6
6章 「イオ」
『あらっ?こんなところに汚れを残して。』
これ見よがしに床をヒールで叩きつけ、片付けろと目で命令する。
身分で言えばあたしはこの人より上だ。
この人はどこかの星の14女らしい。
家は長男の家系が継いだそうだから、星守のあたしより身分は下になる。
あたしはれっきとしたこの家の長子で神聖士になる資格だってある。
なのに、父が再婚して二人の弟ができてすぐに父が病弱になってからは変わった。
『ルシファー、ルシファー、聞いてるの!』
たくっ。これだから母親のいない子供は。
ちゃんと聞こえている。
答えないのはあたしにはユリアンと言う名前があるから。
なのに、一度もユリアンと呼ばれたことはない。
ルシファーと呼ばれ続ける。
悪魔の子、闇堕ちした天使。
イオの言葉でこれほどまでに人を傷つける言葉を正確に発音できるなんて…。
語学堪能ですねぇ、とか言っておくべき?
と言うか、罵倒?罵られ?される理由がございませんが。
『あたしはイオ=ユリアン=セルティーファイア。
あなたは義理の娘の名前ですら間違えるのですね。』
罵られる毎に言ってやった。
だから、生意気な子供と見られたのだろう。
本当は、成人の儀礼で啖呵切ったあたしに優しくしてくれたお兄ちゃんが初恋の人だなんて言えない。
おせっかい焼きのマーキュリー夫人が先代のジュピター、先代セルティーファイア公、あたしの父親が亡くなったからって縁談を持ってこられても、断れない。
あたしをセルティーファイアから遠ざけようとしても、あたしはセルティーファイアの娘だ。
そして、次代のイオとして後継をイオに帰すと決めた。
『望まない物だったのに…。』
どうしてこうなっちゃうの?
嫁いできて初めてアースと会ったとき。
相手がどんな人であれ、こんな辺境の片田舎の神聖士を貰おうとしている奇特な殿方を愛そうと思った。
まさか、もう、既に想いを寄せる人だと思わなかった。
だけど、彼にはあたしが星を守るための政略で嫁いできたようにしか見えていないだろう。
勿論、最初はそんな打算的な考えがあったけれど…。
『王様、頼んでいたイオ=セルティーファイアの調査が届きました。』
どうして花嫁のイオが供も付けず、単身でこの星へ嫁いできたのか気になった。
届けではユリアン=アリアドネと言う、彼女の母親縁の一族の、遠縁の娘を伴っているとあるが。
ユリアン=アリアドネは地球に来た時点で仕事を辞めている。
供が一人もいないも同じこと。
12、3にしか見えず、下手したら成人の儀礼を終わらせているのかも怪しい。
『あの娘、成人の儀礼を一緒に受けているじゃないか。』
王の執務室に怒鳴り声が響く。
どうしてだ?
なぜ、あの娘は何も言わない。
成人の儀礼出会っているじゃないか。
戸惑いが隠せなかった――――。