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11章 「輪環」
『輪環術のアリアドネ側の術者として今日は来たんだ。』
当主の次に能力があるからね。俺は。
呑気に言う彼を見つめる。
正直、この人は正体不明だ。
ユリアンお姉様が嫁いでいってすぐに現れた彼は届け物を頼まれてくれた。
そして、帰ってきて、倒れている僕を見つけて介抱してくれた。
力の使いすぎのオーバーワークは釘を刺されたけれど。
悪い人ではない。
『なんたって、当主の弟だからな。』
アリアドネのプロパガンダとしての外交員の仕事は表向き。
主な仕事は封魔士としての仕事。
あちこちの星で神聖士の一族が力を悪用したときに術を解いてる。
術式を読むのは得意だ。
ええっと、どこから突っ込んでいいのやら。
確かにユリアンお姉様はアリアドネの一族ではあるが、その力は弱く、先代イオはアリアドネのなかでも末端の娘だと思った。
『あれぇ?最初に言わなかった?
ユリアンはアリアドネでも上位の能力者の序列に入るって。』
ユリアンは、正確には、ユリアンの母親は先代アリアドネ当主に次ぐ序列だった。
つまり、先代アリアドネの妹だ。
アリアドネ直系の俺と先代の妹の娘のユリアン。
ふたりは従兄妹同士ってこと。
『さて、対象者を連れてきて、輪環術をスタートさせますか。』
驚きで目を丸めている僕を尻目に彼、ユーシスは言う。
とりあえず、ジーフィスを呼び出し、輪環術をかける。
意図も容易くユーシスは能力を操る。
ユリアンの炎の結晶の封印を解かないように、アリアドネの能力を使う。
この炎はユリアンに返した方がいいな。
一人、ごちているユーシス。
炎が強いアリアドネの力を放っているから。
『これが、こいつにかけられた輪環だな。
古代のイオの言葉だ。』
輪環に触れるとわかる。
流れ込むように術式や力の組み方がわかる。
どうやら、術者はジュピター、解術するには〈愛の歌〉を聞かせるしかないらしい。
こいつにはジフィの人を愛することと人に愛されることの記憶が封印されている。
愛する人の歌う歌。
それが、ジフィが正気を取り戻す術となろう。
『〈愛の歌〉はユリアンお姉様がよく僕らをあやすのに歌ってくれた歌。
きっと…、ジフィは愛を求めているんです。』
お母様はジフィを愛してはいない。
少なくともジフィはそう感じているはずです。
だって、ジフィにまで操心の術をかけた。
ずっと小さな頃、ユリアンお姉様は僕らに無条件の愛をくれた。
だから、解術なんて考えなかっただろう術に解術の標がついた。
これがジフィの輪環。
正気だったジフィの抗いだ――――。