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16章 「術式」
『この術式はようとして術者すらわからん。』
術式を指でなぞりながら、術者の名前は…、対象者は…。
わかるのか?
義兄が尋ねてくる。
イオの言葉は片言程度だがセルティーファイアの、ジュピターの言葉で書かれた術式は読めること。
そして、イオの言葉でわかるのは術者と対象者ぐらい。
あとは古語で書かれていてわからない。
それが答えだった。
『くそっ。』
一人、与えられた部屋でパンをかじりながら、自分の無力さを呪う。
もっと、イオの言葉が学べていたら。
子供時代は楽しかった。
姉は遊んでくれたし、面白おかしく勉強だって教えてくれた。
週に数日、星に帰るのが嫌だとか駄々をこねた。
だけど、姉が星へ帰っていたのは星守の仕事もためだと知った。
星守の仕事の大変さを自分が星守になってみてわかった。
そして、母にかけられた術式。
操心から、なんとか自我を閉じ込めて守った。
だけど、その代わりに身体の自由を失って、言葉を聞くことも、物を見ることも、考えることもできるのに何もできない。
『姉様はなぜゆえ眠り続けているのだ。』
記憶がない。
あの日、姉と中庭に出てからの記憶が。
それは、ユリアン自身がジフィに怖い思いをさせたくないからとアリアドネに伝わる薬を盛ったからに他ならない。
ああ、僕にもう少し力があれば。
姉が倒れて以降、身体が自由に動く。
なのに、年相応にしか見られないために邪魔物扱いされる。
とりあえず、術式の組成を探ろうとはしているものの。
さっぱりうまくいかない。
『お初にお目にかかります。
私はナヴィの星守の次男坊のユーシィ。
正しくはナヴィ=ユーシス=アリアドネ。
イオの母方の従兄でございます。』
本来ならば、イオの弟君であらせられるイズル様がいらっしゃるのですが、彼は位を継いだばかりでして。
柔軟に笑う彼がイオの想い人?
イオと同じ色の髪と瞳。
ユーシスと聞いてあの、酒場のユリアンの従兄のユーシスが思い浮かんだが、あれとは別人だ。
それで、イオは?
その言葉に今まであったことすべてを語る。
術式を見て、すべてを悟った。
ユリアンは自分一人でやり遂げてしまったと。
術式は何ら問題はなく、完璧に組まれていた。
ともすれば、一編の違いもなく記憶する。
そして、考える。
アリアドネの力は能力で困っている神聖士を助けること。
術式の裏をかき、手立てを考える。
そうだ。この一節にはこうは書かれていないじゃないか。
だとしたら、ユリアンを助けられる――――。