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3章 「大丈夫」
『ユリアンお姉様、今日も星は平穏ですよ。』
二日おきに来る姉からの連絡。
今日はいつもと違い、やつれたことを指摘されてしまった。
僕が尊敬するお姉様、死なないで。
生きてください。
『イズ、なんだか星を離れてから少しずつ眠たくて仕方ないの。』
地球へ向かう銀河列車の中、投影型電話をかけてくれた姉は明らかに星の炎に飲まれ始めていた。
姉は自分の命とも言うべき炎を残して嫁いでいった。
だが、炎を宿さない身体では神格を纏わず、嫁取り相手に疑われてしまう。
『決めた。お母様の炎を宿して嫁ぐわ。
お母様の炎があたしを害するはずがないわ。』
僕は姉を止められなかった。
例え親子と言えど別の人の炎を宿す負担は大きい。
他人の星守の炎を宿すよりは負担はましだろうが、いつかは身体に負担がかかり、死に至るだろう。
嫌だ。お姉様を死なせたくはない。
『イオの石。あれは先代イオに送られたものだ。』
せめてあの石をお姉様の身体にあった石に変えれば死期は延びることだろう。
初めて自分の受け継ぐ能力に感謝した。
やっとお姉様にあう石を見つけ、加工できた。
普通に自分の星を守り、イオを守り、その上で能力を使う。
ここまで来るともう、オーバーワークとしか言いようがない。
本当は自分の手で届けにいきたいけど、少し力が足りない。
どうしよう?
そう思ったときにイオの神殿にあの男がやってきた。
ナルヴィ=ユーシス=アリアドネ。
アリアドネの姓は聞いたことがあった。
本来、イオの後継を養育するはずだった一族の姓。
イオの親族。
倒れている僕を見て、大丈夫かと聞く彼は見た目だけなら俺と同じぐらいの年齢。
ただ、セルティーファイアの一族は皆総じて早熟であり、俺も16、7くらいには見えているだろうか。
『すみません。二つの星の星守をしながら能力使ってしまったのがいけなかったですね。』
ユーシスと名乗った男はどうやら以前、お姉様が話していた味方の親族らしい。
それならば、と姉が嫁いだ理由とそのために姉の代わりに星守をしていること、姉の命の危機を救ってほしいと伝えた。
男は僕を介抱してから姉を追っていった。
とりあえず、途中で姉の働いているダイナーを教えたが、不安だ。
彼は戻ってきて任務完了と笑顔で告げた。
姉が喜んでいたことも、イズに申し訳なく思っていることも、そのために早く後継を望んでいることも。
自分の幸せを犠牲にしてまで星を守る彼女に情をかけるものはいなかったのか。
今まで姉は幸せに育ったと思っていたけど、思えば、早くに両親を亡くして苦労しているんだ。
なのに、いつも大丈夫だと笑って。
何が大丈夫なもんか――――。