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19章 「約束」
『ふうん、イズラルドさんねぇ。
あなた、18だそうだけどお仕事は?』
ダイナーさんは退職の意思を決めたあたしと18歳のイズを前にしている。
今のイズの役どころはユリアンの恋人で婚約者のイズラルド=ザイリンベル。
『地球とイオの間での輸出入の仕事を主には。
親の仕事を手伝っています。
武者修行のために地球の城でイオの人間を雇い入れていると知って働いていました。』
そう、それで、お城に働きに出てユリアンと出会った訳ね。
それで、少ない同郷の民として付き合っているうちに恋人になったんです。
彼が故郷に帰るから、あたしもついて行く。
『ユリアン、あんた、ここに来たときよりもずっと強くなったし、美人にもなった。
この人のお陰だろう。』
ユリアンが決めたことならいいんだ。
向こうに戻った方が弟さんたちにも会えるだろう。
だけど、こちらに来るきっかけを作った友人ともと恋人とやらはどうするんだい?
死んだことにしてあるんだろう?
『それならご心配に及びません。
僕が住んでいるのは木星の衛星、えっと、こっちの言葉で…。
そう、イオプラネテスの2番衛星、ガニメテ。』
イオからは少し距離があって、文化や言葉なんかは同じで生活に困ることはないのでそちらで暮らそうかと。
ユリアンは望めばガニメテに帰化できて名前も変えられる。
リー、という名前を与えました。
彼女の弟たちも、ガニメテに来れば会えますし。
僕とユリアンのことは里親だと説明させます。
ダイナーは苦笑しながら論破される。
『最後に、イズラルド君。
ユリアンを絶対に幸せにすると誓えるかい?』
彼女の目はかつてないほどに真剣だ。
あたしのかわいい娘を幸せにしないなら、渡せない。
瞳から伝わってきそうな想い。
ああ、ダイナーさんはこっちの星のあたしのお母さんみたい。
『もちろんです。
でも、先に弟に誓いました。
その上で、彼らとは本当の家族でいたいと、本当の家族として扱うと伝えました。』
ならば、大切なあたしの娘を幸せにしてやっておくれ。
ユリアンは人一倍幸せにならないといけない。
それと、たまにでいいから、ユリアンからの手紙を待っているわ。
『ええ、もちろんよ。
約束するわ。…お母さん。』
ダイナーは瞳に涙を浮かべ、見送ってくれた。
手紙出さなきゃね。
お母さんへの手紙ではせめて幸せなユリアンでいたい。
優しい旦那さんと逞しく育っていく弟たち。
そして、望むことのできないかもしれない子どもとの生活…。
もう、子供とイオの命を選ばなくてはいけないぐらいには身体は弱りきっているはず…。
アリアドネの力を使う度、セルティーファイアの力を身体に取り込むごとに噎せては吐血を繰り返す。
鈍い痛みはまるで体が悲鳴をあげているようだ。
もう、幸せは望まない。
幸せを望まないことが自分と自分との約束―――。