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その4

 極島では、常に大小様々な事件が起きている。それは、世界が混じり合ったせいで起きた摩訶不思議な話から、まったく関係のない人間同士の軋轢まで様々で、おおよそ事件がない日はないと言っていい。

 であればもちろん、それらの事件に対処する人員も求められる。

「それが荒事屋ってやつで、俺もそれで飯食ってるってわけだよ」

「なるほど。どこにもそういった職業はあるものなのですね。しかし、映画で見た通り、車は便利ですねぇ。とても速いです」

 デッドの説明を聞きつつ、シラハはほぅっと感心しながら車の外を眺めている。現在は、先程の屋台通りから離れ、自動運転タクシーで移動中だ。

「映画はあんのに車はないのかよ。四樹の国、だっけ? そこはよ」

「ええ、恥ずかしながら。最近、鎖国を解いて少し文物を入れてる程度で。なので、見るもの見るもの珍しいものばかりです」

「はーん。ま、楽しそうならいいけどよ」

 無愛想なビルが並ぶ景色を、ははぁと感嘆とともに眺めるシラハの頬は薄桜色に輝いていた。その様子をなんとはなしにデッドが見つめていると、いつの間にやら目的地にたどり着いたのか、車が静かに止まっていた。

「と、ついたか。行くぞ」

「はい! ところでこの建物は? ビルと比べ豆のように小さいですが。それとこの方々は?」

 シラハは、ビルの隙間のホコリのような小屋を見て首を傾げる。周りには服装こそカジュアルだが、棍棒や銃、槍に杖といった武器をもった人々がいて、この豆粒のような平屋へ入っていく。

「あんな小さい建物にいっぱい入ったら、押しくら饅頭で潰れてしまうのでは? あるいは満員電車、というお仕事なのでしょうか? それとも地下室があったり?」

「満員電車は仕事じゃねぇ。ここは、メグプトギルド、まぁ仕事の斡旋所だ」

 デッドもまた建物へと向かい、シラハもその後に続いて入っていく。

 すると中は、シャンデリアの輝きに満たされていた。

「え、ええ!?」

 シラハの驚きが反響する。建物は小さな公衆トイレ程度だったのに、中はその数倍も広かった。しかもシャンデリアだけでなく、床もきれいな絨毯で壺やら絵画やらも飾られで、どこの貴族の邸宅かといった様子。

「ど、どういうことですか!? 先に入った人々は!? 狐狸の類ですか!?」

「この建物は、現実とは別の、電脳魔法ネットワーク世界の入り口なのですよ」

 目を白黒させるシラハの前に現れたのは、宝石で飾られたふわふわのドレスをまとう幼い少女である。デッドよりも小さく、十になるかどうかくらいの容貌。

 しかし、その立ち振舞は淀みなく、ゆらりとスカートの裾をつかみ膝を曲げて礼、いわゆるカーテシーを決めて、

「お初目にかかります。私、汎用補助AI魔法生物、メグプトと申します。四樹の国の桜守、サクラメシハラ様にお会いできて光栄です。ようこそ、メグプト冒険者助成ギルドへ」

「……どうもこれはご丁寧に。サクラメシラハでございます。失礼ながら、何処の姫君でございましょう?」

「何処の姫でもねぇよ。単なるAI。おい、ポンコツ。なんだよこれは。無駄に気合入れやがって」

「あ、デッドさんもこんにちは。でも、いきなりポンコツはひどいですよー」

 デッドの方を向き直ると、メグプトは先程までの丁寧な様子はどこへやら、プクーと頬を子供らしくふくらませたので、ぷにっと押し込んでおく。

「とりあえず勝手に部屋の内装変えんな、こんな派手じゃ落ち着かねぇだろが」

「ふぇー、ふぇっふぁくふぁふらもりふぁまふぁひふぁひひたのに」

 頬を押さえ込まれながらもメグプトが文句を言っていると、しゅいんという音とともに、豪華なホールは、落ち着いたマンションの一室のようになった。

 メグプトの格好もドレスから街でよく見るワンピースに変わる。

「なんとまぁ!? これも外の国の科学技術ですか!?」

「科学と魔法の合せ技ですよー。世界衝突と混沌災害により、情報で構成された電子世界が、魔法の力で空間を持ったのがこの世界なのですー。インターネット上の汎用管理AIだった私も魔法アップデートされて、こうして肉体を得、メグプトギルドを通して仲介や補償、厚生、情報提供などで皆さまにお仕えしているのです-」

「え、ええっと、つまり……?」

「つまり、ここは魔法で出来た異世界で、こいつは人間に作られた妖精。仕事は主に依頼の斡旋だ」

 デッドが大雑把にまとめても、シラハは、はぁ? と納得したようなできないような、という様子で首を傾ける。

 一方のメグプトも不満げに口を尖らせ、

「ざっくりすぎなのです。そもそも妖精じゃなくて汎用お手伝いAIなのですよー」

「あーはいはい、なんでもいいから! 仕事の話をしろ、仕事の!」

「良くないんですけど! しょうがないですねぇ! 少々お待ちくださいなのです」

 ふくれっ面のまま、メグプトは脇にあった事務机に向かい、何もない空間に手をかざす。すると、いきなりファイルが彼女の手の中に現れて、それをペラペラとめくり始めた。

 それを見たシラハは、ボケぇと口をあけたまま、

「ふぅむ、なんであれ、魔法のような不思議な力をお持ちなのですねぇ。それで、この部屋はいったいどういう場所なのですか? 後、一緒に入った他の方々は?」

「ここはメグプトギルドの俺の個室だ。他の奴らもええっと、入り口に仕掛けてある転移の魔法で自分の部屋に行ってるよ。つーか立ってないで座れよ」

 ではお言葉に甘えて、と促されるままシラハはソファに座ると、なぜかおお! と感嘆の声をあげる。

「今まで見た枕の中でも一番に柔らかいです!? これも外の国の超技術ですね!」

「んな大げさな。高級品想定ではあるけどさ」

 世界衝突で集まった世界の文明レベルは個々によって違う、とデッドも聞いたことがある。シラハの国は本当にサムライ時代レベルの文化だったようだ。

「なるほど高級品! よく見れば調度品もきれいに整っていますし、もしやデッド殿は偉い方なのですか!?」

「そうだったらいいんだけどな。ギルドに所属してんなら、誰でももらえるんだよ」

「なんと! 外の国は豊かと聞いていましたが、ここまで豊かとは!」

「いや、豊かっつーか、えーと」

 この電脳世界はコンピューターと同じだから、データがあれば場所の容量まで何でも自由に作れる云々、と説明がデッドの頭にあふれるも、おそらく理解されないな、と思い直し、

「さっきファイル、作ってたろ? そこのメグプトは、妖精パワーで色んなものを作ってくれるんだよ」

「なるほど! メグプトさんはすごい大妖精なのですね!」

「また雑な説明して。妖精じゃないですってば。あ、依頼の選定は終わりましたよー」

 メグプトが宣言とともに数枚の書類をポンポンと叩くと、次の瞬間にはデッドの手元に書類はワープしてきた。

「……D級難易度ばかりじゃねぇか。いつもは危ねぇからってE以下しか渡さねぇくせに」

「そりゃシラハ様がご一緒なのですからねー。なんせったって」

「ごほん! 私ことをご存知なら、ここに来た理由もお分かりですよね?」

 シラハがそう割り込むと、メグプトはああはいはい、と頷く。

「なんだ? なんか面倒事あんのか?」

「今、問題は起こることはない、大丈夫、と皆さまには断言しておくのです」

「皆さまって俺しかいねぇんだが。まぁいい」

 AIであるメグプトは、基本的に誠実かつ人のために行動する。大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。

 そもそも、デッド自身も含めてスネ傷ある輩なんてここではごまんといる。金だってもっと必要だし、デカい刀が飾りじゃないならなんでもいい。

 それよりも依頼だ。さっと金額だけ目を通して、

「よし、こいつにするか」

 そう、デッドはファイルの一つを取り出した。

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