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第100ターン目 時計仕掛けの雷鳴 の巻

 ズドン、ズドン!

 リングで次々と連鎖爆発が起きる。

 爆発は煙を起こし、観客席からはリングが見えない。


 「爆炎に包まれて何も見えません! 試合は決着がついたのか!?」

 「あーもう! 肝心の試合が見れないなんて! もっとパフォーマンス技術を磨けやこらー! 観客舐めてんのかー!」


 魔人に文句を言う魔女さん、キャラが完璧に変わっているなぁ。

 時々変なこと言う人だけど、勇者さんといいなにがそんなに彼らを変えるんだろう。


 「しかし審判試合を上空から見守ったまま、コールはしません!」

 「フラミーは竜人よ、炎の中も見通す瞳がある筈」

 「だとすると、煙の向こうではまだ試合が……あーと、煙が薄まってきました、結果はー?」


 段々リング内が鮮明になっていく。

 すると見えてきたものに、ベンガルは驚愕しコーナーポストを叩いた。


 「馬鹿な!? 何故チックタックが!?」

 「あ、あががが……?」


 煙が晴れると見えたのは、爆風で全身を焦がしたチックタックと、同じく全身を(すす)けさせたハンペイさんの姿だった。


 「忍法、《写身の術》、この術は某の受けたダメージの半分を相手に返すでござる」

 「なんとー! やはりニンジャは凄まじい! あの爆風の中を生き残り、あまつさえチックタックがダメージを受けたー!」

 「野郎汚ねぇ真似しやがって!」

 「そっくりそのままお返ししよう」


 汚いのはどっちだと、ハンペイさんは冷静に腕を組んで言い返す。

 両者ダメージはあるが、精神的動揺を含めればハンペイさんがリードだ!


 「今だー! ハンペイさんいけー!」

 「根性見せるにゃハンペイ!」


 ボク達の声援を受け、ハンペイさんはチックタックに襲いかかる。


 「はぁ!」

 「ぐが! ぐご!?」


 ハンペイさんの拳打がチックタックの表面をベコベコと凹ませていく。

 ラッシュ攻撃に反撃出来ないぞ。


 「チックタック! 交代だー!」

 「させぬ! くらえ!」


 ハンペイさんはロープ際にチックタックを追い込むと、ロープを巧みに操り、チックタックの首をロープで挟み込んだ!


 「おーっと、これは残酷! ロープは反動から戻ろうとし、チックタックの首を締める! このままではチックタックが危ないー!」

 「どっちが悪役(ヒール)か分かんない技を使うわねー」

 「……状況判断だ、さて降参するなら命は助けてやるが?」

 「チ、チクチクチク……! 命惜しくて戦いを放棄するのは……腰抜けのする事だー!」

 「あーっと! チックタック起死回生か! 両足でハンペイを掴んだーっ!」


 ハンペイさんとチックタックの戦い、それはどっちが主導権を握っているのだろうか。

 首を締められるチックタック、執念でハンペイさんの首を足でガッシリロックした。


 「なにをする気だ!」

 「知れたこと! 喰らえ必殺!《時計仕掛けの雷鳴(タイムフォーブレイク)》!」


 ガッガァァァァァン!

 さながら雷鳴がチックタックから響き渡る。

 凄まじい耳鳴り音にボクは両耳を手で押さえた。

 更に効いていたクロは全身の毛を震わせ立ち上がった。


 「ふんぎゃろー!? す、凄まじい魔力の波動にゃー!?」

 「魔力……まさか魔法を?」

 「違うにゃあ、アイツの身体は機械仕掛け、その動力は魔力にゃ……だからこれは!」

 「まさか……自爆攻撃!?」


 チックタックから放出される雷鳴めいた轟音。

 その中に含まれた膨大な魔力にクロは(ひげ)をビンビン震わせた。

 一方、実況席にいた魔女さんも席を立つと、信じられないと目を見開く。


 「あの波動(オーラ)、まさかコイツ……!」

 「カム君? 立ち上がってどうしたの?」

 「ッ! ハンペイ急いで離れてー!」


 実況をかなぐり捨てて、魔女さんが叫ぶ。

 ハンペイさんは咄嗟にチックタックを殴りつけるが、チックタックも執念でハンペイさんを離さない。


 「無駄だぁ! そして見よ……これが時計魔人の矜持だーっ!」


 次の瞬間――世界は白と黒だけを残して、脱色した。

 なにが起こったのか、その場にいる誰にも分からなかった。

 ただ世界が歪む、それはまるで時間と空間が破壊されたような――――。


 ズドォン!


 「あーっと! チックタック、ハンペイにボディプレス! ハンペイ口から血を吐いたーっ!」

 「……え?」


 僕の目にはいきなり世界が入れ替わったように思えた。

 だって、いきなりリング中央でチックタックがハンペイさんを巨体で押し潰していたんだ。


 「く、クロ? なにが起きたの?」

 「にゃあ? なにって見ての通りにゃあ! ハンペイが押されているんでしょうがにゃあ!」

 「……? えっ、でも……ハンペイさんはあともうちょっとで」

 「ククク! 無様だなニンジャマスター! だが俺様と戦おうなんて十万時間早いようだぜー!」

 「時間……?」


 ボクは周囲を見た。

 捲し立てるように実況する勇者さん、その隣でしかめっ面でふんぞり返る魔女さん。

 リングの上ではフラミーさんが浮遊して、試合を見守っている。

 エプロンサイドではキョンシーさんとベンガルが試合を熱く見守っている。


 「ちょっと、クロ席を外すから!」

 「にゃあ? 主人ったらどうしたのにゃ?」


 ボクは優しく丁寧にクロを膝から下ろすと、直ぐに魔女さんの下に駆け寄った。

 試合は今もチックタック優勢、ハンペイさんのダメージが大きい。

 一体、どうなっているんだ。

 チックタックはなにをした?

 何故か両者のダメージもボクの記憶と食い違っている。

 チックタックは今にも身体がバラバラになりそうな程のダメージを受けいたんだ。

 それなのに、まるで今までの戦いが無かったかのようになるなんて。


 「魔女さん!」

 「あらどうしたのマール」

 「こ、この試合おかしくないですか?」

 「おかしいって? 正々堂々戦っているじゃない」


 駄目だ、魔女さんも理解していない。

 そもそも立ち上がって実況もかなぐり捨てた魔女さんが、気がついたら座って平静を取り戻しているなんて、おかしい。


 「魔女さん、チックタックが必殺技を放つ前、立ち上がってなにを言おうとしたんですか?」

 「はぁ? 私ずっと座っているでしょうが、なに夢でも見たの?」


 夢……?

 魔女さんは胡乱(うろん)げな眼差しをボクに向ける。

 ボクは、今が夢か(うつつ)か判然としない。

 なにかがおかしい、どうしてボクだけこんな強烈な違和感を覚えているんだ?


 「チックタックにはなにか秘密がある……その謎を解かないと負ける……!」

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