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オキハイ

作者: おじ

大学に入学し,一人暮らしを初めて3年.例のウイルスのせいだろうか,生まれつきの内向的な性格のせいだろうか,未だに友達ができない僕は予備校教師のバイトとネットショッピングで社会との物理的なコネクションを満たし,家では勉強もそこそこにネットゲームに勤しむ毎日を送っていた.


ちょうど秋も深まってきた頃,肌寒くなった僕は毛布を画面の中から選び,見慣れた注文確定ボタンを押した.


車を持たない一人暮らしの男にとってネットショッピングはもはや必要不可欠なインフラである.加えて,昨今の情勢等により配達方法も手から手への受け渡しから玄関のドアの前に荷物をおいていくいわゆる「置き配」が広まっている.


外出の時間も気にせず注文できることや,やり取りの煩雑さも省けるため僕も例にもれずよほど高額な商品でない限りは置き配を利用していた.


今回の注文ももちろん置き配を選択し,到着を待った.


翌日,夕方に学校から家へ帰宅すると玄関前にダンボールがぽんと佇んでいた.荷物が思ったより軽いことに若干引っかかったが,それを拾い上げ部屋に入るなり,僕は荷物を開ける.


中身がわかっているとはいえ,箱を開けるのはいくつになってもワクワクするなとか,最近使われるダンボールは厚みが薄くて破れやすい.これも企業努力なのだろうかとか,いらぬことを考えながら梱包を解く.

「なんだコレ...?」

ダンボールを開けた僕は困惑した.


その中には期待していた毛布はなく,その代わりに大量のカップ麺があった.


無論,僕が注文したものではない.


もしや,と思ってダンボールの宛名を確認する.


〒 XXX-xxxx

仙台市XX区XX 1-2-3

ハイツ渡部 201号室

髙橋 ミユ 様


僕の名前は佐藤ジュンペイだ.明らかに名前が違う.よく確認もせずに開けたばっかりに面倒な事になったぞと後悔しながら,もう一度宛名に目を通す.

「あれ?」


住所が部屋番号まで一致している.間違いなく住所は今まさしく僕がいるこのアパートのこの部屋を示しているのだ.


最近のネットショッピングサイトは住所が保存されていることが多く,住所が間違っている場合は少ないのではないかと思いながら,まずは隣の人に確認してみることにした.


隣の人とはアパートに越してきたときに挨拶をしたきりほぼ面識もなく名前も知らないうえ,勝手に荷物を開けたあとだったので,緊張している反面,宛名が女性だったことにいくらか邪な期待をいだきながらチャイムを押した.


すぐに,僕と同い年か少し年上だろうか,細く空いたドアの間からワインレッドの体のラインが出るニットにハイウエストのスカートという僕の脳内の合コンの女子のテンプレに著しく酷似した女性が出てきた.


思い当たる節があったらしく,顔を見るなり一度部屋に戻り,再びドアを開けた女性には包みが抱えられていた.やはり僕の毛布が隣人のもとに誤って配達されていたようだった.彼女も僕と同じ人種のようで,封が開いてしまっている.


ここまでは僕の予想通りだった.


毛布を受け取った後,荷物を開梱してしまった旨を告げると,みるみるうちに女性の顔に怪訝さが浮かぶ.


「開けちゃって申し訳ないです.お返ししますね.」

僕が言うと,彼女は,

「いや,...そんなもの頼んでないです...」

「え?髙橋ミユさんですよね?」

思わず僕が返すと,

「いや違います...そもそも私,田中ですし...」

といって全く話が合わない.


結局田中と名乗る隣人とはなんとも言えない空気のまま退散し,アパートは他に大家さんの渡部さんしか住んでいないため,毛布と大量のカップラーメンを抱え自分の部屋へと戻ることになってしまった.


はじめは自分が誤って開けてしまった申し訳なさが大きかったが,冷静になってみると僕こそ一番の被害者なのではないかという気がしてくる.


カスタマーサービスへ連絡するのが一番だとは思いつつも,その後に待つ返送などの対応を想像しただけで嫌気が差した僕は,ダンボールを部屋の隅に放り投げ,すべての思考を放棄しその日は眠りについた.


その後も覚えのない荷物が僕の部屋の玄関に置き配されるようになった.内容は外箱でわかるもので,野菜ジュース,米,他にもダンボールが一つ.さすがに気味が悪くなり,周りに相談しようかと考えているとチャイムが鳴った.


インターホンを見ると,隣人の田中と名乗るあの女性だった.


ドアを開けるなり女性は,

「先日の荷物のことなんですけど,解決しました?」

と切り出した.

「もしかしたら,前言ってた高橋さん?が引っ越した後住所変更してなくてそちらに届いてたんじゃないかと思って」

というのだ.

「実は,最近自分がそれやっちゃってて...,もしかしたら,同じような人が他にもいるかもと思って...,おせっかいだったらごめんなさい.」

田中さんが美人で更にいい人だったことにも運命を感じたが,今はそれどころではない.僕は田中さんにありがとうございますというなり,下の階に住む大家さんに真実を確かめた.


聞いてみると,前住んでいた人は「髙橋 ミユ」ではなかったが,大家さんはなにか心当たりがあるようでしばらくファイルを引っ掻き回していた.


「やっぱり!」


大家さんはそう言うと一つのファイルを僕に差し出した.躊躇しつつも,目を向けるとそこには賃貸借契約書があり,契約者の欄には「髙橋 ミユ」の文字があった.


僕はいよいよ困惑したが,大家さんが連絡をしてくれた結果,事の顛末がわかってきた.


「髙橋 ミユ」は大家さんがオーナーをする市内の別のアパートに住んでいるようで,そのアパートの名前も僕の住むアパートと同じ「ハイツ渡部」201号室だったらしい.


アパートの名前だけ知っていた彼女の母親がGoogle検索で出てきた僕のアパートの住所を宛名にして,仕送りをしてしまったために今回の事件が起こってしまったようだ.


大家さんも同じ名前のアパートなんて何個も作るなよと思いながら,届いた食料品は好きに食べてもいいとのことでちょっぴり得した気分でこの事件は幕を閉じた.


その夜,安心しきった僕は届いていた荷物のうち,中身がわからないダンボールを開けることにした.


中身はゲーム用のマウスとキーボードだった.


食料品と聞いていた僕は開けた瞬間にももちろん驚いたが,そのマウスとキーボードは僕が欲しがっていたものだということに気づいたとき,冷たいものが体の中に入ってくるような感覚を覚えた.


急に怖くなり,マウスとキーボードをダンボールに戻し,そのまま手で箱を閉じた.


その時,不意に目に入った伝票に違和感を感じた.

〒 XXX-xxxx

仙台市XX区XX 1-2-3

ハイツ渡部201号室

高橋 ミユ 様


急いで他の荷物の伝票もみてみると,やはり,「髙橋 ミユ」の「髙」の字がこの伝票だけ「高」になっている.


僕はゲームもTwitterなんかで知り合った人たちとすることが殆どだ.この事件のこともバイト先や親にすら言ってない.


「マウスの好みさえ誰も知らないのに」


なんとなく声に出してつぶやいた瞬間,すべてがつながった気がした.ゲーム内で喋った声.ドアを挟んで喋った声.この事件のことも僕のマウスの好みも知っている人.


その時,チャイムが鳴った.


「隣の田中です」


もう僕は部屋で震えることしかできなかった.置き配なんてやるもんじゃない.

ここまで読んでいただきありがとうございました.

修論書きたくなさすぎて,勢いだけで3時間で書きました.

句読点が,.なのは論文の句読点が,.だからというだけの理由です.気持ち悪いですね.

感想いただければ幸いです.ありがとうございました.

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― 新着の感想 ―
美人さんと付き合えるチャンスじゃん、らっきー☆(思考停止 置き配標準化の話が持ち上がって、検索したらこの話がヒットしたんですけど、リアルにありそうな話で途中まで気付きませんでした(笑)
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