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第101ターン目 時計魔人の 謎を解け の巻

 「チックタック、尻もちドロップ! しかしハンペイそれを転がりながら回避ー!」

 「チィ! そのままお寝んねしてればいいものを!」


 ハンペイさんはゴロゴロ芋虫のように転がりながら難を逃れる。


 「ハァ、ハァ……強い、これほどとは」

 「うー!」


 エプロンからハンペイさんにカスミさんは手を伸ばす。

 タッチだ、選手交代。

 ロープを掴んで飛び込んだカスミさんは、チックタックにドロップキックを敢行する。


 「させるかー!」

 「うー!」


 しかし空中からベンガルがインターラプト、チックタックとタッチしてカスミさんのドロップキックを受け止める。


 「ガラララ! こんなもの効かんわー!」

 「うー!?」

 「【受けの美学】だわ! 厄介なスキルよね」

 「なんとベンガル、ドロップキックを逞しい胸筋で弾き返したー!」

 「うぇぇ、そんなのあり?」


 ボクの倍以上は厚い胸の筋肉は震え、強靭さをアピール。

 両腕を持ち上げ上腕二頭筋を膨らませれば、ボクの首より太いんじゃないだろうか。

 チックタックとハンペイさんは既にリングを出た。

 リング中央は再び最初の組み合わせとなった。


 「チックタックには謎があるけど、一先ずベンガルだ。ベンガルさえ倒せば圧倒的有利、頑張れーカスミさんー!」


 ボクは精一杯声援を送る。

 カスミさんはぴょんぴょんとマットを跳ねると、手で掛かってこいと、アピールした。


 「ガラララ! 今度こそその華奢な身体捻り潰してやるぜー!」

 「ベンガル正面から突撃、その体格差はまるで筋肉山脈と小猫かー!?」

 「まったく! 肩にちっちゃいドラゴン乗せてんのかーい!!」

 「ど、どっちを応援しているんだ……この人達は」


 魔女さん、こういうミーハーなのが大好きなんだろう。

 勇者さんもどちらかというと、陽気な方だし、変なスイッチが入っているよね。

 試合の方はベンガルがタックル、だけどカスミさんはそれを読んで膝蹴りをベンガルの顎に打ち込む。

 強烈、顎が砕けたんじゃないか?

 それでもベンガルは【受けの美学】というスキルで強引にカスミさんを掴んだ。


 「ベンガル、カスミを持ち上げたー!!」

 「『ブレーンバスター』くるわ!」


 ベンガルは自慢の膂力でカスミさんを引っこ抜くと、逆さにし後ろに倒れ込む!

 脳天砕き(ブレーンバスター)がカスミさんの頭部に炸裂!

 マットが大きく跳ね上がる!

 ド派手な大技に、勇者さん魔女さんも大興奮だ。

 一方気が気じゃない兄の心境は。


 「カスミー! 立てー!」

 「うー!」

 「なに……ぐご!?」


 兄様に言われるまでもないと、カスミさんは直ぐに立ち上がるとベンガルを後ろから殴る。


 「カスミ直様反撃ー! カスミがいった、いった、いったー!」

 「キョンシーに脳震盪を狙ったのはミスね、ド派手な大技には好感が持てるけれど」


 アンデット種であるキョンシーは脳で思考を殆どしていない。

 そもそも【ゾンビ】や【スケルトン】に脳があるのかという問題と同じだろう。

 キョンシーのカスミさんには生半可な技は通じないのだ。


 「まぁとはいえ、エルフ族の華奢な肉体に蓄積するダメージは無視できないわね」

 「カスミさん、厳しいんですか?」

 「直前でどれだけ回復したか次第ね……彼女連戦なのよ」


 カスミさんは痛みを顔に出さないから、特に蓄積したダメージは計りきれない。

 一度しっかり治癒するべきなんだろうけれど、試合中はそうもいかないか。

 ともかく、今は応援するかしかない、ボクは一層声を張り上げた。


 「チクチチク……こいつは不味いか?」

 「……? チックタック?」


 実況席の近くからだと、エプロンサイドで試合を見守るチックタックの呟きが聞こえた。

 そうだ、チックタックには不可思議な技が数多くある。

 ボクは直ぐにカスミさんに注意を(うなが)した。


 「気をつけてください! チックタックがなにか仕掛けるかもー!」


 思い出させるのはあの《悪魔の鳩時計(ポッポープレス)》、あれで妨害されていなければカスミさんは勝っていたのだ。

 カスミさんは聞こえたのか、聞こえていないのかベンガルを殴りつけ、ベンガルをロープに押し込む。

 そのまま反動で返ってきたベンガルの腰を掴み、その巨体を持ち上げる。


 「弧を描くベンガル、この技はー!」

 「明日に架けろ人間橋! 『ジャーマンスープレックス』だわ!」


 ズシィィン!

 ベンガルのブレーンバスターをも上回る大振動でたわむマットに脳天からベンガルが落とされた。

 そのままカスミさんはベンガルをホールド、フラミーさんがすかさず飛び降りる。


 「一つ(ワン)!」


 マットを叩き、カウントが始まる。


 「あの馬鹿! 油断しやがって! 仕方ねぇ《時計仕掛けの雷鳴(タイムフォーブレイク)》!」

 「あの技っ!? まただ! なにが起きるんだ!?」


 チックタックの身体から放たれる雷鳴のような轟音。

 耳を塞ぎながらボクはチックタックに注視した。

 リングではカウントが続く。


 「二つ(ツー)! スリ――」

 「時は俺様の物だーっ!」


 次の瞬間、世界は白と黒に脱色する。

 そして世界は崩壊するように時と空間がチックタックに圧縮された。

 この技は……まさか!?


 「あーっと悪が勝ったーっ! ベンガルカスミをフォール!!」

 「はっ!? カスミさん!」


 ボクはリングを見た、そこにはジャーマンスープレックスでカスミさんをフォールするベンガルがいた。


 「そんな馬鹿な!? フォールしていたのはカスミさんなのに! カウントだって三つ(スリー)まで!」

 「ちょ、ちょっとどうしたのよマール、さっきから訳のわからないことを叫んで?」

 「チックタックですよ! チックタックが結果を入れ替えた! 理屈はわからないけどチックタックには結果を変える能力があるんですよ!」


 ボクは実況席の机を叩いた。

 魔女さんは目を細めると、ボクの言葉を吟味する。

 試合はカウントが二つ(ツー)、カスミさんはなんとかフォールを脱して、ベンガルから離れる。


 「結果だけを入れ替える? そんなことが、いや待ちなさいマール、仮に本当だとしてどうしてそれがわかるの?」

 「そ、それは……」


 理由はボクにだってわからない。

 ただチックタックが《時計仕掛けの雷鳴(タイムフォーブレイク)》という技を使う時、特殊な魔力が放出されているとクロは言っていた。

 魔力……そうだ魔力だ!


 「魔女さん、チックタックの魔力は何色なんですか!」

 「チックタックの……直接触れたら分かるんだけど」

 「それは遠くからでも?」

 「不可能じゃないわね」


 チックタックはズルをしている……と思う。

 鍵は【結果】だ、チックタックには【結果】だけを【変更】する能力がある。

 でもそんな事が本当に可能なのか。

 可能だとしても、そんな能力どうやって攻略すれば……。

 ともかく、ボクはチックタック攻略に向け動く。

 お願いカスミさん、ハンペイさん、この試合絶対負けないで!

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