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15章 「解術」
『…天翔ける星々の神々よ。
我の声を聞きたまえ。
この赤子に祝福と幸福の中、ユリアンと名を与える。』
ああ、気を失いそうなほど苦しい。
だけど、せめて、娘に、ユリアンに神様の祝福をあげたい。
愛され、望まれて生まれた命なのだと、いつの日かわかるように。
だけどもう、身体に力が入らないのよ。
悔しくて仕方ないわ。
愛する人を守れないこの、身体が憎らしくて仕方ないわ。
神様、最後の我が儘です。
どうか、娘が幸せな未来を歩めますように。
ああ、もう、時間がないのね。
あの子の顔ですら霞んでくる。
さようなら。
あたしの生きた世界。
『よしっ。解術の術式は整ったわ。
いつ、解術しようかしら?』
ああ、スノードロップの花だわ。
もうすぐあたし、お母様と同じ年齢になるのね。
決めた。あたしの16の誕生日にあの子の術式を解術するわ。
どうせ、誰も祝ってはくれないものね。
あたしの生誕なんて。
『…ふっ。姉上の生誕をアース様は祝いたくないんだな。』
本当にそうね。
あたしは生まれたことすら望まれない。
ニヒルな笑いにジフィは驚いたような顔をしたけれど、それをどうとも思わないぐらいに心は冷えきっていた。
ジフィを庭園に誘う。
…天翔ける星々の精霊たちよ。
我が声を聞け。
この者を捕縛せよ。
輪環術の中心にジフィが差し掛かったところで叫ぶ。
ジフィを捕らえた。
『…くそっ。このぉっ。
なんだ?こんなちっぽけな力。』
ジフィの荒れる心が少しでも昔の心優しいジフィの心に戻ってくれますように。
祈りを込めた歌。
愛の歌は元々、愛する恋人を戦争で失った女の心と平和への願いが込められた古代の歌。
ジフィ、戻って来て。
あなたがいなくて悲しむ人は大勢いるの。
あたしもその一人よ。
だから、戻って来て。
『…姉様。姉様?
起きてください。姉様。』
どうして?
どうして起きないんだよ?
あのとき、姉様は誰かの炎の結晶を握りしめて静かに眠っていた。
すぐに声に反応すると思ったのに。
あわてていて、アース様の会議中に入り込んでしまった。
『アース様、大変です。
姉様が、…姉様がお倒れになりました。
原因不明で昏睡状態です。』
アースはぽかんとした顔も、驚きの顔もせず、ただ、淡々と仕事をこなす。
そして、しばらく後、ジフィを案内人に至極退屈そうにその場所を目指す。
そこには青白い顔をした妻が倒れていた。
イオ?イオ?
声をかけても反応は皆無だ。
急いで部屋で寝かせて医師の診察を受けさせる。
その間にあの、謎の術式を見に行く。
中庭に大きな術式。
異星の言葉で書かれていてわからない。
謎の術式のみがそこにある――――。