1.ヒーローは割と身近に潜んでいる。
1.
誰しもが皆、幼い頃に一度は憧れなりたいと望みそして、歳月を重ね諦めただろう。
そう「ヒーロー」に。
俺にも憧れていた時期がありました、今思うと昔の自分に喝を入れてやりたいです。
憧れるもんじゃない、ヒーローに。
「待てコラァ!」
「待たんかいこの野郎!!」
「生きて帰れると思うなよォ!!」
時間は深夜、本来日中の時間帯であればガヤガヤと人の多い大通りも深夜となれば人もまばらに、イケイケ男子女子やガールズバーのキャッチのお兄さん、会社帰りの社畜さんなどが歩いているくらいだ。
俺に至っては後ろに強面の屈強そうな男3人を引き連れて全速力で走っている。
別にドラ◯エみたく仲間として引き連れているわけではない。むしろこちらから願い下げである。
「待てと言われて、ハイ待ちます。なんて人間がいるかっての!いい加減しつこいよお兄さん達!」
無駄と知りつつ一応抗議はしてみたものの、後ろをついてくるパーティーは諦めて帰る様子もない。
仲間にしますか?
▶︎いいえ
いいえ
こんな選択肢で遊ぶほどには迷惑している。
俺は駆け抜けていた大通りから、ゴミが散乱している路地裏へと入り込む。
(馬鹿正直に3人に囲まれるのなんて御免だからな!)
そこは人ひとりが縦向きに通れるくらいの幅で、強面の屈強なお兄さん達には少し通り辛いだろうと判断しての選択だった。しかし、
「オラァ!逃げ回るのも大概にせェや!」
「こんな路地裏に逃げたところで、撒けると思うなよォ!」
「待たんかいワレェ!」
(あ、通れちゃうんだ・・・くそっ、どうするか)
服をずりずりとビルとビルに挟まり擦りながらも、俺を追ってくる。
「も〜、本当にしつこいって!しつこい男は嫌われるよ!」
嫌悪感をあらわに後ろに向かってそう叫ぶ。
事の発端は数十分前
3月某日 AM0:30
俺はいつものように街を歩いていた。こんな時間にいつものようにって言うのもおかしな話だが。
ふと夜空を見上げる、そこには満天のお月様が・・・無かった。
(今夜は新月か・・・)
月が見えない分星はくっきりはっきりと見えていた。春の星座に関してはよくわからないが、プラネタリウムで見るような綺麗な星々が俺を見下ろしている。
俺はあげていた顔を前に向け、進行方向の地面を見ながら歩きつつも周囲に意識を向ける。
「でね〜カレピがさぁ〜」
「マジ〜?ウケる(笑)」
とか
「お兄さんお兄さん、今日はこのお店でどう?お安くしとくよー?」
「やー、どーするー?」
などと言った会話が聞こえてくる。
そういった雑踏の中で場違いな空気を見つけた。
「ねぇねぇ君ィ〜、俺らとイイ事しない?」
「そうそう、ちゃ〜んとミンナで楽しめるようにするからさぁ」
制服を着た長い黒髪の女の子が茶髪のイケイケ男子たちに囲まれていた。その制服には見覚えがあった。というより、俺が4月から通う学園の制服だった。
「いえ、間に合っていますのでお引き取りいただけないでしょうか、早急に。」
女の子は物怖じした様子もなく、茶髪イケイケ男子たちにお断りを入れる。しかし流石はイケイケ男子諸君といったところか、
「イイじゃん、ね?絶対楽しいからさ」
「そうそう、退屈させないよ?」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みで女の子に詰め寄っている。女の子は明らかに不快感で顔を歪めているのにそれを無視して女の子の腕を掴む。周囲を行く人たちは我関せず。まぁ実際そんな場面に立ち合えば誰しも面倒ごとは避けるために、口出ししないだろう。
「あの、お耳が悪いのでしょうか?私は間に合っていると申し上げております。それと、その汚い手を早急に離していただけませんか?気持ち悪いので」
ピシッー、と空気が凍る様な音が聞こえた気がした。ニヤニヤとしていたイケイケ男子諸君の口元がヒクヒクとしている。笑いながらも何かを堪えている様子だ。
(あー、これやばいやつかな)
あれは知っている、そうキレる5秒前ってやつ。
「君かわいいからってあんまし調子乗ってると痛い目みるよ?」
「今のはちょっとピキッちゃったなぁ。ただで返すと思うなよ?」
あぁ、ほらあと3秒くらいでキレ
「痛々しいのは貴方がたですし、勝手に頭に血が上ったからといって私のせいにしないでほしいのだけれど」
トドメのクリティカルアタック!
きゅうしょにあたった、こうかはばつぐんだ!
「んだと?もう許してやんねーからァ」
「あーあ、ナリ君キレちゃったよ〜これもう俺ら知らねーからな」
女の子に詰め寄るイケイケ男子筆頭らしき男。黒髪の女の子は態度を崩さず、気丈に振る舞っているように見える。しかし、少し怯えも見て取れる。そう、少しだけ震えているのだ。
「あーあ。ナリ君が脅すから女の子震えちゃってるじゃん」
「それな!」
「ギャハハ!こりゃもうダメだな」
「さぁーて、ちょっと来てもらおうか?」
「「「・・・オメェ誰だよ」」」
こっそりと近寄って喋った俺に向かってイケイケ男子諸君が声を揃えていう。凄い息ぴったりだね!
「なに?女の子困ってるからって助けに来ちゃった?」
「そのつもりではあるが、君らが助けるという表現を使うと自然と俺ヒーローになっちゃって君らやられ役だよ?」
「ギャハハ!俺ら何人いると思ってんだよ!」
「うん、雑魚が3人だね」
途端、イケイケ男子諸君らの顔が真っ赤に。
だから俺はさらに追い討ちをかける。
「雑魚が何人束になっても俺には勝てない。とか言った方がいいか?」
んだオラァ!とかなんとか叫びながらイケイケ男子諸君らがおそいかかってきた!
まず1人目、明らかに喧嘩慣れしていない風貌で、まぁおそらくナリ君とかいうやつの金魚の糞。ヒョロイパンチが俺の顔面へと飛んでくるが俺は首を傾げる様に倒し、ヒョロパンチを躱す。パンチの勢いでずっこけそうになる金魚の糞君。え、ちゃんと鍛えないとダメだよ・・・
パンチを躱し、すれ違いざまに鳩尾パンチをお見舞いした。
ぐおぉぉーとかいいながら倒れていく金魚の糞君。え?一発で沈むのは想定外!
「テメッ、舐めた真似しやがって!」
続いて2人目、こちらは少しだけ喧嘩慣れしているのかしていないのか分からないが俺の胸倉を掴んできた。そのまま顔面パンチ!
もう顔面狙うの好きね君ら。
1人目と同じように首を傾げるようにして躱した、流れでそのまま背負い投げ。
受け身など取らせるはずもなく、そのまま背中からアスファルトにダイブした。
(おー、痛そ)
アガぁッ!
背中を打ち付けた2人目は肺から空気が漏れ、そのまま頭を打ちつけたのか気絶した。
「さっ、2人寝ちゃったけど・・・君はどーすんの、ナリ君?だっけ」
両手を上着のポケットに突っ込み、威圧するように一歩ずつゆっくりとナリ君に近づいていく。
「ま、待て!も、もうその女の子には関わらないから、な?それで許してくれよ」
ジリジリと俺と距離を保ち俺に詰められないように後ろ向きに引いていくナリ君。顔は引き攣り、化物を見るかのような表情で。傷つくなぁ・・・
すると、後ろ向きにジリジリと逃げていたナリ君がドンッと背後にいた人にぶつかる。
振り返りざまに、
「痛ぇな!どこ見て歩いて・・・あっ、ややや、ヤマさん!?すすす、すみませんっ」
と、ヘコヘコし始めるナリ君。
どこ見て歩いてって、そりゃ君が後ろ向きに歩いてるのなんて他の歩行者は分からないから、普通に考えたら君が謝るのが筋だよナリ君。
ナリ君がぶつかった相手は強面の屈強そうな男3人組だった。
「おう、ナリ。どうした元気か?」
「あっ、はいお陰様で・・・、ッ!
ききき、聞いてくださいよヤマさん!こいつ、この野郎が俺らに因縁つけて俺のダチ2人のしちまったんですよ!」
おいナリ君テメェ!卑怯だぞ!そんな筋骨隆々な仲間がいたなんて!
「あぁん?このヒョロっこいのがか?」
ギロリと効果音のつきそうな目つきのヤマさんと呼ばれた3人組のリーダー格の男。見るからにヤバそうなオーラを纏っている。流石にこんなの3人も相手にしてたら疲れるなぁとか考えていると、
「おいそこの。うちのモンが世話になったらしいな?どう落とし前つけるつもりだ?」
「あ、いや。そこのナリ君がですね、僕の彼女に手を出していたのでちょっとお話し合いをですね・・・」
咄嗟に嘘を吐く。相手にしなくていいなら相手にしたくないしな!
「だとよ、ナリ。こいつの言ってる事は本当か?」
「いや、そそそそんな事する筈ないっスよ!そいつがイチャモンつけて俺らに手を出してきたんンすよ!」
と、ナリ君さらりと嘘を吐く。おま、ちょそれは卑怯だろ!なに嘘付いてんだよ!自分のことは棚に上げ、そんなことを思う。
「と、言う訳だ。ナリが嘘を吐く理由はネェからな。あんさん、ちっとばかし来てもらおうか?」
3人組が俺に詰め寄ってくる。ここで騒ぎを起こすのもアレだしなぁ。既に2人のしてしまっている以上今更感は否めないが。
俺はクルリと振り返り、そこにいた女の子にこう言った。
「んじゃ、気をつけて帰るんだよ。僕は少しばかり用事を思い出してしまってね!
ハハハ・・・ッ」
標的は俺みたいなのでおそらく女の子は無事に帰宅してくれるだろうと願って俺はそう言い残し、その場から脱兎の如く逃げ出した!
そうして今に至る。
(はぁー・・・どうしたものか)
思考を巡らせながらも逃げる足は休めない。なぜなら後ろから怖いおにぃさんがたが追いかけてきているから。
そうして右行ったり、左行ったりと路地裏を逃げ続けること数分、行き止まりだった。
「あ〜、マジか。だりぃ・・・」
目の前には5メートルはある大きなコンクリブロックの壁。どこで道を間違えたんだろうか・・・などと考えていると後ろから、
「残念だったなァ、あんさんよ。もう逃げ場はないぞ。観念するこったナァ!!」
ヤマさんの金魚の糞が愉悦に浸るかのようにニタニタと笑いながら近寄ってくる。ここはアレだな、
「よ、寄るなッ!それ以上寄ると・・・」
とか言ってみる。
「ギャハハ!もう終わったヨ君。」
「中々根性あったが、まぁナリの友人を締めた落とし前ここでつけてもらうぞ」
んー、あんまり疲れることはしたくないんだけどなぁ・・・あ、そうだ。
「あの〜、正直僕は疲れることが嫌なので出来れば穏便に済ませたいのですが・・・そこで1つ提案をいいですか?」
「なんだ、この期に及んでまだ足掻くのか?」
「いえいえ、僕としてはナリ君たちに用があっただけで、あなた方には用が無かったんですよ元々」
そこで提案を持ちかける。向こうとしてもなにもしていない一般人を殴るのは気が引けるのではないだろうか・・・いや、そんな事ないかもな。
「なんだ?聞くだけ聞いてやる」
「ありがとうございます。実は僕ですね壁登りが得意でして、そのこのコンクリブロックを登って逃げ切れば今夜の事は無かったことにしていただけないかなぁーとか、考えてたりしてですね・・・」
普通に考えれば、俺みたいなヒョロっぽく見えるやつが5メートルもある壁を登れるなんて考えもつかないだろう。だからこそのその提案。無理難題に見せかけた、提案だったりする。ハッキリ言って、5メートルくらいなら楽勝である。
「お前みたいなヒョロイのが、この壁を?ギャハハっ、無理無理やめとけやめとけ、ンデ俺らに絞められとけ」
金魚の糞がケタケタと笑いながら言う。
ヤマさんは、
「お前がこの壁を?無理だろ」
「あはは・・・そう思いますよね。であればこの提案に乗っていただけると嬉しいんですけど・・・」
明らかに馬鹿にされているが、これを飲んでくれれば穏便に解決することができる。俺としても俺自身に危害を加えていない相手に危害を加える気はない。あくまで平和的解決が目的である。
「はっはっは、そこまで言うならいいだろう。俺としても俺に害があってあんさんに手を出している訳ではないからな。面白い、やってみせろ」
よし、言質をとった。
ヤマさんの後ろに控えている糞たちもニヤニヤとこちらを眺めているだけ。であれば俺がやることは1つ。
「では、お言葉に甘えて。」
俺はクルリと反転、その場でトントンと軽くジャンプし、
「それでは、さようなら」
ニコリと後ろに向かって笑うと、勢いをつけて壁に向かって走り始める。
ほんの数メートルの助走、まず壁際右側にあるゴミ箱に左足で踏み込み右足だけで飛び乗りその勢いのまま左側の壁まで跳ね、左側の壁を蹴りその勢いのまま壁上の縁に手を掛ける、あとは懸垂の要領で壁の縁に立つ。
「マジかよ・・・この壁を登ったのかアイツ」
「おい、お前できるか?」
「いや、無理っス。」
などとヤマさんたちは驚いている。
「それじゃ約束通り、さようなら」
俺はそのまま反対側の地面へ跳んだ。
着地時に少しだけ足が痺れたが問題なく歩ける。
そのまま夜の帳へと歩いていった。
適当に書き始めました。
だらだらと書いていきます。