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17章 「作戦」
『ユーシス様。』
久方ぶりに会った従妹の異母弟、ジーフィスは正気に戻ったようだ。
ジーフィスにこれからの作戦を伝える。
ジーフィスは作戦にかかる人員について考えた。
セルティーファイアの能力者は僕でいいとしてアリアドネの能力者はどうするのか?
それは、俺だ。イオの従兄だとは名乗ったが、
肝心なことを忘れていたようだ。
一人、ごちる彼に嫌なところはない。
それは、姉といるときに感じていた微かなアリアドネの能力に慣れているからだろうか。
『俺は、ナヴィ=ユーシス=アリアドネ。
当代アリアドネ当主の弟だ。』
だから、アリアドネ当主の使いってことで王様に謁見してきた。
いたずらっ子のように瞳を輝かせて言う彼は、急に真面目腐った顔をする。
今度のことはアリアドネもセルティーファイアもどちらも悪い訳じゃない。
ただ、ちょっぴり運が悪かっただけなんだ。
そのせいでユリアンは家族の温もりを知らずに育ったけど。
今は彼がいるし、大切にしてくれるように少しだけ妬かせよっかな。
『アース様、少し休んではいかがでしょうか。
イオは私共で看ていますから。』
実際、アースの顔は酷い疲労の色が出ていた。
誰が声をかけるかで俺が名乗り出た。
少しは妬いてくれたかな。
母さん、もとい、おば様に神言の詠唱を頼む。
誰に憚られることなく、洗礼の神言詠唱が終わるように封魔術の結界を張る。
そして、ジーフィスに力のかけ方を見させながら、均等に力をかける。
どうか、この策がうまくいって、大切な従妹が幸せな顔を見せてくれますように。
『戻ってこいよ。ユリアン。
お前がジーフィスがいないと悲しいと思うように、お前がいないと悲しむ人もいるんだからな。』
悲しそうに呟く。
神言を詠唱しているおばは顔には出ていないが、その瞳が切なそうに我が子を捉えている。
ああ、早く気づくべきだったよ。
城内での術式の展開には気づかれていないようだ。
よしっ。あと少し。
『貴様ら、イオに何をしている。』
あーあ、ばれちゃった。
おば上、最後まで詠唱を。
我は娘を神の祝福を守護にイオの神聖士に任命する。
これにて洗礼の神言詠唱を終わる。
弱まっていた炎の力が少し強くなり、ユリアンは昏睡状態から醒めた。
『ああ、愛しい我が子よ。
どうか、幸せになっておくれ。
お前を残して逝くことになった母からの最後の頼みだよ。』
やさしく、慈愛に満ち溢れたおばは、ユリアンを抱き締める。
そして、俺たちに声をかけてきた。
この度は私たちのために尽力してくださったユーシス殿、本当にありがとう。
お陰で、娘に別れを告げることが出来ました。
これで、思い残すことはございません。
姉上によろしくお伝えください。
消え入りそうな若い声。
そしてすぐに、神界に戻っていった。
作戦は成功した――――。