3.ヒーローは割と身近に潜んでいる。③
3.
「(お前らは、この国の手となり足となる。そう駒だ。この国のために敵を1人でも多く殺し、そして死ね)」
図体のデカい髭面のおっさんが何語かわからないが、喋っている。おそらくだが、この国のために死ね的なニュアンスだと思う。幼いながらにソレはそう感じ取った。
肉弾戦の訓練で、同じ年齢くらいの女の子とサバイバルナイフ片手に半殺し合いをさせられる。他人の痛みは別になんともって感じだったが、幼いながらに自分に降りかかる痛みは耐え難いものだった。
なので、ソレの取る行動は1つ。
いかにダメージを貰わず、いかに素早く敵を殺すか。
その思考力が他の誰よりも優れていたソレはみるみる殺人兵器と化していく。
躱す、裂く、躱す、刺す、躱す、そして殺す。一連の流れを体に染み込ませる。
反復を繰り返す、そう呼吸をする様に動けるまで・・・
銃は持っていると強くなった気分になるが、肉弾戦はそうもいかない。基礎、体力、技どれか1つでも欠けると即座に殺されるであろう。
ソレは常日頃から意識して肉弾戦の訓練に取り組んでいる。
自らが肉塊とならない為に・・・
「緋色ちゃん、そろそろ起きたら?」
「うん?
ジュリアか。おはよう、寝心地抜群によかったよ。またよろしく」
意識が覚醒、名残惜しくもジュリアの枕なみの柔らかさの膝枕から起き上がる。
そろそろ時間だ。
「ふふっ、がんばってね。油断しちゃダメよ?」
「わかってる」
俺はジュリアにそう返し、リビングを出る。家を出る前に愛の部屋に行く。
「愛、入るぞ」
返事を待たずして愛の部屋に入る、まぁ返事なんて帰ってこないんだけどね。
愛は電気の消えた部屋でPC画面から目を離さない。
正直俺には愛が何してるのか理解は出来ない、出来ないが愛は俺たちのために金を稼いでいる。
「愛、行ってくるよ」
「ん、うん。」
回転する椅子に膝を抱える様に座っている愛がくるりとこちらを向く。
「ん、がんばれ」
こちらを向いた愛の額に口づけをする。
これは儀式であり、誓いだ。
愛は去年から俺にこう言いつけた。
「ひーろ、お前明日から夜の街に出ろ、
困ってる人いたら助けろこれは命令だ、うん。」
「反論は?」
「させない、うん。」
こうなると俺は逆らえない。
しかも久々の命令だ、愛は滅多なことで俺に命令してこない。俺に必要なことしか愛は俺にさせない。今回ばかりは俺のためになるかは定かではなかったが、俺に拒否権はないし拒否する気もない。
「わかった。どの程度の人助けすればいいんだ?」
「全部だ、うん。」
「・・・は?全部って、全部?」
「二度は言わない、うん。」
いや、全部て無理だろ。いくらなんでも無茶振りが過ぎる。困っている人なんてごまんといるだろ・・・。しかし愛が一度口に出したことは覆らない、俺に拒否権はないのだ。
「わかった。手段方法は?」
「問わない、うん。」
であれば、割りかし楽になる。
今のは遠回しに最悪殺めてもいいとの意味合いを含んでいる。
「ひーろ、お前が程度を見て判断しろ、うん。」
「了解」
「誓いの証を毎晩家を出る前にここにしろ、うん」
と自らの額を指差しながら言う愛。
「わかった」
拒否権のない俺は頷くだけだった。
家を出る、さて今晩はどうしたもんかね。
ナリ君ヤマさん一件依頼、それっぽい人助けはしていない。道を教えたりだとか、落とし物を届けてあげるだとか、ボランティアかよって感じの事しか現状出来ていない。
取り敢えず街に来てみたが、この時間帯はやはりイケイケとかキャッチだったり社畜だったり。
(んー、なんか起きねぇかな)
平和平和も超平和。
ただブラブラと街を歩く。意識は周囲に向けつつ、目的もなくただぶらつく。すれ違う人たちには何かしらの目的があるのだろう、しかし俺には現状ない。街のネオンのせいで満足に月も顔を出したがらない。
ふと前方から見覚えのある3人組が・・・
(あ、これ面倒なやつ・・・)
時すでに遅く、
「おう、こないだの壁上り」
「あ、どもっす」
ヤマさんだ。不自然に逃げるよりはいいかと思い、俺はヤマさんに挨拶をする。ちなみに金魚の糞2人もちゃんといる。
すると、
「なぁなぁ、あの壁上りどうやったンだ?良かったら俺にも教えてくれよ!」
糞Aが興奮気味にぐいぐいと俺に詰め寄る。
なんだこいつ、この間までは俺を殺さんばかりの勢いで追っかけてきてたのに、とは思ったもののこれもある種の人助けか?と思い直し、
「はぁ、あれはそうですね。跳躍力を鍛えれば誰にでもできますよ」
「ナニ!?それ、ま?」
「ま」
ま?って何だよ。
「壁上り、名前は?」
「あ、皆野です」
「皆野か」
ヤマさんに名前を聞かれて思わず答えてしまった。咄嗟のことだったが、まぁ最悪なんかあれば処分すればいいか。
「こないだの壁上り気に入ったぞ、それにナリの連れも2人を1人でシめたらしいじゃねェか。」
「いや、ナリ君の連れ2人すっげぇ弱かったんですよね・・・あんなのに負ける方がどうかしてるかと・・・」
「ギャハハッ!言うねェ!
ンま確かに、あのヒョロっこいの2人程度に負けてるくらいなら壁上りなンざぁ無理よな」
そう言いながら俺と肩を組む糞A、結構馴れ馴れしいやつなんだな、とか適当に思っておく。別段害はないので放置。
「それより、何してんだこんな時間に。そういえば前回もこのくらいの時間だったな」
とヤマさんに問われ、
「あー、えーっと何と言いますか・・・困ってる人いないかなぁーとか思って適当にブラブラ歩いてました」
これに関しても隠す必要性も感じなかったし、愛にも隠せとは言われていないので素直に答えた。
「なんだなんだ、人助けが趣味なのか皆野は」
「超ウケるっすね!」
「確かに」
ヤマさんたちにウケたみたいだ。いや別に面白くもなんともないでしょうに。Aに続きBまでもが乗ってきた。
「俺はお前が割と気に入った。困った事があったら連絡しろ。おい、皆野に俺の番号教えとけ」
「っす」
なんか知らんがヤマさんの番号をゲットしてしまった。いや、別に欲しくないけどね・・・
「なんかあったら連絡しろ。んじゃあな。」
「まったな〜」
そう言ってヤマさんと愉快なABは夜の街へと歩いていった。まぁ、人手が欲しい時にでも適当に頼むか。その後はブラブラと街を歩いてまわったが大した事もなく、俺は帰宅した。
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