宇宙探検家 アリート 〜Bad end〜
ー序ー
私の名はアリート。
生存可能な惑星を求めて探検する宇宙探検家だ。
私の故郷である惑星「ファンテオン」は崩壊寸前にある。
我々人類が、有限である貴重な資源を乱用したためだ。
だから何としても新しい移住先を見つけなければならなかった。
同じ過ちを繰り返すまいと心に誓って。
-1-
朝時間だ。
私は起床する。
キッチンへ向かい朝食を準備しながら今日の予定を立てていく。
パンとコーヒーを準備し、ダイニングルームへ向かう。
朝はやっぱりコーヒーだよね、などと考えながら扉を開ける。
皿をテーブルに置き、一人食卓につく。
「いただきます」
パンを頬張りながらおもむろに手記を取り出した。
ファンテオンであらかじめ目星をつけていた2つの星を確認する。
一つは「ティターン」という惑星だ。
酸素、厚い大気、そして液体の水があることが確認されている。
現在、この惑星に向けて進んでいる。
もう一つが「オアフ」という惑星だ。
この惑星には過去に、人類が移住に成功していたデータがある。
もっとも、それは過去のものだが。
数十年前の通信を最後にぱったり通信が途絶えてしまっている。
すぐにオアフへと調査団を送り出したデータもあるが、到着後、通信が途絶えそれきりになっている。
危険な香りのするオアフだが、人類のため、ティターンが移住不可であれば調査しに行かなければならない。
パンを食べ終え手記を閉じ、一息ついてコーヒーへ手をやる。
ティターンにはあと数時間で到着だ。
大きな期待で胸が高鳴る。
たのむ、と私は心の中で祈った。
ー2-
ティターンの全貌が見えてきた。
全体が淡い青緑で覆われ、ところどころに白色の雲が浮かんでいる。
ファンテオンと通信をとり、現状を報告する。
私は着陸のための準備を進める。
宇宙服へ着替え、緊急用のテーザー銃を腰のホルスターへ装着する。
サバイバル用のリュックを背負い、着陸用の小型宇宙船に乗り換える。
着陸のフェーズに入った。
小型宇宙船が激しく揺れ始める。
窓から雲の中を進んでいるのが見て取れる。
雲を抜けた。
ジェットを逆噴射し速度を落とす。
そして荒野へ着陸した。
いざ、ティターンの土へと足をつける。
酸素濃度はファンテオンと同程度。
今の昼間の気温も少し肌寒いくらいで、生存に適していた。
宇宙服の設定を外気取り込みにし、実際に空気を吸ってみる。
澄んでいておいしい。
あたりを見渡す。
見渡す限り、何もない荒野だ。
否、遠くのほうに細長い物体が見える。
なんだろう
気になりその物体へ向けて歩いた。
-3-
2時間ほど歩いただろうか。
細長い物体のすぐそばまで寄った。
これが何なのかは寄ってくる途中から気づいていた。
人工物、タワーだ。
周りには小さな建築物が無数にある。
外壁はどれも赤茶色で、土を固めて作ったような見た目をしている。
ふと地面に目をやると、ところどころガラス状に変異していた。
生命体らしきものは見当たらない。
もうじき日が落ちる。
一時撤退しよう
私はそう思い、来た道を引き返す。
「この星なら移住できそうだ」
私はぽつりとそう呟いた。
日もほとんど落ち、あたりが暗くなってきた。
宇宙船までもう少しだ。
ふいに、地鳴りのような音がすることに気が付く。
いつからだろう、そして地鳴りの正体は何だろう。
答えは後方にあった。
遠方から土煙を上げ何かが近づいてくる。
大量のハイエナだ。
いや、ハイエナに似た何かというべきか。
本能的に危険を感じた私は、宇宙船へ向けて全速力で走り出した。
しかし、相手は獣。
スピードで勝てるはずもなく間隔はどんどん狭まってゆく。
宇宙船まであと10メートル。
ここでふいに後ろへ強く引き戻された。
リュックサックを噛まれたのだ。
下顎からのびる長く鋭い牙がめり込む。
私はリュックサックを投げ捨て、緊急用のテーザー銃を後方へ撃ち宇宙船へ逃げ込んだ。
急いで扉を閉めると、ドンドンッ、とハイエナは体当たりしてきた。
早急に離陸準備を済ませ、ティターンを去る。
助かった
私は心から安堵し、そして絶望した。
-4-
「かつて文明が栄えた痕跡はあったものの、建物は赤茶色に変色し砂がガラス状に変異していたため、核戦争により滅んだことが推測される。また、人類が生存可能な環境にあったが、きわめて獰猛な生命体が存在するため、移住は困難。アリート、通信終了」
私は通信を終え、次の惑星「オアフ」へ向かうと告げた。
ここからオアフまでは約3年かかる。
私はコールドスリープの準備を進める。
気がかりなのは、オアフでの失踪だ。
移住者からの通信が途絶え、調査団の通信さえも途絶えてしまっている。
いったい何が待っているのだろうか。
少し恐怖を感じた。
だが、そんなことにかまっていても埒が明かないし、行けばすぐに分かることだ。
時間を設定し、ポッドに入る。
すぐに意識が遠のいていくのが分かる。
恐怖を感じながらも、探検家としての興味も感じていた。
そして3年が過ぎた。
ティターンの時と同様に準備を済ませ、小型宇宙船へと乗り込んだ。
オアフは全体が赤褐色の惑星だ。雲はない。
-5-
着陸まで問題なくできた。
ティターンと同じく酸素があり、濃度も十分だが極端に寒い。
十分着込まないと凍死してしまうだろう。
しかし、先に移住者がいたこともあり、ある程度開拓が進んでいるようだ。
アムステルダムを彷彿とさせる街並み。
純粋に美しいと思った。
しかし、そこに人間の姿はない。
疑問に思った。なぜ人の姿が消えたのだろうと。
そこで、街の中心部にあるとされていた、通信施設でもある役所を目指すことにした。
色とりどりの家々を横目に進んでいく。
まるで観光でもしているかのような、そんな気分になった。
また、冒険家になってよかった、とも思えた。
美しい景色を独り占めしている。
そう考えただけでなぜか胸が高鳴った。
ここは私だけのユートピアだ。
ー6-
役所に到着した。
中は当然真っ暗だ。
ライトの明かりだけを頼りに進む。
途中、やたらと足元からパリパリ聞こえたが気にせず進んだ。
そして、目的の通信室へたどり着いた。
扉を開けると中に椅子に座る人影が見えた。
まさか生存者か、と期待に身を寄せたがその期待は一瞬でなきものへされた。
白骨死体だった。
手元にボイスレコーダーがあった。
震える手で私はそれを再生し、ここで何が起こったのかすべてを知ることとなった。
-7-
ああ最悪だ!
ボルト社の運んできた物資の中に紛れてやがった!
まさか故意に・・・?
いやそんなはず・・・ ドンドン!
マズい!やつらもう上がってきた!
・・・もうだめだ。
通信機器はいかれてるし、出口もふさがれた。
終わりだ・・
俺もあれと同じ化け物になるのかな・・
いやだな・・せめて・・
バン!
ピー、「以上になります」
ー8-
読めてきた。
ボルト社というと大手の兵器開発会社だ。
恐らく、オアフへ何かの兵器を持ち込んだ際に事故が起こったのだろう。
同じ化け物になると言っていた。
伝染する何か・・・?
ふいにドアのほうからパリパリと音が聞こえる。
まさか。
考える間もなくそれはドアを破り、突っ込んできた。
すぐさまテーザー銃を撃つ。
しかし、それは何事もなかったかのように私へ近づき殴り倒してきた。
痛い
腕と肋骨が折れた。
意識が遠のくのを感じた。
このまま死ぬのかな・・・
私はそのまま深い眠りについた。
-9-
目を覚ますと私はある部屋にいた。
どうやら書庫のようだ。
おもむろに腕に目をやる。
添え木に包帯と何者かが治療してくれたようだ。
ふいにドアが開く。
「やあ、起きてたのか。」
「君は誰?どこから来たんだい?」
少年は私に尋ねる。
恐らく助けてもらったのだし、名乗るのが道理だろうと思い、私は自己紹介し、事の経緯を話した。
「なるほど、じゃあ助け舟ではないんだね?」
そうだ、と答える以外にない。
少年は続ける。
「もうここは人の住める環境じゃないよ。化け物の巣窟となってしまった。生き残りはぼく含め8人だけだよ。ほかはみんな化け物になってしまった。」
なんてことだ。
ここもダメなのか。
絶望以外の感情が見つからない。
そんな中、私は苦し紛れに提案した。
君たち皆を宇宙船へ連れて行こう。
少年は潔く認めてくれた。
その後、生き残りと合流した。
皆痩せこけ、疲れ切った顔をしている。
皆と合流したのち、オアフを後にする。
本当に疲れた。
ー10-
「オアフはユートピアではなかった。ボルト社から持ち込まれた生物兵器により崩壊した。私は生存可能な星を見つけることが出来なかった。アリート、通信終了」
通信は短く終わった。
説明するのが億劫だった。
絶望は次第に怒りへと変わった。
オアフを台無しにしたボルト社に対して。
また、何の成果もあげられなかった自分に対して。
ダイニングルームでは少年たちが楽しげに話している。
このまま終わっていいのか
おもむろに操縦室の通信のチャンネルをグローバルに設定した。
その瞬間、肩に激痛が走った。
耐え難い痛みに私は悶えた。
肩を見てみるとナイフが突き刺さっていた。
そこには老婆が立っていた。
「さっきの通信を聞いた!どうせユートピアなんか見つかるものか!ここの食料は私たちでいただく!君はもう用済みなんだよ!」
老婆は肩からナイフを引き抜くとアリートの心臓目掛けて力いっぱい突き刺した。
「なん、、で、、」
しばらくしてアリートは動かなくなった。
その時、船内に警報が流れた。
船に大きな岩が当たったのだ。
船に大穴が空く。
たちまちリビングにいた人たちは外に吸い出されていく。
アリートは新たな場所を探し、行き先へ向けるために、自動運転を切っていたのだ。
船内に炎が灯る。
それは次第に大きくなっていき、操縦室をもくるりと丸めあげた。
「あぁ、、熱い!熱い!誰か助けてくれー!!!」
老婆の叫びは虚しく散り、宇宙船は爆発した。
ー完ー