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偽悪の流星  作者: 九稲
天の声を聴け
4/5

第四天『天狗』


泣き疲れて眠る双子の兄弟の頬を、暁明(きょうめい)は優しく撫でる。

憎しみに心を押し潰されそうになりながらも、懸命に耐える小さな子供達。

それでもその強い憎しみ(おもい)は彼等をヒト成らざるモノへと変えてしまっていた。



「…まさか、こんなに小さな『天狗』が川を流れてくるなんてぇ…」



痛々しいまでに疲弊した彼等の心を思い、暁明(きょうめい)は苦しげに眉を寄せた。

意識を暗闇へと落としながらも尚涙を流す2人がこれ以上傷つかないように。


「どうか、憎しみに呑まれないでぇ…君達が『堕星(おちぼし)』にならないように、私がぁ…」



どうか、憎しみのまま道を外さないよう。



「私が、守ってあげますからねぇ…」

























その日から、俺たちは純恋(すみれ)さんの拾われ子になった。

疲弊しきった心と体を回復させるためと純恋(すみれ)さんに散々連れ回され、振り回され、少しずつ活力を取り戻していった。

3年も経てば、俺たちは心の整理をつけ立ち直ることができた。




純恋(すみれ)さん、そろそろ冬になります。冬支度をしなくちゃいけませんよ」

「あらぁ、それでは熊でも狩にいきましょうかぁ?」

「…じゃあ今日は熊鍋だな」

「うふふ、黒天(こくてん)のご飯は美味しいですから楽しみですねぇ」

「残念、今日は兄上が飯当番だ」

「私よりも黒天(こくてん)のほうが料理は上手なんですけどね」

「あらあらぁ、白天(はくてん)のご飯も美味しいですよぉ?」

「ふふ、頑張りますね」

「熊を捌くぐらいなら手伝うぞ、兄上」

「ありがとう黒天(こくてん)

「中良きことは美しきかな、ですねぇ」




俺たちの会話を純恋(すみれ)さんは優しく笑いながら聞いていた。

嬉しそうに目を細め、大分冷たくなった風が純恋(すみれ)さんの綺麗な藍色の髪を靡かせる。




「…そろそろ、話さなければいけませんよねぇ…」




ポツリと呟いたその言葉は、風にさらわれて俺たちの耳へは届かなかった。





















「貴方達は『天狗』を知っていますかぁ?」



その夜告げられた言葉に、俺たちは揃って首を傾げる。



「…天狗?なんですか、それは?」

「聞いたことはない…と思う」



首尾よく冬眠前で動きが鈍い熊を仕留め、美味しい熊鍋へと生まれ変わった鍋の中をつつきながら、純恋(すみれ)さんはゆっくりと話しだす。


家の中にパチパチと火の弾ける音が響いて、その音がはっきり聞こえるくらいには小さな声だった。





「『天狗』とはぁ、『ヒトであったもの』そして、何よりも強い憎しみ(おもい)により『ヒト成らざるモノ』へと変化した者のことを指しますぅ」


小さな声はどこまでも耳奥へと響く。


「ヒト成らざる、モノ…ですか?」

「それは(あやかし)と言うことか?」


俺の問いかけに純恋(すみれ)さんは静かに首を横に振り、真っ直ぐに俺たちを見つめた。



黒天(こくてん)の問いはぁ、正解であり不正解ですぅ。

『天狗』は善悪によってぇ、その存在を変化させますぅ。


心が善に傾けば『守神(まもりがみ)』になりぃ、悪に傾けば『(あやかし)』になるぅ…私達は守神(まもりがみ)に至った者を『流星(ながるぼし)』と呼びぃ、(あやかし)へと堕ちた者を『堕星(おちぼし)』と呼んでいますぅ。


天狗へと変化した者は人離れした力…『神通力』を手に入れますぅ。

元が強い憎しみ(おもい)から変化したものですからぁ…強い力を手に入れた者はぁ、悪へと堕ちやすくなりますぅ」


「堕ちた天狗はどうなるんですか?」


「ただ憎しみのままに…ヒトを殺すだけの存在となりますぅ」

「っ、」

「ヒトへの憎しみだけを原動力にぃ、殺戮を繰り返すぅ…そんな哀しい(あやかし)へと堕ちていくのですぅ」

「…救えないのか?」


憎しみに囚われ続けるなど哀しすぎる。

そんな思いが湧いて純恋(すみれ)さんを見ると、藍色の瞳が悲しみに濡れて、少しだけ眉を寄せながらそれでもハッキリと言った。







「救いは死あるのみ」







パチンと弾ける火の音が響く。










堕星(おちぼし)になった者に待ち受けるのはぁ、憎しみに身を焦がし続ける未来だけぇ…。

だからこそ私達流星(ながるぼし)はぁ、そんな哀しみを断ち切るために堕星(おちぼし)を殺すのですぅ」



徐々に小さくなっていく火に薪をくべると、また小さくパチリと火が弾けた。

その音を聞きながらも純恋(すみれ)さんの言葉を頭で繰り返していると、1つの言葉に引っ掛かった。

それは白天(はくてん)も同じだったようで、俺よりも先に不可解そうに眉根を寄せて口を開いた。




「…()()?」



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