 「……で、今度はなにをする訳? 見たところリングは見当たらないわね?」

 「ふん、リングが必要か? ならば!」


 グラデスは右手に魔力を込めると、部屋全体が振動した。

 そして足元からバトルリングが迫り出してくる。

 ボク達は驚いていると、あっという間に六角形の巨大なバトルグラウンドが完成した。


 「クックック! お前達、このグラデス様が相手だ、全員かかってくるがいい!」


 ボクは皆の顔を見回す。

 不安げなのはボクだけだろうか。

 豊満な胸を腕で持ち上げる魔女さんは、下らなさげに言い切った。


 「上等じゃない、容赦しないわよ」

 「する余裕があるのかな? クックック!」

 「これまでの魔人とはやや趣きが異なるよう、だが容赦はせん!」


 全員でかかってこいと豪語する魔人グラデス。

 皆の闘志は心強いものだ。

 ハンペイさんは素早く走り込むと、牽制のシュリケンを投擲。


 「ふん! この程度」


 しかしグラデスは闇の障壁でシュリケンを受け止める。

 パラパラと床に落ちるシュリケン、しかしそこに勇者さんが突っ込む。


 「はぁーっ!」

 「接近戦か!」


 魔人は闇の中から禍々しい髑髏(どくろ)の剣を取り出すと、勇者さんと打ち合った。


 「クハハハハハ! 中々の力だな! どうだお前私の部下になる気はないか!?」

 「部下? 冗談でしょ? 俺は勇者だよ!」

 「違うな! お前は呪われた鎧だ! 我らが敵対する理由などない!」

 「勝手なことを!」


 激しい剣での応酬は、勇者さんが力で押し切る。

 だがグラデスの表情は余裕のまま、魔人はそのまま浮かび上がった。


 「魔導神よ、大魔女カムアジーフが命じる、我が前の敵を討て!」

 「む? ふん……!」

 「《討滅の炎(インドラの矢)》!」


 魔女さん必殺の魔法が、魔人グラデスに襲いかかる。

 やったのか、ボクは息を飲み白光に飲み込まれたグラデスを注視した。

 そしてボクは、その圧倒的な魔力に驚愕する。


 「ふんっ!」


 気合、ただそれだけで空気が振動し、魔力が霧散した。

 グラデスはニヤリと笑うと、ボクらを俯瞰する。


 「中々やるではないか、だが足りん!」

 「ぅ……あぁ、こ、こんなことって……」

 「しっかりするにゃあ主人! こんなところで諦めちゃ駄目にゃあ!」


 ボクは取り落しそうになった錫杖を慌てて、握り直す。

 しゃんしゃんと、神聖な音が零れ落ちるのに、ボクは恐怖に(あらが)うので必死だった。


 「なんなのよアイツ、私の魔法を正面から受け止めたの?」

 「魔法防御力がかなり高いのかもにゃあ」

 「それか、小細工があると思うべきよね」

 「それならばもう数撃様子を見るでありますか?」


 こういう時女性陣はなんて強いんだろう。

 いや違うな、ボクだけが弱いんだ。

 魔人グラデスは間違いなく強敵だ、怖れて当然である。

 それでも恐怖に打ち勝つことこそ、冒険者の誉れだという。

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