1
1章 「バッドマリアージュ」
『あたしはそんな名前じゃない。
あたしは――――。』
あたしの嫁取り相手は3年前の成人の儀礼で啖呵を切ったあたしを見ているかもしれない。
あたしは木星の惑星イオの星守の末裔。
最後のイオの後継。
現代のイオ。
継母に嫌われて星を追われるように嫁に出された。
この、地球の星守、アースの元に。
『お初にお目にかかりますわ。
私はイオ=セルティーファイア。
どうぞ、イオとお呼びください。』
名前を1つ隠した。
本当はミドルネームの方が星守の名前に父親の姓より正確な名前だ。
イオは代々星の命の炎の灯火を宿して生まれた子供に付けられる守護している星を表す名前だ。
だから、先代の母もイオだった。
『ふうん、王妃様についてきたメイドねぇ。』
この星では星守は王族とされているようだ。
王との婚礼の義があってもう一週間。
今のあたしは星守の力を封じている。
星守の力がなければそこらにいる女の子と大差ない。
はい。王妃様はこちらの言葉に明るくていらっしゃってあたしなんてこの、こちらの星にはない容姿ぐらいしか取り柄がなくて。
あたしは孤児で王妃様に引き取られなきゃ生きていられなかった。
嘘を吐くのは本当を隠すため。
『気に入った。ええと、ユリアンだっけか?
うちの店で働きな。』
わぁ、女将さん、ありがとう。
あたし、頑張って働きます。
星にいる弟たちを養うためにも、あたしは働くしかないです。
そう伝えると女将さんは涙を浮かべ、そういうことはもっと早くに言うんだよ。
働く気概も充分だし、容姿は美人に入る部類だ。
そういうことなら、今夜からでも働きなさいな。
弟さんたちはいくつ?
女将さんに11と13だと答える。
どちらも男の子だからあと2年で成人の儀礼を迎え、上の子は働きに出られると喜ぶ。
そうすればあたしたちは少しは楽になるのになぁ。
すべて、時間が解決することだ。
イオの新しい後継も、今は仮になっているイオの星守のことも。
こうして、二重生活の結婚生活が始まった訳だが。
城は命の灯火を封印してただのメイドを装えば抜け出せる。
ここまで誰にも気づかれないなんて。
自嘲気味の笑みがこぼれる。
アースとも会わない日々が続いている。
二重生活に気付かれてないのはいいけど。
早く、次代のイオを立てないと、あたしはイオを超新星爆発によって命とともに失ってしまう。
嫌、嫌よ。
イオは星守のあたしが守る――――。