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第94ターン目 脅威 忍者の 残り時間は あと三分 の巻

 スネークマンの顎が跳ね上がる。

 強烈で鋭い蹴り上げだ。


 「決まったーっ! 第一撃(ファーストヒット)を手にしたのはハンペイ! 今の一撃どうです解説のマル君!」

 「えと……カスミさんと同じような技でしたね、やっぱり兄弟だからでしょうか?」

 「なるほど、兄弟揃って足グセが悪いと!」

 「そ、そこまでは言っていないですよ!」

 「さぁ試合はこのままハンペイが持っていくのか、ハンペイさらにスネークマンに仕掛けるっ!」


 ハンペイさんとカスミさん、同じニンジャの里の生まれだから技はやっぱり似ている。

 流派というものなのかな、よくわかんないや。

 金網リングに注目すると、よろめいたスネークマンに容赦なくハンペイさんは仕掛ける。

 拳がスネークマンの頭を振り抜き、膝蹴りが腹に突き刺さる。


 「スネークマン悶絶! このまま決まってしまうのかー!」

 「スネークネクネクネク! 今だ!」

 「ああっとスネークマン、何事もなかったかのようにハンペイに反撃っ!」

 「嘘っ! あれで動けるんですか!?」


 スネークマンはハンペイさんの足を取ると、素早く押し倒す。

 そのままハンペイさんを裏返し、足をありえない方へと押し曲げた。


 「あっと足ひしぎ十字固め! これは強烈だー!」

 「ぐ、おおおおっ!」

 「ネクネクネク! この私の関節技からは逃れられない! このまま足を砕いてやるぞーっ!」


 スネークマンの強烈な関節技にハンペイさんも顔色が変わる。

 反撃の手はないのか、ボクはハラハラと両手を握った。

 だがハンペイさんの足は無情にもボキンと音を立てた。

 喜色を浮かべるスネークマン、もはやここまでか!


 「ネクーッ! 折った! これでもうお前は終わり……だっ!?」


 構わずハンペイさんはスネークマンの顔面に拳を打ち込む。

 その顔色は些かも動揺さえしていない。


 「ハンペイ反撃ぃ! なんとか関節技から逃れるが、あの足で戦えるのかー!?」

 「い、いえ……なにか様子がおかしいですよ、あれは……!」


 ハンペイさんは片足で立ち上がると、折れた足をその場で戻してしまった。

 それにはスネークマンもボクも、勇者さんでさえ驚いた。

 なんの魔法か、でも回復魔法はハンペイさんは使えない筈。


 「ネクネクッ!? 何故だ、関節技は極まっていた筈!」

 「あぁ、そう見せかけたのだよ、実際は私が関節を外しただけだ」

 「なんとハンペイわざと受けたと見せ掛けたのか、恐るべきはニンジャマスターの妙技!」


 本当に驚いた。

 もう駄目だって、目を背けたくなる光景を前にして、なおハンペイさんは上回る。

 本当はこんなに凄い人だったんだ。


 「やれやれ忍耐力が高い様子だが、某も時間を掛けるつもりはない」

 「ハンペイお返しと言わんばかりにスネークマンに前蹴りぃ!」


 スネークマンは強烈なキックを貰い、金網に背中からぶつかる。

 そのまま前のめりに倒れると、ハンペイさんはスネークマンに馬乗りする。


 「このまま決める!」

 「あっーと、関節技には関節技か、これは《キャメルクラッチ》かー!?」


 背中から馬乗りになったハンペイさんは両手でスネークマンの顎を掴んで後ろに引くと、スネークマンは弓なりに引っ張られる。

 そのまま無理に引っ張られれば、スネークマンの身体は真っ二つになる残虐な技だ!


 「ギブアップしたらどうだ! お前では某には勝てん!」

 「スネークネクネクネク、まだ理解していないようだな?」

 「スネークマン笑っているー! これが意味するのは諦めか? それとも!」

 「スネークマンの妙技を見よ! 《スネークボディ脱出劇》」


 なんとスネークマンは、キャメルクラッチを完全に決められた状態から、恐るべき動きを見せ始める。

 まるで本物の蛇のように身を二七〇度折り曲げると、ハンペイさんのクラッチを外してしまう。


 「なにっ!?」

 「私の身体は蛇のように柔らかい、貴方の打撃も柔軟に受け流すことが出来るのだ!」

 「面妖な!」

 「ネクネクネク! 遅い!」


 恐るべきはスネークマン、彼は蛇のようにリングを這うと、ハンペイさんに下から襲いかかる。

 ハンペイさんは咄嗟に両腕で防御するが、スネークマンは両腕に噛み付いた。


 「ぐう!」

 「くくく、馬鹿な奴め! 私には相手を三分で死に至らしめる猛毒があるのだ! つまり貴様の命は後三分!」

 「な、なんとハンペイ猛毒に冒されしまったー! このままで本当に処刑されてしまうぞー!」

 「そんな……ハンペイさーん!」

 「(つう)ぅ……、なるほど」


 ハンペイさんは若干顔を青くしていたが、まだ余裕そうだ。

 とはいえ毒は巡る以上、予断は許さない。


 「このまま待っていても貴方は死ぬが、それでは面白くない! このまま華々しく散らせてあげましょう!」

 「スネークマン再び人型形態にモードチェンジ! 仕掛ける!」


 両腕を開き突進、掴み技を警戒するべきだが。


 「すぅぅ……貴様ごときにこの技を使いたくはなかったのだが」

 「なにをぅ! 私の必殺技コブラツイストでお終いだー!」

 「スネークマン、ハンペイを掴んだ! そのまま鮮やかに技へと移行する!」


 スネークマンの技は見事だと思えた。

 魔物でありながら優れた技、鍛え上げられた肉体。

 いずれも普通の魔物ではありえない。

 だからこそ、ボクは汗を握る。


 「負けないでハンペイさんーっ!」

 「ネクネクネクーッ! 観客も見るがいい、脱出不能の関節技の世界をー!」

 「忍法、《影移しの術》」

 「ネクッ!?」

 「あーっ! ハンペイの身体が突然溶けるように無くなってしまったー!」


 驚愕するスネークマン、だけど実況席からはハンペイさんが影を伝い、スネークマンの後ろに出現するのが丸わかりだった。

 頭上から照らす強烈なスポットライトが、二人の影を色濃くリングに映している。


 「忍法は本来秘伝、見せるべきではない技だ、だが癪なれど貴殿は強敵、ゆえにニンジャの秘技でお答えしよう!」

 「後ろ……キョッ!?」

 「忍法、《急所封じ》!」


 ドスッと音がする程の手刀、いや指がスネークマンの脇腹に突き刺さる。

 うわっと、思わず悲鳴が出るほどの一撃に、スネークマンは悶絶した。

 だがそれは布石、ハンペイさんはスネークマンを背後から羽交い締めにすると、大きく飛び上がった。


 「ネクネク! だからこの私に関節技は通じないと!」

 「それはどうかな?」

 「ネクッ!? なぜだ、技から抜けられない!」

 「貴様の技は大体見切った、故にあのモードチェンジは封印させてもらった」

 「なぁー!? ば、馬鹿なー!?」


 スネークマンが絶叫をあげる。

 ハンペイさんは高く飛び上がると、身体を反転させ、頭からリングに落下しだす。


 「忍法、《百舌鳥落(もずお)とし》!」 

 「ぐぎょ!?」


 ズドォォン、リングが縦揺れするような一撃がスネークマンに炸裂した。

 リングに突き刺さったスネークマンを他所(よそ)に、ハンペイさんは直前で退避し、リングに着地した。


 「み、見事だ冒険者よ……しかし、相打ちだ、私の猛毒がもうすぐ貴様を」

 「いと慈悲深き豊穣神様、哀れな子羊を癒やし給え《解呪(ディスペル)》」


 ボクはすぐにリングに駆け寄ると、ハンペイさんの猛毒を打ち消した。

 ハンペイさんは事も無げに腕を組むと、スネークマンに敗因を指摘する。


 「能力に感けたな、あらゆる事態を想定せず、自身の能力の万能感に酔いしれなければ某も負けていたかもしれぬ」

 「ネ、ネクネクネク……真の強者と戦い、敗れるなら本望……」


 スネークマンはリングに大の字に倒れると、そのまま気絶した。

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