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第97ターン目 カスミ 対 ベンガル の巻

 「ほぅ【達具抹散(タッグマッチ)】ときたか、中々嫌な予感がするわね……」

 「うわぁ……カムアジーフ様、また始まったであります!」

 「し、知っているんですか魔女さん?」


 魔女さんは腕を組むと頷く。


 「うむ、聞いたことがある。古の闘士達は時として主義主張の違いから争い、この達具抹散(タッグマッチ)で決したと!」

 「ごくり、つまりこれはボク達と四天王の決戦だと」

 「かの悪魔な将軍はこう残したというわ……戦いの結末は生か死だけだ、と!!」


 凄みを聞かせて目を見開く魔女さん。

 二人の魔人は笑いながら。


 「さぁ冒険者共よ、勇気あるものはリングに上がれ!」

 「腰抜けは震えながら観客席で見てな!」

 「あーっ、今回はちゃんと観客席あるんだー」


 リング四方には段差を作り、パイプ椅子まで並べられていた。

 手の込んだ作り、魔人達の本気度がわかる。

 今までと雰囲気180度違うことは置いておくとして。


 「で、誰が行くー、俺がやろうかー?」


 勇者さんは手を挙げながら周囲を(うかが)う。

 すると真っ先リングに上がったのは、カスミさんだった。


 「うー!」

 「ちょっとカスミ! 連戦で大丈夫なのかにゃあ!」

 「ええい止めるでないクロちゃん! これは譲れない戦いなのよ!」

 「いや普通に皆で戦えば良いでありませんか?」


 瞬間、魔女さんはフラミーさんの(ほお)をバチンと手で叩いた。


 「お馬鹿! なんてことを言うの! これは神聖な闘技よ! 敢えて言うなら空気読め馬鹿!」

 「か、カムアジーフ殿そこまで……」

 「やれやれ、無茶しかねん妹の世話は某に任せて貰おう」


 埓があかない二枠目に名乗りあげたのはこちらも連戦のハンペイさんだ。

 ハンペイさんはジャンプしてリングに上がると、カスミの肩を叩いた。


 「少しは兄を頼れ、いいな?」

 「うー……」


 カスミさんは小さく頷く。

 勇者さんは「それじゃあ」と動き出した。

 ついでに魔女さんまで。


 「じゃあ俺実況ー」

 「私は解説するわ」


 二人はノリノリで実況席に移動した。


 「えと……あの私はどうすれば……?」

 「じゃあジャッジお願いするわ!」


 いまいちこの空気に慣れないフラミーさんは困惑する。

 とりあえず魔女さんの指摘どおりフラミーさんは審判をすることになった。

 ボクとクロは観客席に移動する。


 「えと、それじゃあ……」

 「軍人さーん、これー!」


 魔女さんは空中に魔法でカンニングペーパーを投射する。

 そこに書いていることを言え、という指示だ。


 「わ、分かったであります。えー只今より第四層タッグマッチを開始します!」


 フラミーさんの高々とした声、まるでエコーが掛かったようによく響く。


 「青コーナー! 【影と月の闘士(ニンジャウォリアーズ)】ッ!!」

 「うー!」


 カスミさんが拳を振り上げる。

 ハンペイさんは腕を組んだまま瞑想している様子だった。


 「続きまして赤コーナー! 【虎計(イマジションヘルズ)】ッ!!」

 「ガオーン!!」

 「チックチック!」


 魔人の二人は両手を振ってアピール。

 さぁ始まるぞ、勇者さんのマシンガントーク。


 「さぁいよいよダンジョン通過を賭けた四天王と冒険者陣営の決戦が始まろうとしています、両陣営の様子はいかがですか、解説カム君!」

 「そうね、マイクパフォーマンスは四天王の勝利ね」

 「なるほど、冒険者側のダメージは重いと!」


 勝手なこと言っているなぁ、とボクは苦笑した。

 ボクの膝の上ではクロが丸くなって欠伸する。


 「にゃおう、やっぱり主人の膝が一番にゃあ」

 「ははっ、一緒に応援しようか?」

 「にゃん……主人に命令されたら断れないにゃあ」


 コーナポストで身体を温める両陣営。

 審判のフラミーさんは中央に立つと、選手を呼ぶ。


 「両陣営、代表選手中央へ」

 「ワシがいく」

 「うー!」


 四天王側はベンガルが先発、チックタックはロープの外側に出た。

 一方こちら側は、突然キョンシーさんが飛び出した。

 そのまま彼女はベンガルにドロップキック!


 「ああーっと、不意打ち! カスミの不意打ちだー! 試合開始ーっ!!」


 カァン!

 ゴング(備え付けだ)が鳴ると、フラミーさんは慌てて羽根を広げて飛び上がった。


 「て、あれ? フラミーさん飛べたの?」

 「あははー、飛べたみたいでありますー」


 どうやらフラミーさん自身竜人娘の特性をまだ把握しきれていないようだ。

 鳥人じゃあるまいし、人族には飛ぶという感覚が分からない。

 竜人になれば、感覚的に飛べるんだろうか。


 「フラミーより試合にゃあ、黙っちゃいないにゃよ、これは!」


 クロの指摘の通り、ベンガルは不意打ちを食らって(きば)を剥き出しにした。


 「不意打ちとは生意気な!」

 「チックチックチック! 所詮卑怯な手でしか勝てない弱小キョンシーに思い知らせてやれー!」

 「おーう! くらえー! 《虎爪連撃(タイガースラッシュ)》!!」


 ベンガルの長く鋭い爪が飛び出す。

 まるで野生の猫科を思わせる強烈な連続攻撃がカスミさんを襲った。


 「うー!」

 「カスミ防戦一方ーッ! なおもベンガル、攻撃を続ける!」

 「ガララララ! まだまだー! 《虎尾鞭撃(タイガーウィップ)》!」


 巨体に見合わない身軽な動きで、ベンガルはカスミさんをロープ際まで追い詰めた。

 独楽のように回転すると、ベンガルの尻尾がカスミさんの胴を打つ。


 「強烈! カスミの身体がロープに食い込むー!」

 「これは不味いわね……跳ね返るわよ!」


 ロープはある程度は伸びるが、反動はカスミさんに跳ね返る。

 ロープに弾き返されたカスミさんは、無防備だ。

 ベンガルは上腕二頭筋を膨らませ、カスミさんに強烈な《ラリアット》を見舞う。


 「《ラリアット》炸裂ー! カスミマットにこのまま沈むのかー!?」

 「ガララララ、この程度か冒険者ー?」

 「う、うー……!」


 ベンガルはそのままカスミさんの髪を掴むと、引っ張りあげる。


 「見ているがいい! 貴様達の仲間が処刑される様をー!」


 ベンガルはボク達に凶悪な顔を見せ舌を出す。

 空いた左腕を高く振り上げるヒールアピールだ。


 「アイツ理解しているわね!」

 「カスミ絶体絶命ー! ベンガルそのままカスミの顔を殴る! 殴る! 殴り続けるー!」

 「うわぁ……!?」


 ボクは思わず顔を背けてしまう。

 女性の顔をグーで殴るなんて、そんな残酷な戦闘はとても見ていられない。


 「主人、ちゃんと見るにゃあ、どんな結果であれ、それを見届けるのは主人の義務にゃ」

 「クロ……?」

 「パーティの頭首(リーダー)は主人にゃあ、ならちゃんと見届けるにゃあ」


 ボクはクロに言われて、試合に目を向ける。

 怖い、カスミさんがボコボコにされていくのを見ていられない。

 それでもボクは全ての客観的事実を受け入れなければならないんだ。

 頭首(リーダー)が仲間を見ていないなんて、ありえない。 

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