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4章 「消された過去」
『…、今日もユリアンお姉様は生きていらっしゃる。』
朝起きるときに確認するのは姉の偽造IDの更新歴。
ダイナーの退勤が押された時間を確認する。
このIDは当代のジュピターが継子を濃き使うために用意した物だ。
姉を下働きとして使うときの。
姉は二重生活に慣れているけど、それはセルティーファイアの一員と思えぬ母の行為を止められなかった。
だけど、そのお陰で姉は地球で本来の自分で過ごせる場所を見つけ出せた。
『ユーシス、もう帰っちゃうんだ。』
『ユリアン。あの男、さっき一緒にいた男は気をつけておいた方がいい。
神格を感じた。微かにだったけど、正体がばれたらまずいだろう?』
別れを惜しむ従妹に忠告を付す。
ナルヴィの能力は感知。
神格を感知する力。
同じ神聖士なら確実でわかる。
神格を封じているユリアンより少し強いぐらいの神格。
神聖士の遠縁の者なのか?
『わかっているわ。
あたしだって、外れものだけどアリアドネの遠縁。』
アース様の血縁の方なのでしょう。
よかった。彼の能力の中にアリアドネ縁の能力がなくて。
あたし、微かに神格を隠しきれていないのよ。
お母様の炎だから、うまくいかなくて。
ユリアン、早く星に帰らないと君は…。
シャラッ。
鎖の音がしてあたしに新しい石が付く。
『イズから託された。
姉様が幸せに帰って来られるようにだって。』
『今のあたしのイオの石はお母様にお父様が送った石。』
無理が出ていたんでしょうね。
ひびがはいっているのにあたしを15年間守り続けてくれたのよ。
まるでお母様のように。
お母様が亡くなられるとき、炎だけでもせめてとこの石に最後の力で宿られた。
だけど、石を代えなくてはあたしは長く生きられない。
悲しげに一人、呟く。
きっと、娘の命を奪うことをお母様なら、あたしに命をくれた彼女なら、望まない。
『あらっ?さっきの方からのプレゼントかしら?』
女将さんが聞く。
いいえ、さっきのはあたしの従兄なの。
あたしの誕生日プレゼントを届けてくれたの。
弟たちは全寮制の学校にいて星から出られないから。
ユーシスは昔からそうよ。
あたしたちを助けてくれてた。
あたしが二人の子供を引き取れたのもユーシスがあたしと育てると言ってくれたからなのよ。
あの子達も彼になついてる。
だけど、あたしはあの子達を守るために離れたの。
彼からも、あの子達からも。
訳ありだと思われれば深く聞かれることはない。
酒に酔った末に消し去りたい過去なんだと悲しそうに呟いておく――――。