御年243歳のババア聖女が婚約者なんか嫌だ、婚約破棄して、真実の恋の相手、可愛らしい16歳の庶民の少女と婚約すると私は18歳の年下婚約者の殿下に宣言されてしまったのじゃが…。どうしたらいいのかのう
「お前みたいな婆と婚約なんてもう嫌だ!」
私はさてこの坊やの言い分ももっともじゃがどうしたもんかのうとその破棄宣言とやらを聞いていた。
「私は真実の恋の相手、メリッサと婚約する! お前との婚約を破棄してな!」
「ほう…」
「ほうじゃないこの婆!」
私は婆といわれる年じゃがさすがに婆連呼はいやだのうと坊やの言い分を聞いておった。
243歳と18歳の婚約はさすがに無理があるとは思っておったが。
「しかも見た目は12歳ってなんだよおい!」
「仕方なかろう、長命のエルフの血を私はひいておるのじゃから」
「絶対嫌だ! 婚約を」
「まあいいじゃろうて、レオン坊やはお前の言い分を知っているのか?」
「父上のことを坊やとか呼ぶな」
「私からみたら42歳でもまだひよっこじゃ」
レオン坊やの息子は駄々っ子じゃのう私がそう思ってため息をつくと、怒り狂うクリス坊や。
「さて別に婚約破棄とやらをしてもいいが、その場合婚約を解消といわないかのう? 私は破棄されるようなことは何もしとらん」
「どっちでもいい!」
私はメイドのマリーアがちょんちょんとドレスの裾を引っ張るのを見た。
「ユーフラジーヌ様、国の聖女にたいしてこの言い方は少しどうかと思われます」
「まあいいじゃろて、婚約破棄させてやろう、しかしお主この国の守護のことは知っておるな? 聖女の守護が」
「それくらい知ってる!そんなものなくても僕はうまく国を治める王になってみせる」
私はわかったと頷き、マリーアをまあまあと窘め、顔を真っ赤にして怒るクリス坊やに可愛い真実の恋の相手と幸せになと声をかけた。
「…ユーフラジーヌ様、息子がとんだことを…」
「仕方なかろうて形だけとはいえこんな243歳の婆と18歳の婚約は無理があったのじゃ」
私は聖なる山の神殿で茶をすすっていた。客はレオン坊や、この国の国王だ。
「しかし…」
「おぬしだってこのロリババアとやらが形だけの婚約者で正妃だったのは嫌だっただろう? おぬしが王となり成人した段階で離縁はしたがの、王になり成人した段階の離縁は守護に影響はおよばん決まりじゃし、しかしクリス坊やが待てなかったのは仕方ない。お主が死ぬまで王にはなれんしな」
「いいえ、この国の王として当然です。聖女との婚姻は王の義務です」
「…まあこの慣習も続きすぎた。クリス坊やの代で終わりでちょうどいい」
マリーアが怒り狂っているが私は仕方ないじゃろと窘める。
この国はの、始祖のエルフの守護により守られている。
その始祖エルフとやらが人間の女と恋をして産んだ子の子孫が私じゃ。
代々、その子孫と国王は仮ではあるが婚姻するのが義務じゃった。
なんというか婚姻という結びつきをもって守護を強化するのが役目じゃの。
肉体関係などは一切ない。
王妃や王太子の婚約者としても仕事もなしじゃ。
形だけの婚姻じゃ。
「ふう、私が最後の多分力ある守護の女、聖女じゃな。だから代々私が婚約者にして王妃の役目をしてきたが、もうそろそろ終わりじゃ」
「しかしこの国は…」
「クリス坊やが真実の恋の相手とやらと上手くやっていくだろうて」
始祖のエルフがかけた守護はこの契約によって発動されていた。これはクリス坊やも知っているはずじゃ。だがそれを蹴ってまで真実の恋に生きるのなら仕方ないと私は思う。
「…一時の熱に浮かされているだけです」
「だがもう千年じゃ、長すぎた。そろそろ終わりにしてもよかろうて」
「……ユーフラジーヌ様」
「な? レオン坊や」
私もそろそろこの役目に疲れ果てたから降りたいとは思っておった。歴代の子孫は長命の血を受け継がず、一番の長寿でも98歳で死んでいる。
先代から受け継いでもう200年、私も年を取りすぎた。
「若者たちが新しい国を作っていくべきだろうて」
「しかし…」
「おぬしが力を貸してやれ」
私はマリーアが早く帰れとジェスチャーをしているのを見てそれはやめろと返した。
ああもう一応国の王相手それはないだろう。
レオン坊やが帰ったが、しかしこの国にいるのも長すぎたのう。
そろそろ老後を優雅に過ごしてもいいころじゃと思う。
「ユーフラジーヌ様、これからどうされます?」
「旅をしようマリーア。この国の守護から解放されたのじゃ! かねてよりしてみたかった世界一周をするのじゃ!」
「このマリーア、どこまでもお供します!」
マリーアはどんと胸をたたく。しかし孤児だったこの子を拾って17年、そろそろ嫁にだしてやりたかったが私にべったりじゃの。
「さて行くか!」
「はい!」
支度をして私たちは世界一周の旅に出ることにした。
まあ未来は見えておったよ。レオン坊やには言わなかったが…な。
私とて200年も守護してやったのに感謝の言葉すらなく、お前みたいな婆と婚約なんて嫌だったんだよとか詰られ内心怒っておったのよ。
「まさか3年と持たないなんて思いませんでした。ユーフラジーヌ様」
「まあもったほうだろう、クリス坊やが王になって2年で国が滅びたと考えればの」
私は世界の果ての国で我が国の王家が隣国に滅ぼされたのを聞いた。
真実の愛の相手とやらが隣国のスパイじゃったからしかたなかろ。
ああそれも視えておったよ。でも私は黙っておった。
だって真実の恋の相手に殺されるのならそれはそれで幸せじゃろ?
「…さてバカンスとしゃれこむか!」
「はい!」
水着に着替え、南の島でバカンスをする私たち。いやあ長生きはするものじゃのう。
海を生まれて初めてみたぞ。
マリーアと私は水を掛け合いしながら、レオン坊やがあれから1年後に死ぬのくらいは教えてやったほうがよかったかのうと少しだけ後悔した。
まあ守護がなくてもいいと跡取りが判断したのだから教えてやる義理もなかったがの。
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