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5.ヒーローは割と身近に潜んでいる。⑤

5.


それから何事もなく2日過ぎ、学園でもちょこちょこその子を気にかけてはいたが、明るく振る舞っていたように思える。強いな、と思った。


そうして助けて欲しいと言われてから3日目の夜、その男から連絡が来たという。俺はすぐさま用意をした。

愛とジュリアにも簡単には説明していたので、俺が準備をしていると


「そんなやつ、一捻りにしてあげなさい。」


とジュリアが言ってきた、当然そのつもりである。

自分の欲望のために他人を巻き込むクソ野郎。よく知らない女の子だが、女の子を泣かせた罪は重い罰で償わせてやろうと心に、愛に誓った。


「ひーろ、人助けだよ、うん。」


愛の額に口付けをし、いってくる、とだけ言うと俺は家を出た。




『街外れの公園に迎えに行くからそこまで来てね』

聞くだけで鳥肌の立つような声でそう指示してくる男。正直吐き気が止まらないし、震えも止まらない。電話がかかってきた時は出る事すらもしたくなかった。でも私が電話に出なきゃ、お父さんとお母さんの会社が潰れちゃう。ただでさえ、会社の雲行きが怪しくなって来て2人の仲も悪くなって来ているのに潰れてしまったらこの家庭は無くなっちゃう、そんな気がした。

それをさせたくないがために、私は男の指示に従う。

正直逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

なんで私が、と苦悩し、何度も泣いた。

これから私はどうなるのだろう、そんな事ばかり考えてしまう。それでも、少しだけでも希望があるのなら・・・

私はあの、頼りなさげな顔を思い浮かべる。

私が助けてと言ったら二つ返事で了承してくれた、正直藁にもすがる思いで、ダメ元で誰かに助けを求めた。でも皆野くんに何が出来るのだろう。言われたままに連絡が来たと教えたが、彼はどうやって助けてくれるのだろう。もしかしたら、あの場を逃れる嘘だったんじゃ、とか色々考える。

それでも、もし助けてくれるのなら・・・

一縷の望みに縋る。



そうして、今宵の舞台は整った。


1人の悪、1人の泣いている女の子、

そして女の子に助けを求められた1人のヒーローが揃い、今幕が上がる。



街外れの公園に呼び出された、と連絡をもらった時その声は怯え苦しみ、今にも消え入りそうな声だった。俺は、


「大丈夫、必ず助けるよ」


それだけ言った。


家を出て、すぐに公園へと向かう。

単独であればその場で仕留められるが、もし複数いた場合、その場で事を起こすことはしないだろう、多分3.4人くらいいて、車で移動するのではないかと推測。

そうであれば何かしら怪しい車が公園近くに止まっている可能性もあると踏んで、下見にいく。指定された時刻まであと30分、車を準備するならこれくらいの時間だろう。念の為車で逃げられた時のことを考え、俺は数少ないツテのヤマさんに連絡を取る。


『おう、皆野か。どうした?』

「何も聞かずに車を出して欲しいです。」

『例の人助けか?』

「はい」

『本当にやってるんだな。いいぞ、リョウを向かわせる、場所は?』

「街外れの公園です」

『わかった、片付いたら話聞かせろよ』

「話せる範囲でいいのなら」

『それで構わん。じゃあな』


本当に手を貸してくれるみたいだ。正直、こんなにあっさり手を貸してくれるとは思っていなかったので驚いた。ヤマさんが困っていたら手を貸してあげよう。片手くらいで。


指定時刻の10分前に公園に着いた。

昼間は子どもらで騒がしいであろう公園もこの時間になると流石にひとっこ一人いない。

周囲を見まわすも、なにか怪しげな気配などは感じない。もしかしたら単独なのかもしれないな、とか考えていると携帯が震える。


『よっス!公園近くに来たがどーすればいい?』

「リョウさんてあんたか」

金魚の糞Aだった。

『面白そうなことやるンだったら俺も混ぜろよ?』

「公園に1分で来られる所で人目のつかない所に車を止めてすぐに出せるようにして待機しててください」

『っけ!わーったよ!』


面白いことはなにも無いし、3.4人くらいいたとしても多分使えないだろう。俺はAに待機を言い渡すと、周囲を軽く見回り公園にあるトイレの屋根へと登り、伏せる。太陽は既に沈み、今はちょうど天辺くらいに綺麗な満月が俺に力を与えてくれるようにテカテカと夜を明るく照らしていた。

(サクッと片付けて、愛とジュリアと月見でもするか)

愛と、ジュリアに想いを馳せていたら公園の入り口からジャリジャリと砂を踏む足音が聞こえる。目を凝らして見てみると、女の子だった。公園に1歩入りあたりをキョロキョロと見まわす。すると、女の子の後ろに1台の黒いバンが止まり後部座席のドアが開いたと思ったら、女の子はそのまま中に引き摺り込まれた。

(クソッ・・・、はなから公園に用はないってか)

俺は携帯を取り出し、Aにかける。


「公園にすぐきてくれ」

『あっ、おいなん』


それだけ言うと俺は屋根から飛び降りた。

ドスッと音の後すぐに体勢を整え、入り口へと向かうがバンは既に走り去った。


「チッ、」


思わず舌打ちをするが、舌打ちしたところで何も始まらない。Aが来るまでに俺は愛に電話をかける。


1コールのち、


『ん』

(さら)われた、俺の今の居場所わかるか?」

『・・・、見つけた。うん』

「そこから東方向に黒いバンいるのわかるか」

『・・・、大丈夫、うん。』

「このまま繋いどく」


そうして会話を終えたタイミングでAが来たので、即座に乗り込む。


「あの今左折した黒いバンを追ってくれ」

「どういうことだ?」

「話している暇はない、あのバンを追ってくれ」

「へいへい、わーったよ。」


リョウが運転する車が動き出す。

すると愛が、


『多分、高速乗る、うん』


と言って来たので、


「高速に向かってくれ、バンはそこにいる」

「なンでわかるンだよ」

「ナビがある」

「便利だな」

「美人で可愛くて超有能だぞ」

「ンだそれ、っと。掴まってろヤ!」


Aが飛ばす、進路も聞かずに。

この辺の地理に覚えがあるのだろう、細い道をグネグネと走る。明らかにスピード違反だが今はそれどころではない。

最後の角を曲がると目の前に高速への入り口があり、丁度黒いバンもその入り口に差し掛かっていた。

(助けるから・・・必ず)




怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・

公園に着いた途端、後ろから抑え込まれ車に乗せられた。目隠しをされ、口を塞がれ手足も動けなくされた。ひたすらに恐怖が襲ってくる。想像を遥かに超えた事態に思考が追いつかない。

泣きたくても真っ暗で口も塞がれ、肩を震わせる事しかできない。

暗闇の中で思うは両親の事、それと彼・・・

(・・・助けてよ)



1時間は車に揺られていただろうか、車が止まった。車の中では人の気配が2つほど、あと運転手もいるからこの車には3人居ることになる。私を放置して3人で話していた声の中にアイツの声は無かった。もしかして、他にも人数いたりするのかな・・・

得体の知れない恐怖が波のように襲ってくる。最悪死も覚悟しないといけないのかも知れない。車のスライドドアの開く音がして、あの忌々しいアイツの声が聞こえた。


「あぁ、遂に逢えたね・・・待ち遠しかったよ今日というこの日が・・・、さぁ姫をゆっくりと降ろしてあげて」


未だ目も口も塞がれている状態で、周りの状況が把握できないことがすごく恐ろしい。

私は抵抗をした、しかし無駄だった。

手も足も固定され体をくねくねとするだけの無駄な抵抗。そのまま車を降ろされ、そうして担がれる感触。

ガチャッ・・・

ドアの開く音、どこかの家に入るのだろうか、私は一体これからどうなるのだろうか・・・

恐怖で体が震え、嗚咽が、涙が漏れる。

トスン、とソファらしきものに座らされる。

そこでようやく、目隠しを取られる。すると目の前には小太りの汚らわしい男と、その背後には4人の男がいた。

怖い怖い怖い怖い怖い・・・

恐怖でなにも考えられない、目から溢れる涙が止まらない。


「あぁ、姫よ。泣かないでおくれ。僕が今から君を快楽の海へと連れて行ってあげるからね」


ニタァと気持ち悪い笑みを浮かべる小太りの男。それとその後ろにも、ニヤニヤとしている男たち。

あぁ、私こいつらに・・・

今ハッキリと私が置かれている状況がわかった。状況がわかったことで更に恐怖が増す。

(誰か・・・おねがぃ・・・たすけ・・)




ガチャ、

黒いバンが止まっていた家のドアを躊躇なく開く。そこには女の子を拘束し、取り囲んでいる(ごみ)が5つ。


「なんだァ、おま・・・


近寄って来た1人目に渾身のアッパーを喰らわす。そのまま膝をつき倒れ込もうとしたところに追い討ちで顔面を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた男は横向きに吹っ飛びピクリとも動かなくなった。興味ないな。


「テメっ!!おいゴラァ!


2人目が来る。飛びかかって来たそいつの目の前で両手を、パンッ!と鳴らす。いわゆる猫騙し、ソイツは一瞬の躊躇、その隙に頭を掴み顔面に膝蹴りを入れた。多分歯が折れ、鼻も折れただろう。興味ないな。

そのまま足をかけ、転ばす。うつ伏せに倒れた所で、頭を踏み抜く全力で。


2人目も撃沈した。残るは3人だがそのうち1人はただの豚。残りの2人を始末すれば終わるだろう。

2人のうち1人がナイフを取り出す、やっとまともに戦おうとする奴が現れて一応はホッとした。けれどもソイツはナイフの切っ先をこちらに向けたまま動かない。


「なんだ、そのナイフは飾りか?」


煽る、こちらに突進させるために。


「強がるなよ、素手でどうこうできるわけないだろ?」

「ならビビってないでさっさと来いよヘタレ」

「殺してやラァ!!


安い挑発に乗る3人目、切っ先を向けたままこちらに突進。本当に芸が無いな・・・

ナイフを持っている手を爪先で蹴り上げる、そして落とす。

(ちゃんと握っとけよ・・・危ねぇな)


「う、うわあァァアアアァァアアア!!」


ナイフを落としてヤケになったのか、拳を握り顔面目掛けてこちらに殴りかかって来た。お得意の首傾げで躱し、腹に一発、腹を抑えて猫背になったところで、背中に全力の肘鉄。

ビタンッと床に落ちた。ピクピクしている、打ち上げられた魚かよ・・・


俺は3人目が落としたナイフを拾い、残りの1人に


「ほら、逃げるなら逃げろ」


と言って、出口を親指で後ろ指す。

ビビリながらもソイツは出口に向かおうとした。太腿の裏をナイフで刺す。


「ぐギャアアアアアーーっ!!!」


動物園のサル山の猿みたいな声で叫ぶ4人目。


「こんなことしといて逃げられるわけないだろ・・・アホか」


太腿からナイフを抜き、横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。4人目も動かなくなった。

俺は、ナイフ片手に小太りの男に近寄っていく。

そいつの目は恐怖に怯えていた、化け物を見るかのような、そして自分の最期を嘆いているかのような目で。


「ままま、待って!待ってくれ!!違うんだ!こここ、これは違う!」


取り繕うような、そんな感じで俺に許しをこう。俺は一歩また一歩、ゆっくりと近づく。


「ききき、聞け!そこの女をやるから、許してくれ!」


何様のつもりだろうか、男は自分の命欲しさに女を差し出した。俺はチラリと女の子を見る。その目には涙が、


「おい」

「・・・え?」

「見ろ」


俺は小太りの男の頭を鷲掴みにすると、少し離れている女の子の方へ顔を向ける。


「お前が侵した罪だ。わかるか?お前が何をしたのか。」

「・・・」

「お前は、この女の子を誘拐し暴力を行使して脅そうとしていたんだろ?」

「・・・」

「お前のカスみたいな、性欲を満たすためだけに女の子の心に一生残るような傷を負わせたんだぞ、お前にそれがどれだけのことかわかるか?」

「・・・ません」

「あ?」

「・・・わ、わかりません」


俺はそいつを壁際まで引っ張っていき、そいつの右手を壁に押さえつけ、


「今からあの子が味わった恐怖のほんの少しだけ、お前に味わせてやる」


そういうと、俺は躊躇いなくナイフを刺した。


「がァァアアアーーっ!!いだだだだだーーーーっ、あひっあひっぇああああ!!」


人の叫び声とは思えない叫び声でそいつは叫ぶ。汚い顔に涙が浮かぶが俺は罪悪感もなにも浮かばない。


「おい、まだ終わりじゃねぇぞ。」


俺は刺したナイフを抜き、刺した位置から少しだけ下にずらすと、躊躇いなく刺した。


「うぼばばばばば、ぎゅぉえっぐゅ・・・ぃぁだだだだーーー」


2度、3度、4度と何度も何度もナイフを刺す。

そいつは既に失神していたかもしれない。でも俺はそいつを床に放り投げ、


「あの子の恐怖はそんなもんじゃないぞ」


そう吐き捨てると、ナイフを捨て、女の子に近づく。女の子は俺が一歩近づくとビクッ、としたが俺は


「大丈夫、助けに来ただけだ」


そう言って、極力恐怖を感じさせないように優しく微笑む。

ゆっくりと、女の子の口に貼られていたテープを剥がし、縛られていた手足の縄を解く。

手足、口が自由になり女の子は呆然としていたがやがて


「ぐすっ・・・ごわがっだ・・・」


不細工な泣き顔で鼻をすする。


「可愛い顔が台無しだよ」

「うるざい・・・」


女の子は俺に抱きつき、泣いた。

震える女の子を抱きしめ、頭をゆっくりと撫でる。


「大丈夫だよ、終わったから」




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