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2章 「従兄」
『イオニア様、こんばんわです。』
語尾にハートマークを付けそうな勢いで接客をする。
ダイナーという店に働き口を見つけてから早いもので3日がたった。
上の弟のガニメテの星守、イズ(本当はイズルだが、イズと呼んでいるうちにそうなった)には連絡はしたが、なんの問題もないそうだ。
本来なら、イオの母で代々イオの星守をしてきた家系から誰かに星守を託せればよかったけど、そんなことしたくなかった。
母を亡くしたあたしを一族総出で無かったものとして今まで星守の役目を押し付けてきた親族なんかには星を任せられなかった。
『では、君はあの話題のイオの出身者なんだね。』
ええ。イオは福祉政策も整っていてあたしでも仕事を手にして働いていました。
このイオニアという金髪碧眼の整った顔立ちの男は軍の将校らしい。
今は惑星間で戦争など無意味だという共通認識のもと戦争を起こしそうな星の星守りには経済制裁を行っている。
男も星の機関で働いているらしい。
『自己意識が弱いなぁ。』
『だって、あたしは孤児で何も持たないもの。
両親を亡くして親戚は面倒事を嫌って引き取ってくれなかった。』
その上、この子は弟さんたちを養育する健気な子なのよ。
星に残して来ているのよ。
口を挟んできたのはこの店のママでダイナーさん。
身寄りのないあたしの身元引き受けをしてくれた。
『ユリアン。』
急に呼び掛けられて振り返る。
そこには懐かしい顔がいた。
ユーシス。お久しぶりじゃない。
仕事でこっちに来てたのね。
ああ、ちょっと。
届け物があって立ち寄ったんだ。
『外で話しましょうか。』
彼女とユーシスと呼ばれた男が店の外へ消えていく。
なんなんだ。あの男は。
輝く銀髪にロシアンブルーの深い色の瞳。
整った顔立ちに精悍さを漂わせていた。
突然、胸に去来した切ない想いにただひたすらに名前を求めた。
だが、これは俺がこれまで感じてきた感情より深く苦しい想いだ。
『久し振り。ユーシス。
あなたが訪ねてきてくれるなんてね。』
『驚いたよ。イオが嫁いでこっちに来てるなんて。
星守は代理をたてたのか?』
いいえ、仮の星守をたててあたしの炎がイオを守っているわ。
仮の星守はイズ…、イズルよ。
あの子だけはお義母様の嘘に惑わされなかった。
あなたたち一家のようにね。
俺はこの、従妹の辛い過去を知っている。
だからこそ、幸せになってほしいのに何だって酒場で媚を売る女になっている――――。