表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空想ひとり旅  作者: 磁石
3/75

2日目 臼杵石仏(大分)・延岡(宮崎)

日本一周に挑戦しました。

※行ってません


【概要】

大分から宮崎へ

【行った場所】

臼杵石仏

スタバ蔦屋書店 延岡駅


———————


 朝6時、スマホのアラーム音で目を覚ました。大きく伸びをし、出かける準備を整えてホテルの朝食バイキングへ。

 あまり食欲がなかったので、大分名物のやせうま、という平べったいものにきな粉がまぶしてある食べ物をチョイス。砂糖の甘さに加えて、ちょっと塩が入ってるのか、あまじょっぱいきなこの塩梅がちょうどよくて食が進む。しかも本体は小麦粉を練ったもののようで弾力があり、腹持ちも良さそうだ。美味い。でも食べているとき、きなこをポロポロこぼしてしまうので、家では食べたくない。

 やせうま、なんてなんと変な名前だろうと思いながら由来を調べてみると、貴族の若君が「八瀬、うま!」(訳 八瀬よ、我にまんまを寄越せ)と連呼したという話が有力なようだ。個人的には馬の主食である小麦をこの料理にしてしまったことで、その名の通り「馬が痩せてしまった」ことから「やせうま」となった説の方がシュールで好きだ。

 そんなことを調べていると、別府はもう遠い存在となり、次の目的地である臼杵市が近づいてきた。

うすきね市ではなく、うすき市と呼ばれるこの場所は、国宝である臼杵石仏を有し、大分県の国民的英雄である大友宗麟が臼杵城を建てた場所でもある。醤油づくりで有名。漁業も盛んなようで、個人的に気になったのはかぼすブリ。


【かぼすブリとは】


 冬限定で食べられる、餌の中にカボスを混ぜて育てたブリのこと。そもそもブリは締めて数日間は美味しく食べられるものの、日が経つにつれて鮮度が落ちることで変色し、魚臭さが強くなっていく。それを防いでくれるのが、かぼす。

 変色の原因である酸化を柑橘系の抗酸化作用で防ぎ、かぼすに含まれるリモネンという成分で良い匂いがするという仕組み。

 ブリが優雅にかぼすを食べて生活している生ぬるいイメージを持っていたが、なかなか理にかなっていて面白い。


(かぼすブリの説明おしまい)


 まあかぼすブリが気になっても庶民の私に食すことなど不可能なのだが、と綺麗にオチがついたところで臼杵駅に到着。ここからバスで臼杵石仏へ。

 石仏と言ったら、なんとなくナルト(*1)の先代火影の顔が岩に彫られているものをイメージしてしまう。もちろん、臼杵石仏に行ったところで、狐に取り憑かれた生意気な少年も、影を背負いたがる中学二年生も、自分がヒロインだと信じて疑わない怪力娘もいないわけだが、事実かどうかは別として、臼杵石仏に関してはなかなか興味深い話が残っている。


(*1)NARUTO

日本を代表する、超有名な忍者漫画。先代火影の顔が彫られている岩は、アメリカにあるラシュモア山国立記念公園のものを模しているのではないかと言われている。岩にも現れているように、主人公を含めた全ての人間の自己主張が激しい。忍者なのに。


※筆者はNARUTOが大好きです。


【無知ってこわい】


 桶が床に落ちる音で玉津姫は目を覚ました。

「ひ、姫さま...!」

 姫が音のした方を見ると、彼女を親身に世話してくれている女官がその場で腰を抜かしていた。桶からこぼれた水が姫の布団を濡らし、カラカラと転がっていた桶が最後にシュッと音を立てて止まる。

 異様な雰囲気を察してか、城のものが次々と姫の部屋へとやってきた。そして最初の女官と同じく、驚きと恐怖が入り混じった表情を浮かべ、その場に立ち尽くす。どうやら彼女たちは、姫の顔を特に右頬から首にかけての部分を見ているようだった。

「私の顔になにかついているのか?」

 わけのわからない十ばかりの娘は、きょとんとした顔でとりかこむ人たちを見た。

 その言葉でようやく我に返った最初の女官が姫に「少々お待ちくださいね」とだけ声をかけて桶を片手に部屋を後にした。戻ってきた女官は、水を張り直した桶(*2)を両腕で抱えている。

「心の準備ができたら、覗き込んでください」

 姫の背中を叩いた女官の手は少し震えていた。震える親しい女官の手の感触が玉津姫に恐怖を与える。彼女の助言通りにひとつ深呼吸をして、目の前に置かれた桶の中を覗き込む。

 そこには右頬から首筋にかけて、燃え上がる炎のような黒い痣が這い回る自分の姿が映っていた。


 玉津姫は醜い。

 彼女の住む街ではそれが常識となっており、他の街から来た男たちが、その噂を確かめに屋敷へ忍び込んでくるほどだった。そして彼女の痣を見て、恐怖し、また違う街へと噂を広めて行くのだ。

 それ故に、彼女の顔に痣が現れてから5年が経ち、年頃の娘になった今でも彼女に縁談の話はなく、いまだに痣に悩まされ続けていた。

 玉津姫が自由に出歩けるのは夜の間だけだった。夜は全ての人を包み込み、彼女の顔の痣も隠してくれる。彼女が自由になれるのは、夜の間だけなのだ。そして、唯一自由な時間を使って彼女は三輪明神のところへ向かい、良い縁談に恵まれ、自由になれますようにと、毎晩願をかけるのだった。

 ある秋の夜のこと。

 女官を連れての日課の願掛けが終わった後、にわか雨が降り始めた。雨をしのぐため拝殿の中で休養を取っていると、姫は急に眠気に襲われ、その場でうたた寝をしてしまった。すると夢枕に三輪明神が現れ、姫にこう告げたのだ。

「豊後国(ぶんごのくに:大分)に炭焼きの小五郎というものがいる。その者がお前の伴侶となるものだ。そして金亀ヶ淵で身を清めよ」

 都(奈良)から九州まで向かうのは命がけだが、玉津姫に行かないという選択肢はなかった。


 翌年、玉津姫は準備を整え、豊後国へと向かった。皮肉なことに、見た目の醜さが何度も彼女を救った。

 九州までの長旅となればどうしても大所帯になり目立ってしまう。そして、そういう旅人を標的に悪さをする輩は大勢いた。身ぐるみは剥がし、人は奴隷として売る。それを生業としているものは大勢いた。もちろん、そんな者から第一に狙われるのが牛車に乗っている者、すなわち玉津姫となるわけだが、盗賊たちは彼女を見た瞬間、一瞬動きが止まる。その後は恐怖でその場から逃げ出すか、周りの護衛のものに始末されるかのどちらかだった。最初、玉津姫はその盗賊たちに怯えて、彼らの反応に悲しんでいたのだが、自分が笑うと逃げるということを発見してからはなんだか盗賊が来るのが楽しくなり、自分の顔の痣もなかなか捨てたものではないのかもしれないと考え始めていた。姫がそういう風に考えられるようになったのは、旅をすることで新しい広い世界を知ったからなのかもしれない。けれども周りの人にとって彼女の痣は恐怖の対象でしかない。その認識の差を埋められないことが、彼女は悲しかった。

 彼女の痣で何度も一命をとりとめたものの、やそれでも九州までの道のりは厳しく、全ての共のものが死んでしまった。桶を渡してくれた親同然の女官も死んだ。結局、姫の手元に残っているのは懐に隠した黄金のみで、顔を覆う布さえも、旅の途中で無くしてしまった。

「この辺りが目的地なのだけれど...」

 目的地周辺に来ても、姫はどうしても小五郎の家を見つける事が出来ずにいた。嫌な顔をされながら人に尋ねても見つからず、しまいには日が暮れ始めた。どうしようかと途方にくれていると、一人の老人が姫に声をかけてきた。

「お困りですかな?」

「炭焼きの小五郎さまを探しているのです」

「小五郎の家なら知っているが、今夜はもう遅い。あした案内しよう。今日はうちに泊まっていきなさい」

 疲れていた姫は老人の言葉に甘えることにした。老人の家は、豪華とは言えないが、姫にとって大変居心地の良い家だった。姫が一人で眠るための部屋はあるし、不思議なことに、二人分の食事が用意されていた。しかし老人に妻はいないという。そしてなによりこの老人は、自分の痣を見ても恐怖の感情を抱かない。まるで姫のために設えられたような家だった。

「ご飯美味しかったです」

「そうかそうか。もう夜も深い。明日に備えて眠りなさい」

「はい。...あの、ありがとうございます」

「なにがかな?」

「私を怖がらないでいてくれて」

 そういうと老人はなぜか少し申し訳なさそうな顔をした。しかし、姫は初めて痣を見ても怖がらないで人に出会えた喜びでその表情を読み取ることができなかった。満たされた気持ちで布団に入り、翌朝目を覚ますと、そこには姫が泊まった家も老人の姿もなく、姫は地面に横になっていた。そしてそばにはまるで姫を守るかのように多くの葉が茂った大樹が一本立っているだけだった。そして姫の視線の先に、粗末なあばら家が一軒だけ立っていた。きっとあれが小五郎の家なのだろう。

 姫は大樹の方に振り向いた。

「ありがとう」

 それから姫は振り返らずに、小五郎の家に向かって走り出した。


「ごめんください」

 玉津姫が声をかけても、部屋の奥からはなんの反応もなく、留守のようだった。無礼だとは思ったが、立て付けの悪い扉を開けて勝手に中で待たせてもらうことにした。

 最初は起きて待っていようと思ったのだが、長旅の疲れは思いのほか姫の体を蝕んでいたようで、彼女はいつの間にか眠ってしまった。彼女が目を覚ましたのは、立て付けの悪い扉が開く音が聞こえたときだった。半ば強引に扉を開ける音がしたと思ったら、全身真っ黒な男が部屋に入ってきた。

 姫は、今考えると部屋で待つというのはかなり迂闊だということに気づいた。

 もちろん、自分の身の安全という面でもそうだが、なにより自分の醜い姿を考慮に入れるのを忘れていた。顔の痣を持った娘がいたら、例え自分の部屋であっても恐怖で逃げ出す可能性は十分にある。

「なんでうちで寝とる?」

 しかし目の前の黒い男は扉を直した後、普通に声をかけてきた。驚くことも逃げ出すこともしない。

「小五郎さま、でございますか?」

「そうだ」

 玉津姫は姿勢を正して、頭を下げた。

「勝手にお宅に上がってしまって申し訳ありません。私、玉津姫と申します。小五郎さまに用事があったのですがお留守だったので、誠に失礼とは思ったのですが、中に入って待たせていただきました」

「なるほど。しかし見ず知らずの人の家で眠るとは、なかなかの強者だな。なぜ俺を待っていた?」

「三輪明神さまのお告げで、豊後国で炭焼きをなさっている小五郎さまという方が、私の夫となる方だというお告げがあったので、都からやって参ったのです。どうか私を妻としていただけませんか?」

「都から来たのか!そりゃあ難儀だったなあ。しかし申し訳ないが、私はあなたを娶ることはできない」

「どうしてですか?」

「俺に、君を養うことができるほどの余裕がないからだ」

 てっきり容姿を理由に断られると思っていたので、姫は自分から容姿について質問してしまった。

「私の顔が、怖くはないのですか?」

「俺も炭焼きを生業としているから、身体中いつも煤だらけだ。君の顔の痣と大した差はない」

 玉津姫は無意識のうちに自分の痣に触れていた。普段より熱を持っているような気がした。

「君はとても美しいよ」

 初めてそんな言葉をかけられて、玉津姫は何も言えなくなってしまった。その表情はどこにでもいる女子が見せるものだった。


「これをお使いください」

 そう言って玉津姫は、自分の懐から唯一最後に残った黄金を小五郎に差し出した。三輪明神からのお告げであったとは言え、ろくでもない男だったなら、このお金を使って再び都へと帰るつもりだった。けれど彼の言葉を聞き、玉津姫の心は決まった。

「それで足りなかったとしても、私と夫婦になっていただけませんか?小五郎さまひとりでやりくりできないのなら、私も働きます。私は、あなた様と夫婦になりたいのです」

「...わかった。これも一応貰っておく」

 小五郎は黄金に全く興味がないようで、よく調べもせずに乱雑に懐にしまってしまった。

「夫婦になっていただけるのですか?」

 そういうと、男は頭をガリガリとかきながら答えた。

「夫婦になるということがどういうことかはよくわからないが、そばにいたいならそばにいればいい」

 顔を洗ってくるといって小五郎はまた部屋を後にした。ほっとした玉津姫はまた、小五郎が帰ってくる前に眠ってしまうのだった。

 翌朝、玉津姫が目を覚ますとまた小五郎はいなかった。また夜に戻しか戻ってこないのだろうか。ここ2日まともなものを食べていないので、流石にお腹が空いていた。

 姫の予想に反して、小五郎はすぐに帰ってきた。両手には食料を抱えていた。

「朝食にしよう」

 小五郎は、早朝から村で食料を調達しに行っていたようだった。特にこれといった会話もなく、二人で黙々と食事をしていると、小五郎が突然口を開いた。

「淵に水鳥がいたので、あなたにもらった石を投げてみたのだが、鳥には逃げられてしまった」

「なんてことを!」

「何が問題なんだ?」

「あれは金ですよ!?」

「金、とは?」

 小五郎は金の価値がわかっていなかった。玉津姫が金の意味を説明すると、感心はしたが、やはりあまり興味がないようだった。

「ふーん。あんなものにそんな価値があったのか。あれなら窯の周りや淵の近くにごまんとあるのにな」

 淵、という言葉に玉津姫は引っかかりを覚えた。小五郎についてのお告げに加えて、玉津姫にはもう一つのお告げを三輪明神から貰っていたのを思い出したのだ。

「私を、その淵まで連れていってください!」


 その場所はとても静かだった。

 小五郎のいうとおり周りは金色に光る石であふれていたのだが、玉津姫はそんなものには目もくれず、一目散に淵へと向かう。そしてためらうことなく服を脱ぎ、淵の中に体を沈めた。

 姫が肩まで淵に沈めた瞬間、顔の痣が動いた。それは水際まで這い、音もなく水の中へと痣が出て行った。その様はまるで、窮屈な場所から逃げ出すような動きだった。そのまま痣は水の中を深く潜っていき、そのままどこかへ行ってしまった。

 玉津姫が自分の顔を覗き込む。もう反射した水面に痣は残っていなかった。そして、静かに顔をあげ小五郎を見ると、一部始終を見ていた彼は、ただ一言だけ彼女に告げた。

「やはり、あなたは美しい」


 それから二人は淵や窯の近くにある黄金を売り、金持ちになった。それから一人の大変美しい娘にも恵まれ、幸せに暮らしましたとさ。


(*2)水を張った桶

当時の鏡代わりとして使われていたもの、この物語は平安時代の話なのだが、当時は鏡が日用品として浸透していなかった。現在のように日用品として使われ始めたのは江戸時代から。全然関係ないが、不意にスマホやパソコンのモニターに自分の顔が映るのが本当に嫌。


※途中、押し間違いで玉津姫に関するデータが全て消えました。奇跡的にその前にコピーをかけていたから事なきを得たものの、皆さんも大切なデータは複数の場所で保存するように心がけましょう!


(真名長者伝説おしまい)


 やたらと長い恋愛小説を考えているうちに臼杵石仏に到着。

 噂の金亀の淵がこちら。嘘。金亀の淵はこことは別の場所にある。ここにあるのは化粧の井戸。一説によると、玉津姫が顔を洗って痣が消えたのがこの井戸だとも言われている。

 完全にただの聖地巡礼だなと思いながら、二人のラブロマンスが繰り広げられた(であろう)場所を眺める。ここで顔を洗ったら整った面立ちになれるだろうか。私は今の容姿のまま頑張っていきていく。

 ちなみに、上の話には続きがある。

 二人の間に生まれる般若姫が、天皇候補の皇子から求婚されるも断り続けていたので、しびれを切らした皇子が、下働きのフリをして屋敷に忍び込む(本当は兄との後継者争いにうんざりした弟か、都を離れる口実に姫を使っただけ)。ある日、般若姫は病に倒れてしまう。あらゆる手段を試したが治る気配はなく、伝家の宝刀神頼みで山王権現に祈願すると「三重の松原で竹笠の的を射よ」とのお告げ。しかし周りでそれの意味がわかる人はいない。唯一言葉の意味を理解でき、実行できたのが彼で、彼が般若姫を救ったということで夫婦は男に感謝し、般若姫と皇子は夫婦となった。

そんななか、兄の崩御により弟は都へ戻らねばならなくなった。しかし般若姫は子供を身ごもっている。なので皇子は姫に「男の子が生まれたらそなたとともに、女の子ならば子供はご両親に預け、そなただけ都に来てくれ」と告げて皇子は都へと帰って行った。

後に般若姫は女の子を産んで都へと向かうのだが、旅の途中で亡くなってしまう。姫の供養のために、両親の小五郎との玉津姫が建てたのが臼杵石仏と言われている。

 道半ばに倒れた般若姫を想いながら、ゆっくりと石仏を見て回り、昼過ぎに再び臼杵駅へ戻ってきた。最後にだんご汁を食べて、大分県を後にした。グッバイ大分。


 おやつどきに延岡駅に降り立った。宮崎県に到着である。

 宮崎県は九州地方南東部に位置し、県木にアフリカ生まれのフェニックス(*3)が選ばれるように、南国情緒あふれる場所。


【不死鳥のフェニックス】


 からだの30%くらいがハリポタでできている筆者からすれば、「フェニックス」といえばもちろん「不死鳥」のことである。

 不死鳥は、死んでも蘇ることで永遠の時を生きるといわれる伝説上の鳥のこと。

 なんとなく赤い鳥をイメージしてしまうのハリポタのせいだけではなく、寿命を迎えると自ら燃えさかる炎に飛び込んで死んだ後、再び蘇ることから、炎の赤色の羽を持つ鳥ということになっているようだ。

 ちなみに本当に不死というわけではなく500年ほどで死んでしまう。つまり、500年は死んでも蘇る。是非とも不死鳥に死をどう認識しているのか聞いてみたいところだがあいにく鳥語は喋れないので、大人しくチキン南蛮でも食べて我慢する。

 そんな不死鳥の起源は、エジプト神話に登場する聖なる鳥ベンヌがモデルではないかと言われている。

 ベンヌは太陽神ラーの神殿で燃やされている炎へ毎夜飛び込んで死に、翌朝にその炎から生まれると当時のエジプト人は信じていた。エジプト人にとって、ベンヌは夕方に沈み、朝に昇る太陽の象徴だったのだ。

この話を聞いた時、私の中で不死鳥の赤は炎の赤ではなく、燃える太陽の赤だという認識に変わった。


(*3)県木のフェニックス

南国の木をイメージして!と言ったらみんなの頭に浮かぶ木で間違っていないと思う。またはアローラナッシーに実が付いていない姿。不死鳥のように病害虫に強く、寿命が長いことからその名が付けられた。

日南海岸の海岸沿いにたくさん植えられているらしいが、個人的には「かくかくしかじか」という漫画で主人公が宮崎に里帰りした時、空港から家に向かうシーンに出てくる木というイメージが強い。

県木制定方法は国民投票だったらしく、候補木ほか2本に圧倒的な差をつけての勝利だったようだ。ちなみにフェニックスに加え、ヤマザクラとオビスギものちに県木となっている。


(ダブルフェニックス制覇)


 延岡駅を出ると目の前にフェニックスの木を見つけた。拝んでおこう。

 フェニックスを見つけて満足したので、そのまま踵を返して延岡駅へ戻る。夕食時までは、どこぞの神様のように、スタバ付きの蔦屋に引きこもることにした。紙の本がファッションとして扱われるようになって久しいが、どんな形でも、本を愛してもらえるのは嬉しい。そんなことを思いながら、電子書籍で小説を読んだ。

 まだ日が暮れきっていない夕方にホテルへチェックインした後、ひとつ寄り道をしてから晩ご飯を食べに向かった。今日の夕食は、延岡発祥の食べ物のひとつ、辛麺だ。

 冷房のよく効いた部屋で待っていると、すぐに料理がやってきた。明らかに辛そう。わざわざ食べに来たものの、筆者は辛い食べ物がとても苦手である。しかし、写真を見たら美味しそうと思ってしまったのが運の尽き。あとは食べるしかないのだ。

 思い切り麺をすすったが、思ったよりは辛くなかった。もちろん辛いが、卵が入っていることで味がマイルドになっていたし、それ以上にダシに深みがあって美味しいのだ。麺がもちもちでするする食べられる。しかし辛い。辛いものを食べた時の心地よい汗をかきながら、最後まで美味しく食べられた。

 汗が引くまでお店に居座っている間に、元気があったら行こうと思っていた愛宕山(*4)へ行く気が完全に削がれた。即座にホテルに戻り、扉が閉まると同時にベッドへ飛び込んだ。右手には寄り道の先で購入した破れ饅頭(*5)の箱を握っていたのでそれを開封し、寝っ転がったまま一個だけ食べた。うまい。あんこ最強。残りの5個は風呂の後だと心に決めて体を起こし、風呂場に向かう。

 結局、風呂上がりに残りの饅頭を食べながら眠ってしまうのだが、それもまた旅の醍醐味というものだろう。


(*4)宮崎県延岡市の愛宕山

あたごやま、と読む。

古事記に登場するある神様とある神様が出会った場所。だから恋愛成就の地として有名。更に夜景の美しさでも有名なのでカップルの巣窟であると予想される。

ちなみに、愛宕山は各地に存在する。

京都の愛宕山にある愛宕神社で防火の神(鎮火神)が信仰され、それが各地に広がった結果の一つが宮崎の愛宕山。だからいろんなところに愛宕山や愛宕神社が存在する。


(*5)破れ饅頭

延岡発祥のお菓子。ところどころから中のあんこがみえる薄皮饅頭。オガタマの実がモチーフとなっている。

とある神様が引きこもっていた時に、別の神様が木の枝を持って面白おかしく舞い踊った結果、引きこもりの神様が出てくるという有名な神話があるのだが、そのときの枝が、オガタマの木なのだ。

ちなみに、オガタマの実とやぶれまんじゅうの見た目はあんまり似ていない。(当社比)



3日目に続く


#日本一周 #行ってない




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ