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10章 「能力」
『奥方様、郷里のユーシィ様からお手紙ですわ。』
あら、ユーシスからなんて珍しい。
メイドをそこそこに退かせて手紙を見る。
その手紙はある、娘からの手紙。
ユーシス経由で送られてきた。
その娘は先代イオの付き人でアリアドネの娘と、先代ジュピターの付き人でセルティーファイアの男との間の娘。
『ああ、なんてこと。』
弟を、ジフィを助けられるかもしれない。
だけど、今、あたしがイオに戻るわけにいかない。
あたしの身体は長いことアリアドネの能力である悪意ある力を退ける力が強い状態にある。
セルティーファイアの能力である他人の能力の形を知る力を押し殺した状態だ。
今、星に帰ればあたしの身体が星に残してきた炎を取り込み、同化してしまう。
そんなことをすればイオの後継は望めず、星は超新星爆発を起こしてしまうだろう。
すぐさま、イオの炎の一部を結晶化する。
そして、筆を執り、手慣れた様子で手紙を書く。
炎の結晶の封印を解くには、アリアドネの一族が力を貸すだろう。
『ユーシィ、アリアドネから力の強い子を貸してほしいんだけど。』
ユーシス経由で来た手紙のことをかいつまんで話す。
ユーシスは能力者なら何人か知ってるからと声をかけてくれることになった。
星での雑事もこなさなくちゃならないし。
ええと、傷病者の手当てについてのレポートを上げて。
『ユリアンお姉様。』
可愛らしい声であたしを呼ぶのはイズ?
いいや、違う。
イズはあたしと同じぐらい成長が早かったから、夢のあたしとこんなに年が離れているなんて考えられない。
と言うことはジフィ?
あたし、ジフィを守りたかったのに。
お父様と約束したのに。
ジフィもイズも守るって。
なのに…。
『ここがイオの部屋かぁ。』
初めて来た。
そういえば、ろくに会話なんて交わさなかったっけ。
悪いこと、したな。
思えば、この婚儀のために一人でこの星に来たって言うのに会わないばかりか優しい言葉もかけなかった。
さぞかし心細い思いをしただろうな。
イオ姫は…、寝てるし。
って、えっ?
『ジフィ、ごめん。…ごめん、ね。』
うなされてる。
しかも、ジフィって、誰だ?
あの子も言ってなかった名前だ。
それに、この涙。
か弱い声で呼ぶとすれば、家族だろうか。
眠っているのに触れる頬や手はあまりにも冷たくて。
本当にイオの神格を宿しているのかすらわからぬほど弱いオーラで。
本当にこんなのがイオの星で一番の能力者なのか――――。