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8章 「ジフィ」
『…。』
懐かしい歌。
誰が歌ってた歌だろうか。
夢から覚めたら、いつも物悲しくて。
大切な物を亡くしているような損失感がある。
誰かの幸せを祈っているかのような。
優しい歌声。
『ジーフィス様。』
この星には僕の血縁者はいない。
その代わり、僕が15になって、成人の儀礼を迎えたら結婚する娘ならいる。
彼女は僕のことをジフィと呼ばない。
歌ってた彼女はジュピターの城のお仕着せを着たいかにも小間使い。
今なら、調べられる。
『使用人管理名簿で、僕より4か5ぐらい上は限られる。』
んっ?
ユリアン=アリアドネ?
2年前、成人を機に辞めている。
兄上なら覚えているだろうか?
ユリアン=アリアドネと言う小間使いを。
『兄上、ユリアン=アリアドネと言う小間使いを覚えておいでか?』
どうしてそのようなことを聞く。
冷ややかな兄の言葉。
正直に気になる夢の話をする。
『ユリアン=アリアドネはいま、地球にいる。
地球でイオ姉様の侍女をしている。』
彼女は僕たち二人の育ての親だ。
いつも子守唄を歌ってくれていた。
イオの星に伝わる伝承めいた古代の言葉らしい。
彼女はイオ出身者なのだ。
兄の言葉に最後の希望ですら消えた。
『イオの星の星守風情に侍女なんて必要ない。』
吐き捨てる。
あのきれいな声の持ち主が長年蔑んできた異母姉のものなんて認めたくない。
姉上とてこの、セルティーファイアの娘。
僕たちと同じ、父上の子供だ。
それと同時に衛星イオの星守だ。
姉上はその事を立派に自覚し、父上が亡くなられる頃にはお一人で星を治めていらっしゃった。
たった、8つや9つに満たない子供が。
『我が、セルティーファイアは早熟の家系だ。
その血を利用して姉上は年をごまかしてまで働いていた。』
イオは星の住民に嘘をついていた。
3つは年を上に鯖読んでいた。
だから、嫁いで行くのも18の適齢の姫君だ。
決して、15の幼妻ではない。
そのうち、可愛らしい後継を連れて里帰りでもするのではと星の住民に思われている。
だが、イオはまだ、15になったばかり。
見た目はそれなりでも身体は未熟だ。
それに…。
イオは炎を星に残しているために極端に衰弱している。
この上に子でも宿そうものならきっと…。
その子供は姉のように母を知らない子供になるだろう。
そして、姉のように生まれながらにして次代のイオに担ぎ上げられるだろう。
分かれよ!それぐらい。
次代の星守ならさぁ――――。