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偽悪の流星  作者: 九稲
天の声を聴け
5/5

第五天『ヒト成らざるモノ』



「…貴方達2人を川で拾ってからぁ、もう3年も経ってしまいましたぁ」

純恋(すみれ)さん…?」

「憎しみに心をとらわれず、今日まで生きてくれた貴方達にぃ…話さなければいけないことがありますぅ」



真剣な眼差しを真っ直ぐこちらに向ける純恋(すみれ)さんはゆっくりと息を吐くと、俺と白天(はくてん)の手を握った。

繋がれた手から伝わる体温に安心しながらも、どこか不安が心を渦巻いて止まない。



白天(はくてん)

「はい」

黒天(こくてん)

「ああ」


「貴方達は…あの日。両親を目の前で殺され、崖から落ちたあの日―――…」











「『天狗』に、なりました」












火の弾ける音が止まない。

耳鳴りが、心音が、ぐるぐると巡って…スッと落ち着いた。





「…知っていました。いえ、『天狗』というモノになったというのは判りませんでしたけど…自分が、黒天(こくてん)()()()()()()()()ことは、あの日から薄々…」

「俺もだ。まさか人ですら無くなっていたとは思わなかったが」



そう、気付いてはいたんだ。

崖から落ちたあの瞬間から。





そもそも、今俺たちが生きていることがおかしいのだ。

例え川に落ちたとしても、あの高さから落ちれば助からない。()()()()()()()()()()()()


それでも生きている。大した怪我もなく、ただ全身の痛みだけを残して…俺たちは生きてしまった。


崖から落ちて生き延びるなどヒトであったら不可能なはずのその奇跡を俺たちは起こしてしまった。

自分を…自分たちの体を()()()()()()()()()()()






「…そうですかぁ、気付いていましたかぁ」



俺たちの言葉を聞いても純恋(すみれ)さんは驚かなかった。多分純恋(すみれ)さんも俺たちが気付いていることを感じ取っていたんだろう。

少し目を伏せた純恋(すみれ)さんの頬に火に照らされて影が落ちた。



「あの日、貴方達の心は憎しみに押しつぶされそうでぇ…それを小さな体で懸命に守っていましたぁ。

あと少しの絶望で『堕星(おちぼし)』になってしまいそうなほどギリギリのところにいたんですよぉ。


両親を思い涙を流す貴方達を見てぇ…私は決めたんですぅ。

貴方達が憎しみで心を壊さないよう…『堕星(おちぼし)』になってしまわないよう、私が守るとぉ…。


そして、貴方達が立ち直った暁にはぁ、『流星(ながるぼし)』になれるよう後押しするとぉ。」



「…純恋(すみれ)さんは、天狗なんですか?」




日の落ちた山は暗い。

灯りとなる火が隙間風に吹かれてゆらりと揺れて俺たちの顔を柔らかく照らした。

その灯りを瞳に映し、純恋(すみれ)さんは1つ瞬きをする。

その表情はいつもの優しげな雰囲気を破り、どこか神々しかった。





「改めて自己紹介をしましょうぅ…。



私は暁明(きょうめい) 純恋(すみれ)

憎しみから天狗と相成り、愛を知って守神(まもりがみ)へと至った…『流星(ながるぼし)』。」








静かに告げる純恋(すみれ)さんの声に連動するように、山の木々が風にさらわれ騒めく。










星名(ほしのな)を―――…『木ノ恵(このえ)』」






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