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空想ひとり旅  作者: 磁石
4/75

3日目 高千穂・宮崎市内(宮崎県)

日本一周に挑戦しました。

※行ってません


【概要】

宮崎を満喫

【行った場所】

天岩戸神社

天安河原

宮崎市内


———————


 目が覚めると、頭の上に昨日の破れ饅頭が頭の上に転がっていた。何事もなかったかのように右手に握っていた分だけはそのまま食べてから起き上がり、朝食へと向かった。

 朝食はこの地方で有名な釜揚げうどんのお店のうどんがバイキングの中にあったのでそれを食べ、バスの中で残りの饅頭を食べた。今日の目的地は、高千穂にある天岩戸神社である。


【神様でも姉はつらいよ】


 アマテラスはイザナギの左目から生まれた。イザナギが死んだ妻のイザナミに会いに黄泉の国へ行った帰り、彼が左目を洗うと、そこからぽろっと生まれたのだ。

 アマテラスには同じ時に生まれた二人の兄弟がいた。性別不明の真ん中っ子のツクヨミと、気ままな末っ子のスサノオだ。ツクヨミとは上手くやっていたのだが、スサノオは暴れん坊で、アマテラスに何度もいたずらをしかけてくる絶賛反抗期の弟だった。

最初は笑顔を見せて我慢していたアマテラスも、ある日、ついに堪忍袋の尾が切れた。

「もういや!」

 そう言って天岩戸と呼ばれる洞窟に隠れてしまったのだ。

 アマテラスは太陽を司る神なので、彼女が隠れた瞬間から、世界は真っ暗な闇に包まれた。光のない世界では食物が育たず、多くの人が病に倒れた。しかし彼女は出てこない。何とかして洞窟から出てもらわなければと、様々な神が集まって会議を始めた。

「どうやって出てきていただこうか?」

 力自慢のアメノタヂカラオが皆に尋ねると、博識で有名なオモイカネが手を挙げた。どうやら彼には考えがあるらしい。

「アメノウズメと、アメノタヂカラオ、そなたらの力が必要じゃ」

 そばで話を聞いていた踊り子のアメノウズメは、きょとんとした表情でオモイカネを見つめた。

「そして、ここにいる全員の力が必要じゃ。外から楽しそうな声が聞こえてくれば、人は中を覗いてみたくなるものよ」


 アマテラスが洞窟の中でうずくまっていると、洞窟の外から太鼓の音が聞こえてきた。どうやら洞窟の前で誰かが踊っているらしい。大勢の手拍子も聞こえてきた。やがて太鼓の音は盛り上がり、どんどんスピードアップしていた。それに合わせて周りの声も盛り上がっていく。しかしアマテラスはなぜ盛り上がっているのかがわからなかった。最終的にはニワトリの鳴き声も聞こえてくる始末。

 私がいない闇の世界でなにをそんなに盛り上がっているのか。アマテラスは不思議で仕方がなかった。

 そしてついに、アマテラスは洞窟の外の人に呼びかけた。

「なぜそんなに盛り上がっているの?」

 アマテラスの声に、みんなは「しめた!」という表情をしたが、踊り子のアメノウズメはそっけない声で、答えた。他の者は笑い声を止めないままだ。

「あなたより貴い神様が現れたので、みんなで宴を催しているのです」

「どんな方なの?」

「今、洞窟のそばにいらっしゃいます」

 そう言ってすぐ、アメノウズメは洞窟から一歩下がった。かわりに鏡を持った神様が洞窟に近づいた。

 アマテラスが洞窟を閉ざしている岩の結界を緩めて、ちらと洞窟の外をのぞくと、そこには、それはそれは貴そうな人の顔がちらりと見えた。もっと見たいと岩を動かした瞬間、事態は急変した。

 岩の裏のアマテラスからは見えない位置に隠れていた力持ちのアメノタヂカラオが大岩をがっしと掴み、遠くへ放り投げてしまったのだ。そしてアマテラスの手をつかみ、彼女を洞窟からひっぱりだした。

 何が何だかよくわからなくて放心状態のアマテラスに手を差し伸べたのは、首謀者のオモイカネだ。

「先ほどあなたがみた貴い神は、鏡に写ったあなた自身です。あなた以上に貴く、世を統べられる方がどこにございましょうか。お願いですから、もうこのような事はおやめくださいませ」

 オモイカネの手を取り立ち上がると、遠くから弟のスサノオが走ってきた。

「姉上すみませんでした!」

 具体性のない弟の発言に若干の頼りなさは感じたが、まあ今回はいいかと、胸に飛び込んできた弟の背中を撫でた。

「みなの者、迷惑をかけてすまなかった。もう二度とこのような事はせぬと誓う」

 そう叫んだ時の喜びの声は、アメノウズメの踊りの歓声の比ではなかったそうだ。



※登場人物は全員神様ですが、親しみやすいようにかなり脚色しています。私は人間くさい神様たちが大好きです。決して神様を軽視しているわけではないので許してね


(天岩戸伝説おしまい)


 バスに揺られながら、引きこもり娘のことを考えていたら眠ってしまっていたのだろう。いつのまにか高千穂へ到着していた。観光タクシーを捕まえ、いざ天岩戸神社へ。そこへ向かう途中、棚田(*1)に立ち寄る。稲穂が実り、稲がこうべをたれていた。もうすぐ収穫だろう。棚田で出来た米は手間はかかるがとても美味しいらしい。この場所に関わる人たちを想像しながら、田園風景を眺めていた。


(*1)棚田

山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた水田。足を踏む場所に田んぼがある大きな階段と考えるとわかりやすい。それぞれの土地に合わせた特徴的な形をしているので、いろいろな形があって面白い。


【棚田の米はなぜうまい?】


 水源が近いから水が綺麗などという理由もあるらしいが、私が面白いと思ったのは、棚田が平坦な田んぼと比べて、昼夜の温度差が激しいから、という理由である。

 なぜ、昼夜の温度差が激しいと米がうまいのか。

米の一生を考えると、苗が成長して稲になり、穂を出す過程、その稲に炭水化物を送り込んで溜め込む登熟期に分かれる。

 うまい米を作るためには、登熟期にどれだけ炭水化物を構成するブドウ糖を溜め込めるかにかかっているわけだ。ブドウ糖を作るためには光合成が必要で、光合成を行うには、日光が必要。だから昼間は気温が高い方が嬉しい。一方、夜は日が出ないから光合成は行えない。なので夜間は昼間作ったブドウ糖を稲に送り込む作業をするのだが、それと同時に稲が行っている活動がある。呼吸だ。呼吸をするときはエネルギーとしてブドウ糖が必要になる。それに加え、植物の呼吸は気温が高いと活発になる性質がある。だから気温が高いと呼吸によって昼間に作ったブドウ糖を多く消費してしまうのだ。なので夜は低温の方が都合がいい。

故に、昼夜の温度差が激しいとたくさんブドウ糖をたくさんためこめるから米がうまくなる。気温に関してだけだが、厳しい環境下の方が無駄がなくなり実りが大きいという点では、人間も稲も同じなのかもしれない。


(棚田の米はうまい おしまい)


 棚田を超え、本命の天岩戸神社に到着。

 駐車場には、天岩戸をこじ開けたアメノタヂカラオの像が。岩のようなものを持ち上げて、力を誇示している姿が可愛い。

 東本宮には破れまんじゅうをぱくつきながら踊った...否、アマテラスに天岩戸を開かせた踊り子、アメノウズメがお出迎え。東本宮は、アマテラスが天岩戸から出てきて初めて降り立った所なのだそう。七本杉を眺めた後、西本宮に移動し、何人かの観光客とともに神主さんに連れられ、ついに天岩戸へ。

 あそこに引きこもってたのか。心地よいわけでもないだろうに。よほど弟にうんざりしていたのだろう。でもあなたが出てきてくれたおかげで、私たちはの太陽の恵みを受け、今も幸せに生きています。ありがとう。私も蔦屋に引きこもっていないで、外に出るよう努力します。

 神様にとっては心底どうでもいいであろう誓いを立てた後、天安河原へと移動。

 天安河原は、八百万の神がどうやってアマテラスを天岩戸から出そうかと作戦会議をした場所だ。いまにもいろんな神様がやってきそうだ。もしくは今もいるのかもしれない。なんてことを考えてしまうような場所だった。観光客によって積み上げられた石を眺めながら、川のせせらぎに耳をすませていた。

 運転手に別れを告げて、再び延岡に戻るバスへ乗り込んだ。体は重かったが、心は大満足だ。

 再び延岡に戻ってからは、延岡発祥の最も有名な食べ物、チキン南蛮を食べた。タルタルソースがめちゃくちゃうまい。さらに南蛮酢のお陰でぺろっと食べられる。これは太るなと思いながらあっという間にたいらげ、延岡に別れを告げた。

 本当はこのまま鹿児島に向かっても良かったのだが、高千穂での疲労度が全く予測できなかったので、宮崎市でホテルを取っておいたのが功を奏した。このまま鹿児島に行っていたらきっと、投げやりな気持ちのまま鹿児島観光をしていたに違いない。

 宮崎駅のそばのホテルに荷物を預けたあと、本当ならば近くの本屋に引きこもりたいところだったが、神様と約束してきたので、そのまま宮崎市へ駆り出した。

 といってもたどり着いたのは駅からすぐ近くの古本屋、の隣の自動販売機。そこはただの自動販売機ではない。クレープを販売している自販機なのだ。

 ボタンをおすと、ゴトッというかなり重たい落下音が下から聞こえた。取り出してみると、瓶の中にクレープが入っていた。形が崩れないようにという配慮からだろう。右端には瓶を入れるカゴも置いてあった。中身のクレープは程よく冷えていて、とてもおいしかった。隣にある普通の自販機でコーヒーも購入してひと心地ついたあと、古本屋に入ったのはいうまでもない。宮崎の英雄、小村寿太郎に会いに橘通りに行くことも考えたが、そこまでの元気はなかった。

 古本屋で立ち読みを済ませたあと、夕食を食べにとある場所へ向かった。ネットで調べていた時に、見た目で即座にやられたあるものを食べるためだ。その名はB級グルメ、肉巻きおにぎり。その名の通り、白米をお肉で巻いた宮崎市のソウルフードらしいが、とにかく見た目のインパクトがすごい。まるで一種の鈍器のようで、これで殴られたら幸せになれるに違いない。見た目はかなり凶悪だったが、それを醤油タレの匂いが全力でフォローしていたので、ただの美味しそうな食べ物にしか見えなかった。実際おいしかった。でも見た目通り重たいのでリピートは遠慮する。そしてチェックイン。

 流石に疲れた。

 部屋に着いた瞬間、帰りに買ってきたチーズ饅頭をベッドに投げて、そのままシャワーに直行する。頭を洗いながら明日はチェックアウトギリギリまで眠ってやると心に誓い、即座に布団に入るのだった。



4日目に続く


#日本一周 #行ってない




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