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5章 「ルシファー」
『ありがとう。イズ。
あたしのために無理をさせたね。』
『僕がしたくてしたことだ。
それより、僕はジーフィスを止められないことが悲しい。』
ジーフィスは気づいていないんだ。
あんなに世話してもらったのに。
僕らを育ててくれたのは他の誰でもない。
母親すら力を封じる石を見つけられるこの能力を意味嫌っていたのに。
誰が育ててくれたと思っているんだ。あいつは。
いいこと?弟と喧嘩はだめよ。
イズ、あなたはいつかはセルティーファイアを背負って立つことになるわ。
その時には民の声を聞き、民の願いを叶えなくちゃならない。
いちいち弟と喧嘩する暇すらないわ。
姉の言葉にその通りだと頷く弟。
だけど、あたしはあんたとジーフィスに仲良くしてもらいたいんだ。
『ええ、姉は弟の私が言うのもどうかと思うほどしたたかな人でしてね。
今も連絡をとっているんじゃないかな。』
姉の恋人はイズって言います。
確かに、イズという同年代の男と連絡をとっていた。
彼女の弟の言うことは本当らしい。
会う気も失せた。
だから、気づかなかったんだ。
この時は。なにも。本当に、なにも。
『イオニア様、いらっしゃい。』
シザース一族の能力は擬態。
今の俺は一個師団を抱える将校。
隠した名前、イオニアを名乗っている。
常連の店の新人。
ユリアンはイオから神聖士の付き人として来たらしいが。
IDを調べると入国の記録がなかった。
つまり、入管を通らずにIDを使っている。
怪しいことこの上ない。
『ユリアンはどうして星を出てきたんだい?』
『イオのことは言わないで。』
イオには悲しい記憶しかない。
悲しみの中にいたくなくて星を出たの。
だって。
愛してた彼を友達にとられて悲しくないわけがない。
しかも、あたしの酷い噂まで流して。
回りが皆離れていって苦しくて悔しくて、あたしも嘘をついたの。
星を出て、弟に、あの二人の浮気のせいで姉は死んだんだ、って言わせたわ。
あの二人、あたしたちのせいじゃないって声高にして言ったらしいけどね。
『だって。いいでしょ?
今まで頑張ってきたんだもん。
復讐ぐらい。』
努めて笑っている彼女に悪いことをしたなぁと思った。
だけど、それが嘘だったなんて…。
姉の異名はルシファーって言うんです。
この間、妻の弟に言われた言葉が気にかかる。
『ルシファーって知ってるか?』
試しに、イオの隣、ガニメテと言う星出身だと言う父をもつ番兵に聞いてみる。
途端に顔色を変えて、絶対に王妃様にその言葉だけは言ってはなりません。
王妃様が悲しむだろうからと――――。