幕間 この街におけるよくある終わり
「ったく、相変わらず気色の悪い空だぜ、そうは思わねぇか?」
男がヘラヘラと笑うとダンっと耳が弾けたが、腹が狼に切り裂かれたかのようにズタズタになった後では、ちょっと痒みを感じたくらいだ。
「空なんてどうでもいい! いつもの青空だ! こんないい天気だってのに、てめぇの下らねぇ妄言に付き合ってられるか!」
妄言じゃねぇんだけどな、と答えようとしたが、喉に血が絡みついて言葉にならなかった。
代わりに男は嘆息する。
(ああ、俺たちは、負けたんだな)
何度目だろうか。世界を元に戻すための戦いは完全に失敗したことを、こうして空の色に思い知らされるのは。
かつて、空は鮮やかに黄色かった。あのクソッタレな混沌災害のせいで、こんな気色悪い寒々とした青色になってしまったのだ。
しかし、今はそんな青が当たり前として受け入れられ、黄色い空は年寄り共の記憶の中でしか生きていない。
(結局、俺は鉄くず以下ってこと、か)
かつて、壊れてしまった世界を救いたいと願って戦いに参加した。
魔法も使えず難しい機械も分からず、ちょっと勇気がある程度の、前に進むしかできない馬鹿だったが、それでも必死に友のため故郷のためにとがんばった。
その末路が、これだ。
「鍵はどこだ! どこにある!?」
汚い廃墟の裏路地で、ゴミクズに騙されて死んでいく。死体は犬猫に食われるならまだしも、化け物にだけはなってくれるなと切に願う。
そんな惨めな死に方。
(ま、感傷的になれるほど、おめぇはまっとうなやつじゃねぇだろ)
男は自分を笑う。調査軍が分裂し解体された時、酒を飲んで博打で遊んで無意味に過ごしていた自分、友人と馬鹿騒ぎだけして将来なんて考えなかった自分、乞食に身をやつして世を恨んで親と慕った恩人に迷惑をかけた自分。
挙げ句、弟子のように可愛がっていた奴にまで罵られ……、思い返せば返すだけ、死に様は惨めなほどふさわしい。
そんな人生。
「くそ! くそくそくそ! ねぇ! ねぇ! どこにもねぇ! 騙ってやがったのか! 期限まで時間がねぇってのに! このゴミクズが! ふざけやがって!」
でもま、最後にいけ好かない上級民気取りが、何も分からず無様に喚き散らしている様を見ながら死ねるのだから、なかなかマシな死に方かもしれない。
「バーカ」
男は突きつけられた銃口へニヤリと笑いかけ、最後にそう、宣言してやった。