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9章 「ユリアン」
『ユリアン。』
彼女に呼び掛けるのは銀髪にロシアンブルーの瞳。
ユーシス。ユリアンの従兄の。
ユリアンは黒髪にアッシュモーブの瞳。
従兄妹とは言え、似ていない。
『ユーシス。ねぇ、あの子は大丈夫なの?』
『ああ、星を出るときには元気になって寮に戻ったよ。』
よかった、と脱力する彼女。
本当だよ。あと少しで仕事に出られないところだった、と戯けてみせる彼。
ごめんね。あたしが星を出たばっかりに。
謝るユリアン。
仕方ないさ。あんな継母じゃ、俺だって逃げたくなる。
それをわかってて、あいつは隠してたんだ。
体調が悪いことも、無駄に弱い身体に鞭打って学校に入ったことも。
『ユリアン、話が見えない。』
ダイナーに言われて継母の子供が弟たち、つまり、片親しか血が繋がってない弟たちを養育している。
と言うのも、父亡きあと義母に子供の養育はできなかった。
子供たちが餓死寸前で病院に運び込まれたことで義母の養育権とユリアンから不当に取り上げていた遺産を没収された。
そして、子供たちからの情報で本当に養育していたのがユリアンとわかり、ユリアンに押し付ける形で本来もらえるはずの遺産と弟たちの養育権が手に入った。
『そのために、ユリアンは本来行くはずだった学校への進学を取り止めて弟たちの学費にした。』
そもそも、おじさんはそんなたいした額の遺産を残さなかった。
なのに、二人も子供を引き取って。
一人は継母に毒されていてユリアンに育てられたことですら覚えていない。
それでも、ユリアンは無理に前の彼を取り戻そうとしない。
どんな子でも愛情をもって育てるって。
自分の子供じゃないのに。
『あー、なんと言うかありがとうね。
ユーシス。全部ばらしてくれて。』
じゃあ、今の話って、全部が本当にあること?
そっ。まあ、あたしはイオ様に拾ってもらえたし、女の子に無体をさせない店を紹介してもらったし。
星に戻って嫁入りできる資金が貯まったら帰るつもり。
『でも、ユリアン。君は今適齢年齢だろう?』
ああら。あたしってば、いくつに見えてるのかしら?
こう見えてもまだ、早すぎるぐらいの年齢よ。
まだ、妙齢じゃないわ。
それに、女の子に年齢の話は野暮ってものでしょ?
漆黒の髪を弄びながら強気な口調だ。
『手厳しいな。イオの女性は。』
本当、軍の高官に向かっても物怖じしない、勝ち気なその物言いと美形な容姿。
あくなく整った顔立ちとすらりと延びた手足。
しなやかで華奢な体つき。
惹かれるものがある女だ。
だが、俺はもう、妻帯者だし。
いつかは、イオの神聖士である妻のことも愛せるのだろうか?
とにかく今はこの、ユリアンが気になって仕方ない――――。