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2.ヒーローは割と身近に潜んでいる。②

2.


ドドドドッー

バババッ

ダッダッダッー。

パンっ!パンっ!パンっ!


ジープや戦車の走る音、銃声や軍隊の足音

に掻き消される人々の悲鳴や叫び声。


ボロボロの小さな服を身に纏い、体に見合わない銃を握るソレは周りの音にも状況にも目もくれない。ただただ、空虚な目で前を見る。瞳に光は無い。その瞳に映るのは周りの景色だけ。

歩く、歩く、歩く。ただひたすらに歩く。

道中血の匂いや、皮膚の焼ける匂い、転がる空薬莢、崩れ落ちた瓦礫の山、ピクリとも動かないヒトであった何か。それらに興味も持たず、ただ感じるのは熱。肌が焼けるような熱さだがソレはなにも感じない。

歩く、撃つ、殺す、歩く、撃つ、殺す。

ひたすらそれの繰り返し。

立ちはだかるモノは全て敵。

なにも思わないし感じない。

ただひたすらに殺すだけ。







「それじゃあ次、皆野君。自己紹介して」


ふと名前を呼ばれボーッとしていた意識を覚ます。入学式当日、式も終わり自分の教室へと案内され担任の長々とした話を聞き流していると自己紹介が始まっていた。


「えっと、皆野・・・です。よろしく」


簡素に、簡潔に、完結。

拍手もなく、次の生徒が自己紹介をし始める。その自己紹介を聞かずして、俺はまた周囲の音を聞き流し始める。


「はーいじゃあ最後に私が!1年間このクラスの担任を(つと)めます、東雲(しののめ) 信乃乃(しのの)です。しのちゃんとかしののんって呼んでねっ」


寒っ!良い年してしののん・・・

いや、年齢は知らないが普通に考えても20半ばは行ってる筈だ。

(それでしののんって・・・)

思わず身震い。

今年一寒かった気がした。


「はーいそれじゃあ自己紹介も終わった事だし、かるーく明日からの大まかな流れを説明して今日は終わりにしまーす」


そこからはしののんの説明が始まる。俺はそれを聞き流す。正直そこまで必要ないからだ。俺がこの学園に入学した理由は勉学の為でも社交的理由でもなく、他にある。


この学園はこの国の大手財閥や議会委員の子息達、どこかのご令嬢といった金持ちの集まる学園である。場違いな俺がここに入れられた経緯だが、それは(あい)にある。



皆野(みなの) (あい)、俺とジュリア以外の他人にほぼ興味を示さないほどの無頓着な俺の親代わり。とある国で少年兵として奴隷のように使われていた俺を拾って育ててくれた幼女(幼女って言うとキレる)。銀髪ポニテ碧眼で俺の胸あたりに頭が来るくらいのチビ。

いつも白衣着てる、裸に。しかも白衣が大きいから基本引きずって歩いてる。

おかしいよな?これ。

その側仕えで俺に戦闘を仕込んでくれた女性皆野ジュリアこちらは綺麗な長髪ブロンド碧眼の優しげな女性で身長は俺と同じくらい。でも戦闘になると割と人格破綻する。

怖い。あっ、トラウマが・・・割愛。


んで、愛が


「ひーろお前学園行け、うん。もう行く先も決めてある。決定事項だから、うん。

反論は聞かない、うん」


とのこと、横暴すぎる。

ジュリアはニコニコ微笑んでいるだけ。


まぁ逆らえないという理由で俺はこの学園に入学させられた。させられた、ここ重要。




ふと視線を感じた。

俺の一列後ろの右3つ奥あたり。

ビンゴ

黒い長髪の女子生徒がこっちを見ている。気がするではなく、見ている。わかる視線を感じるからね。

でも俺は振り向かない、真面目にしののんの話聞いてるから。


「はいじゃあ今日はおしまーい。今日は先生がするけど、明日から席順で日直まわして、日直が号令するようにね!」


起立!気をつけぇー!敬礼!


あ、間違えた。


「皆野くん、それ敬礼だからね」

「すみません。」


つい癖で敬礼してしまった・・・

軍にいた頃の習慣が抜けていないのも割と考えものだな、とか変なことを考えつつ鞄を持って教室を後にした。


サクッと帰る。

昼は大人しく過ごしとけって愛に言われたから真っ直ぐ帰ることにした。なんだかんだで愛には逆らえない、すぐ拗ねるし。

俺は学園を出て帰宅、道中は周囲への意識をシャットアウト。

そうでもしないと、何かしら体が動いてしまう気がしたからだ。

シャットアウトしても尾行などにはすぐ気がつく。俺の30メートル後方の電信柱に多分先日深夜に助けたと思われる女の子が付いてきている。てか、同じクラスかよ。あの時点で制服を着ていた意味もわからんが・・・

上級生かと思って普通に助けてしまったのが後の祭り。しっかりと顔を見られていたようで、多分向こうも俺に気が付いて後をつけてきているのだと思う。いや、気が付いたからって尾行とかしちゃダメよ?

(さて、どうするかな・・・)

いや、選択肢は1つなんですけどね。

▶︎撒く

よし、撒こう!撒いてさっさと家に帰ろう。(いと)しの(あい)とジュリアが首を長くして俺を待っているはずだ!


即座に実行。

歩いていた道路を右に曲がる。曲がった先で全力疾走した。訓練を受けている俺についてこれるとは思えないのでこれで撒けるだろう。

数分疾走した後に、後方確認。後方良し!

あとはゆっくり歩いて帰ろう、無駄に走って気力を消耗した俺はトボトボと歩いて帰宅した。



「ただいま、愛、ジュリア」

「帰ったかおかえり、うん。」

「はい、おかえりなさい。緋色ちゃん」


ごくありふれた一軒家、

ではなく高層マンションの最上階。景色はいいがエントランスまでの往復がすごく面倒。

愛は家からほぼ出ない、金を稼いではいるみたいだ。じゃなきゃこんな高そうなマンションに住めるわけないしな。

ジュリアは愛の身の周りの世話と護衛。この国ではそこまで護衛は必要ないらしく、普通の主婦らしく家事してる。あと愛弄り。


「学園どうだった、楽しかったか?うん。」

「んや、初日だし顔合わせ感半端なかったよ。あと俺浮いてたな。担任もキャラ濃いし」

「ふふっ楽しかったのね。よしよし」


愛は言葉の最後に自己完結するみたいに、うん。って言う。他人の意見はほぼ聞かない、ジュリアと時々俺の言葉に耳を貸すくらいで他の人が話しかけても多分無視する。

ジュリアは逆に世話焼きが好きなのか、愛と俺をよく撫でる。俺も昔からずっと撫でられてきたから今更拒否したりしない。ジュリアには好きにさせておくに限る。


「んで、結局俺なんであそこに入れられたの?」


素朴な疑問、これは未だに教えられていない。


「ん?てきとー、うん。」


おい、適当で俺の人生弄(もてあそ)ぶな。と反論したかったが多分無駄なので、あっそと返した。


「緋色ちゃん、ご飯食べた?食べてないなら何か作ろうか?」

「うん、お腹すいた」


ジュリアが俺を気遣ってくれる、いい女だわジュリア。将来いい嫁さんになるとわかる。まぁ貰い手があるのかは定かではない。

ジュリアは台所へ、愛はリビングのソファにぐでーっと座ってテレビを眺めながら棒キャンデーを咥えている。

俺は愛の隣に座り、


「何見てんの」

「なんか、うん。」


とだけ答えて、愛は俺の膝に寝転がってきた。可愛い奴め。

俺は愛の頭を撫でながら一緒にテレビを眺める。どこかの国の動物の映像が垂れ流されているだけだった。何が面白いんだよ・・・とか思ってたら案外見ハマってたみたいで、


「緋色ちゃん、ご飯できたよ」

「あ、はーい」


スッと立ち上がる。愛の頭がソファにストンっと落ちた。むくっと起き上がってこちらを睨んでくるが空腹優先の俺は無視した。

ステテテー、と愛も付いてくる。

愛の分のご飯とジュリア、あと俺。

3人で少し早めの夕食が始まった。



食事中にジュリアが、


「緋色ちゃん、今夜も出るんでしょ?」

「うん、一応そのつもり」

「そう、あんまり遅くならないようにね」

「はーい」


と短い会話の後3人とも黙々と食事を摂る。


食後のコーヒーを啜りまったりタイムを楽しむ。前まではこんな時間取れなかったので、今考えると贅沢だなぁとか感慨深くなる。

愛はスクっと立ち上がると、自室に篭った。多分何かしら仕事をしているのだと思う。内容は知らないよう。


「ジュリア、手伝うよ」

「あら、ありがと」


ジュリアが台所で先程の皿洗いをしていたので俺はジュリアを手伝った。

皿洗いのち、ジュリアと一緒にソファでテレビを眺める。ジュリアはこの国のバラエティが好きみたいで、よく見ている。

隣に座るジュリアの膝に先ほどの愛の様に頭を乗せる。


「ふふっ、どうしたの?」

「んーん、別になんとなく」

「そう」


ジュリアのふとももは心地よかった、ついついウトウトしてしまう。

ジュリアは俺の頭を愛おしそうにゆっくりと撫でながら、テレビを見ている。

俺がウトウトしているのに気が付いたのか、


「眠いなら少しだけ寝たら?あとで起こすわ」

「ん、じゃあ甘える」

「ふふっ、おやすみ」


ジュリアのおやすみの言葉を最後に俺は意識を手放した。



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