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13章 「説得」
『母さん、身体を貸してほしい。
助けたい人がいるんだ。』
まぁ、なんだい?
藪から棒に。
母がすっとんきょうな顔をする。
先代イオ様のたった一人の忘れ形見、ユリアンを助けたい。
ユリアンとユリアンの母さんのためにも。
『まさか、あの子が洗礼の途中で死んでいたなんて。』
セルティーファイア側からは洗礼を済ませ、後見が立った上でイオの神聖士の位に就くと…。
嘘だったのね。
嘘じゃなかった。
少なくとも最初は。
狂いだしたのはユリアンの父親が再婚してからだ。
ユリアンの父親が病に倒れ、ユリアンは後見を失い、継母に言うのも憚られるぐらいのいじめを受けた。
そして、愛する人のもとへ嫁いでいったのに…。
『やっと、やっと幸せになれたと思ったのに…。』
あいつ、母親の炎で神格をごまかしてる。
セルティーファイアの力だけは本物だけど。
アリアドネの能力をほとんどもたない。
あいつには幸せになってもらいたいんだ。
だから、洗礼の続きをやりたい。
神界に行って、ジュピターの心の邪悪の塊を後払いで先代イオ様の依り代に母さんの身体を使う。
勿論、洗礼の続きの神言とユリアンに別れを告げるまでの間の時間だけの依り代だ。
『そうね…。
せめて、ユリアンを抱き締めてあげる時間は許すつもりよ。』
だって、命を懸けて産んだ我が子に会えない悲しみは同じ母親としてわかるわ。
だから、アリアドネの能力をあなたが使って最大限ユリアンをフォローしなさい。
いいわね。
強い母の口調にどこか頼もしさがわいた。
これが我が子を守らんとする母の強さ。
『まっずぅい。このままじゃ、ダイナーに遅刻しちゃうわっ。』
城の鉄壁の守りを突破したあと、いつも、能力を封印しているあばら屋に入り込む。
イオの石はほんわり明るい色になる。
お母様の炎が宿った証拠。
一緒にいてくださいね。
いつもの問いかけをして、ダイナーに走り出す。
『いらっしゃい。イオニア様。
久しいわね。』
ああ、ごめん。
忙しくて、ついね。
イオニア様はいくつでいらっしゃいますの?
お若く見えますわね。
それなのに国の将校として働いていらっしゃるのでしょう?
17だと年齢を伝えてみると、まぁ、あたしと同じなのね。
可愛らしげな声が帰ってくる。
本当に、不正入星があったのか。
そして、その容疑者がここにいると言うのに。
聴取もできないなんて。
もどかしすぎる――――。