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第98ターン目 恐るべし! 機械仕掛けの 行進曲 の巻

 「カスミー! 手を伸ばせ! こっちだー!」

 「う、うー!」

 「させると思うかー!」


 リング中央で攻防は続く。

 カスミさんの髪を掴んだベンガルは、圧倒的優位でカスミさんの顔面を殴った。

 ハンペイさんの叫びも虚しく、ベンガルは戦巧者でもあった。


 「チックチック! 終わったな!」

 「くっ! おのれ……!」

 「うー、うー!」


 絶体絶命の中、カスミさんは遂に反撃に出る。

 ここまでじっと耐えていたのは、丹田に力を溜める為だ。

 気迫と共に、彼女はマットを足で叩く。

 するとマットは激しく上下にたわみ、ベンガルは態勢を崩した。


 「これは凄い! カスミの《発勁》でリングが揺れる!」

 「い、いけー! カスミさーん! 反撃だー!」


 ボクは思いっきり叫んで声援を送る。

 カスミさんはそれに応えて、ベンガルの首に両腕を掛ける。


 「首締めだー! 人体の急所、気道を閉められればどんな強靭な選手でも耐えられない!」

 「やるわねカスミ、気道は鍛えられない部位の一つ、流石ニンジャといったところね!」


 キョンシーの馬鹿力で締められるベンガル、苦悶の表情で引き剥がそうとするとそれが出来ない。

 限界(リミッター)の外れた規格外の力は並大抵ではないのだから。


 「よーし、いいぞカスミ、そのまま落としてしまえ!」

 「チチチ! させるかー! 《悪魔の鳩時計(ポッポープレス)》!」


 突然ロープの外にいたチックタックの胸元が開く。

 するとそこからバネ仕掛けの鳩がカスミさんに直撃した。


 「なっ!? そんなのあり!? ちょっと審判! どうなのよ!?」

 「えと、アレは体の一部なのでセーフ!」

 「流石公正神の信徒……フラミーさん、容赦ない」


 ボクは苦笑いを浮かべる。

 公正神の信徒は虚偽をとにかく嫌う、よくも悪くも正直を是とする。

 審判をやらせるなら、感情に左右されないから公正神の信徒は適切かもね。

 ……ボク達冒険者には不利な判定だけど。


 「グルル……、た、助かったぜ」

 「交代だベンガル! そろそろ俺様にも戦わせろ!」

 「チックタックのアシストでベンガル交代! チックタックリングイン! 先程見せた技、実況のカム君どう思う?」

 「カラクリ仕掛けの魔人なんて聞いたこともないわよ、一体どんなファイトを見せてくれるのか、楽しみね」


 機械仕掛けの魔物は時々だけど、ダンジョンにも出てくる。

 でも殆どは単純な動きをするものばかり。

 チックタック、見た目は大きな置き時計の怪物だけど、どんな戦い方をするのか。

 一方少なくないダメージを受けたカスミさんも、ハンペイさんと交代。

 役者は一気に様変わりし、場の雰囲気は変わったように思える。


 「某の妹を可愛がってくれたこと、たっぷり礼をせねばな……!」

 「チックチックチック! お前も地獄に送ってやるぜー!」

 「先制攻撃はチックタック! 体当たりだー!」

 「ふん!」


 巨体を活かした体当たり、しかしハンペイさんは素早く横に跳ぶ。

 ベンガルと比べると大味な技、という感じだろうか。


 「まだだぁ! 機械仕掛けの世界はまだ終わっちゃいねぇ! くらえ《玩具の大行進(デスマーチ)》!」


 今度はチックタックの両脇がパカッと開くと、そこから小さな玩具が次々出てくる。


 「わぁ可愛い!」

 「主人、可愛い物好きだからって、敵を応援しちゃ駄目にゃあ」

 「い、いえ……でも、可愛いものは可愛いですし」

 「そんな主人が世界で一番可愛いと思うにゃあ」


 ボクは照れると頭を掻いた。

 赤い服にマーチングバンドの玩具達は、リングを埋め尽す。


 「なにこれ……なにをやるっての?」

 「解説のカム君も困惑! これは一体なんなのかー!?」

 「チックチックチック! さぁ踊れ!」


 バトンや楽器を持った玩具達は、リングで突然踊りだす。

 凄まじい音量で楽器を掻き鳴らし、足の踏み場もない程敷き積まれた玩具達の行進は理路整然とした美しさがあった。


 「う、煩いにゃあー! なんて喧しい技にゃあ」

 「う、うん……遠くまで聞こえるようにする為かな?」

 「肝心の演者が小さ過ぎると思うにゃあ!」


 観客席どころか、数ブロック先まで響くんじゃないのかという大合奏。

 当然リングに立つハンペイさんには、それだけで凄まじい威力を発揮していた。


 「くうう! 煩くてかなわん! やむを得ん!」


 ハンペイさんは玩具にストンピング攻撃、玩具は無残に踏み潰された。

 しかしチックタックはそれを見てむしろ笑う。

 笑う? 自分の出した玩具を壊されて?


 「マーチの邪魔をしたな……? お前らー! マーチの邪魔者に鉄槌をー!」

 「な……一斉にこちらに!?」


 玩具達は演奏を止めると、一斉に視線をハンペイさんに向けた。

 集団恐怖症の人が見たらゾッとしそう。


 「壊された玩具の恨み受けるがいいー! 《直進葬送曲(レクイエムマーチ)》!」


 赤いマーチングバンドの玩具達は一斉に目を赤く光らせると、ハンペイさんに襲いかかった。

 ハンペイさんはもがく、しかし数の多さにハンペイさんは抗いきれていない!


 「ガラララ! チックタックの野郎本当にえげつないぜ!」

 「玩具達ハンペイに取り付く、取り付くー! そのまま重量で押し潰そうというのか!?」

 「まさか! この俺様がそんな優しい殺し方をするわけねぇーだろう!?」


 直後ズドン! と音と共に玩具が炸裂する。

 ハンペイに取り付いた玩具達は一斉に爆発、小さな火花をあげた。


 「うー!?」

 「チックチック! 終わりだー! 地獄に落ちな(ゴートゥーヘル)!」


 勝利の確信に、四天王達は笑う。

 ボクは手に汗を握りながら、震える体を抑えてハンペイさんを見守る。

 このまま、本当に死んでしまうのか!?

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